vs『パラどこ』
第39話 陽キャコンビ
『突然だけど』
『重大発表まで』
『3』
『2』
『1』
めちゃめちゃミニスカにした満重センパイたち三人が、スマホの画面の中で腰を振っている。
『実は』
『うちのナオちんが』
『アイドルすることになりました』
両脇のミカちん&ルカちんが、満重センパイに向けて手をパタパタと
『詳しくは』
『明日』
そこで動画は終わった。
これは先輩たちが放課後、オレたちの教室に押しかけてきて撮影したピックポック。
先輩たちの登場に、クラスメイトたち(特に男子)は
にしても。
(エロいっすね!)
パチッ!
とたんに野見山から
マジでなんなんだ……こいつの
オレが先輩たちにエロい気持ちを抱いたら反応するセンサーでも持ってるのだろうか。
ここは例の河川敷。
教室でピックポックを何本か撮った後、練習をすべく、六人でここへと移動してきていた。
そこで、たった今投稿したてホヤホヤのピックポック動画を見てたってわけ。
「今日は、まだ『Jang Color』に入ったこと言わないんですね」
「うん。ピックポックはショート動画だからね。出す情報量は最小限にしないと。入ったことは、明日の動画で言うかな。それから一日ごとにゆらちゃん……あ、ゆらちゃんでいいよね? それとも『ゆらちん』の
「あ、いえ、『ちゃん』……の方がいいです、はい……」
「そっか、ゆらちゃん。それから愛ちんの動画を出していくから」
湯楽々の質問にテキパキと答えていくルカ先輩。
こうして撮影風景を
「ちょっと。なんで私だけ『ちん』で呼ばれているのかしら? 私にも『ちゃん』か『ちん』か、どっちで呼ばれるか
「愛ちんは愛ちんが呼びやすいよね」
「んだな~! 愛ちんでいいっしょ! 愛『ちゃん』って感じでもね~し!」
ルカミカ先輩の
(おお……野見山の厄介っぷりを
「で、詳しく教えてよ。あんたら、なんで解散賭けたライブなんかしてるわけ?」
「そ、それはですね……」
オレは
「なにそれ! 楽屋泥棒!? めっちゃムカつくじゃん! 運営ならその場の人間の荷物全部ひっくり返すくらいしろよ!」
ミカ先輩が顔を真っ赤にして大声を立てる。
「ミカちん、気持ちはわかるけどそりゃムリだよ。もし学校で起きたんなら先生がそれを出来るだろうけど……」
「チッ、マジかよクソやべえな、アイドルって……! にしてもムカつくぜ! 絶対
ミカ先輩は、まるで自分のことのように腹を立ててくれてる。
前に敵対してた時は、面倒な人だなと思ってたけど……。
今は、その仲間思いな熱さが、ちょっとだけ胸に来る。
「とりあえず、ライブの条件教えてよ。被害者なのに解散だなんて私も納得いかない。徹底的に対策立てて相手をコテンパンにやっつけよう」
クールなルカ先輩も表情にこそ出さないものの、怒ってくれてるようだ。
オレとしても渡りに船。
今までは一人で突っ走ってきたけど、客観的な意見を言ってくれる人がそばにいてくれるのはありがたい。
「はい、ライブはですね──」
□ 11日後の日曜。
□ 夜。
□ 20時40分から20分間。
□ 動員数は、入場時に
「20分……ってことは、4曲やるの?」
「そうですね。MCを今から上達させるのは難しいと思うので、4曲を詰め込むのがいいかと……どうでしょうか?」
ルカ先輩の顔色をうかがう。
「たしかにね。慣れてないMCほど客席が冷えるものはないもんね」
「ですよね……。なんで『ゼロポジ』と、あと三曲です」
「カバー入れるなら『あなたの二番目に好きなところ』入れよう。フルフルワイパーの。あれピックポックで去年
「ですよね。じゃあ、それ一曲目で。二曲目は『ドルオタ入門キット』に繋げます」
「いいね。『iタイッス!』。盛り上がると思う。で、次は?」
「次……。最後は『ゼロポジ』かなって思ってるんですけど……」
「うん、私もそう思う。となると、その前に繋ぎの曲が欲しいかな。曲調っていうか、聴いてる側のテンション的に」
「繋ぎ……たしかに」
さすがルカ先輩。
女オタだから?
目の付け所がちょっとウェットな感じ。
「ならさ! 作ろうぜ、曲!」
おもむろに立ち上がったミカ先輩が叫ぶ。
「ナオちんメインの! 曲が! 見たいぜ~~~!」
「私メインの……曲……?」
ピックポックを撮影してる時以外は一番地味な満重センパイが、ポツリと呟く。
「満重センパイの曲……」
瞬間。
頭の中に
えちえちふとももな満重センパイ。
意地悪で上から目線の満重センパイ。
でも、それは本当は友達の家計を助けるため。
お兄ちゃんに気にかけてもらうため。
そのために「稼げる」キャラクターを演じてた満重センパイ。
本当の満重センパイは。
地味で。
大人しくて。
引っ込み思案で。
お兄ちゃん大好きっ子で。
依存度SSSな。
優しくて、センスのいい女の子。
そんな満重センパイのイメージが。
歌詞となって。
曲となって。
オレの頭の中に一気に吹き荒れてきた。
「出来るかも……いや、出来る……と思います」
「マジ!? さっすがウチらのナオちん! 後輩くんの創作意欲を刺激しちゃったっぽい!?」
書ける。
いや、書きたい。
曲を。
満重ナオという一人の人間の──曲を。
この逸材の存在を。
オレの手で、世界に知らしめるんだ。
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