第3話 オッパイの語源は大陸由来か?
「そして通説その4だ」
「なんや、まだ通説あるんか」
「一応4大通説の最後だよ。古代朝鮮語で女性の胸を意味する『パ(吸う)・イ(もの)』からとする説だ」
「なんで古代朝鮮語やねん? まあ、そんなに古くから残ってた言葉やったら、古語辞典にも『おっぱい』とか『ぱい』とか出てそうやな」
「オレもそう思った。手元にある岩波の古語辞典で調べてみた。『おっぱい』も『はい』『ばい』『ぱい』も『はひ』『ばひ』『ぱひ』も調べた。だがオッパイに関連する単語は見つからなかった。『
「全然だめやん!」
「ちなみに現代の韓国では、乳房は
「例のWikipediaでの出典はどないなっとるん?」
「それがコチラも “あの美しくやさしい膨らみを「おっぱい」と名付けたのは誰か”. NEWSポストセブン (2017年12月2日). だとさ」
「またかいな。週刊誌の記事をアカデミックな話の情報源にするのはアカンて!」
「この根拠もどうやらネットの『語源由来辞典』が元のようだ。ただし、コチラも『意味の面では通じるが、古代朝鮮語が突如近世に現れ、幼児語として用いられるようになった点が不自然である』と批判的だ。もっともだ。まぁ何がなんでも、日本語と古代朝鮮語を結びつけたがる人もいるのは事実だ」
「日本語のルーツに古代朝鮮語も含まれるのかもしれへんけど『オッパイ』についてはやっぱ無理があると思うで」
「だな。無理があると言えばWikipediaにはもう一つ気になる学説があった」
「民明書房よりもマイナーってアカンのとちゃうか? どうせトンデモ学説やろ?」
「真面目なんだけど無理を感じるんだよな。引用するぞ。『類語である「ぱいぱい」の語源としてサンスクリット語またはヒンドゥスターニー語の"pai(乳)"・"pāyin(乳を飲む)"を挙げる文献もある』だと。注には山中襄太『続・国語語源辞典』校倉書房、1985年7月25日、350頁とあった」
「インドかあ。意外やなあ」
「うむ。でも昔のインドの言葉ってサンスクリット語の仏教用語ばかりだけど、中国経由でしか日本に入って来ないぞ。僧はサンガから、卒塔婆はストゥーパから、檀那(旦那)はダーナからで、みんな元はサンスクリット語だったのが漢字に音訳されて入ってきたんだ」
「せやったらワンチャンあるやろか?」
「ないな。インド由来が本当だったら中国経由のお経や文献の中に乳房や乳汁、または『母乳を飲む』という意味で『オッパイ』とか『パイ』もそれよく似た発音の単語が漢字で残っているはずだ。でもそんなの聞いたことないぞ」
「せやな。昔の日本にインド発祥の単語が中国経由以外で持ち込まれるのはまずあり得へんし、中国経由やったらその漢字が残らなアカンわな。ようわかるわ」
「さっきの学説での単語も検証してみた。ヒンドゥスターニー語って要するにヒンドゥー語とウルドゥ語の事なんだけどな。少なくとも現在のヒンドゥー語で乳房の事はस्तन(スタン)だし、乳汁はदूध(ドゥーダ)だ。『母乳を飲む』場合の『飲む』はपियें(ピーエン)だったから、コレはさっきの説のパーインみたいな発音にちょっと近い」
「ぴえん🥺かい! オモロいやんけ!」
「オレとしてはスタンの方がツボだった。ヒンドゥー語を話してる人たちにはスタン・ハンセンは『
「おっぱいハンセン〜(爆笑)😂アカン。それアカンわ! タイガー・ジェット・シンもやりにくかったやろうなあ」
「話を戻して古語のサンスクリット語の方も少し苦戦したが調べた。乳房は स्तन (スタナ)で、乳汁はदुग्धं(ドゥグダハム)だ。『母乳を飲む』場合の『飲む』は पिबन्तु(ピーバティ)だ。今はネットでこんなことも調べたらわかるんだな。さっきの学説の発音もやっぱり鵜呑みにはできない。少なくとも裏付けることができなかった」
「ホンマや。昔はネットでの検証なんてできへんかったから調べるんも大変やったろうし、偉い学者さんなら言うたもん勝ちやったかもしらんなあ」
「そうだな。さあ、そこでいよいよ真打ち登場だ。オレの発見の新説。『オッパイ』は16世紀、戦国時代に日本に伝わった外来語だ! その語源は・・・・・・」
つづく
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