第6話 母親達(過去編)
スタンピードの戦功のお祭り騒ぎも終わり、私が二十四という若さで第三騎士団の第二部隊長として就任した。エイベルは三つ下だから二十一になっていた。
スタンピードで壊滅した部隊が再編されたとき何故かエイベルは私付きの補佐役になっていた。何もかも異例尽くしだったといえよう。気がつけばエイベルは私の補佐役として公私に渡って側にいた。
それから陰日向なく働いてくれるエイベルには感謝していた。もちろん密やかな大人のお付き合いもしていた。
今回のスタンピードはイレギュラーのことが多く、第二騎士団の一部が王都に常駐となり調査をしていた。今回のスポットは小さいながら各地に現れていたのでその対応に騎士団総出で対応していた。
そして、アニー隊長の名は王都にどんどん広まっていった。
噂で私が孤児院出身ということも広まると私に面会人が増えた。
今日も第二隊の街の詰め所にやって来たのは、私の母親と名乗る女性であった。
「私がお前の母親だよ。アニー、今まで悪かったね、これからは一緒に暮らそう」
涙ぐみながら母と名乗った女性を私は眺めた。
「はあ、そうですか。で、どちら様ですか?」
「なっ、それが母親にする態度かい?!」
「でもねえ。そもそも似てないし」
彼女の髪は亜麻色の髪で紫の瞳の老女だった。赤毛で金の瞳にはとても見えない。
「つっ、そ、それはあんたは父親に似たのさ。その赤毛と瞳の色は父親そっくりだよ!」
「ふううむ。そうですか……。そう来るか」
「そうだよ!」
我が意を得たといった感じで女性が満面の笑みを浮かべた。
「……でも、あなたで五人目なんですよ」
「へ?」
「母親だと名乗って出てきたのは」
私は面白そうににやりと笑って彼女を見下ろした。
「そ、そりゃあ、他の人は偽物だったんだよ。あたしが本物だよ!!」
「そうですか。では証拠をお見せください」
「は、へ? しょ、証拠って。そんなもの……」
さっきまでの勢いは無くなり口ごもり始めた。
「実は母親の証拠となるものが私の手元には残されているんですよ。あまり知られていませんがね。それについてご説明してくださいますか? そうすれば母親と認めましょう」
「えっ、そ、それは、その……」
「ふーん。私の身分は騎士なので、その私に対して虚偽申告をしたとなると、一般人相手に言うのでは訳が違いますよ?」
私は彼女にずいっと近寄って見せた。
「ひっ」
「まあ、今すぐに認めるなら見逃してもいいでしょう。可哀想な孤児の母親になりたいといった母性とやらに免じてね」
私がそう言い切ると女性は自分の不利を悟ったのか、慌てて立ち上がると何も言わずに出て行ってしまった。
「やれやれ。自称母親が多すぎる。もうママのお乳を欲しがる歳ではないのだがな」
自称母親を見送っているとエイベルが急いでやって来た。
「アニー、騒ぎを聞いて……。もう、追い返してしまったのですか。きちんと相手の素性を調べておかないと……」
「わざわざそんなことまでしなくてもいいよ。こんなことでエイベルを煩わすまでもない」
「母親認定を鑑定師にしてもらわなくても分かるのですか?」
貴族は魔力があるものがなる。逆に魔力がないと貴族とは言えない。貴族に生まれても魔力が無ければ平民へ落とされる。それが王国やこの世界ルール。稀に平民の中にそういったものが生まれると貴族や国に引き取られることとなる。微力でもあれば貴族になれるのだ。貴重な魔法の使い手を優遇するためにそうなっている。
だから、貴族は産まれた時に鑑定師によるステータスの簡易検査があり、魔力の有無やどういった魔法の素養があるのか早い段階で分かるようになっていた。
貴族は義務付けられていて定期的に魔力の有無を確認される。
魔力は親子では性質が似ていることから親子鑑定も出来る仕組みになっていた。別に魔力鑑定をしなくても庶民の親子鑑定くらいなら鑑定師のスキルで判別はできる。
そして、そもそも平民は魔力検査などしない。するとしても希望する者や魔力を発現させた者だけだった。
「それに私は生まれ落ちた時から母はいない。自分で生き延びてきただけだ」
そう、それが私の証。私が今まで生ききたという証拠。
「……」
「そんな顔をするな。エイベル。今はお前がいる。それだけでいいんだ。私は幸せだ」
「アニー、俺は、ずっとあなたを……、あなただけを愛しています」
「おっと、勤務時間中だ。とっとと仕事しよう。エイベル」
私はエイベルの告白を聞かなかったふりをして部屋を出た。
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