第38話 ミカちん&ルカちん
【解散を賭けたライブまで残り11日】
昼休み。
いつものベンチ。
そこに集まったオレ、野見山、湯楽々の三人。
と。
満重ナオ。
ギャルのミカちん。
姫カットのルカちん。
の三人が、ベンチを挟んで向かい合っていた。
「いや、ってかマジかよ……ほんとに、ナオちんアイドルやんの?」
「うん、朝説明した通り。この子達にも謝ってもらったし」
「いや、たしかに謝ってもらったけどさぁ……」
今朝、一限目を抜け出したオレと野見山は、例の視聴覚室で満重ナオ、ミカちん、ルカちんの三人に直接謝罪をしたのだった。
単に意地の張り合い、煽り合いみたいになっていたオレたち。
こっちが折れると、向こうも簡単に折れて「いや、今から考えると、こっちもちょっと意地が悪かったかも。ごめんね」と謝ってもらえた。
で、そこからの満重センパイの『Jang Color』加入報告。
詳しくは湯楽々も揃った昼休みにってことで──。
今。
こうして総勢六人が、オレたちのお昼の隠れ家、裏庭ベンチに大集合してるってわけだ。
「マジかぁ……ナオちん、アイドルになっちまうのかぁ」
「うちらのカリスマだもんね、ナオちん。アイドルくらいならなっても当然っしょ。ま、入るとしても最低限ミノリンズグループくらいの地下大手がナオちんの妥協ラインだとは思うけど……まだ一回しかライブもやってない。曲も一曲しかない。メンバーも二人しかいない。経験者もいない。運営が高校生。しかも半オタ。なにもそんな『ド地底グループ』に入らなくても……」
姫カットのルカちんが、ため息混じりにそう話す。
言葉はきついが、全部事実だ。
「アハハ……いやはやごもっともで。あ、でもルカ先輩ってアイドル詳しいんですか? ミノリンズとか……」
「そういえば、昨日も私たちのライブ動画の感想……みたいなこと言ってませんでしたっけ?」
「言ってたわね。きっと私たちのことが気になってしょうがないのね、先輩たちは。そして私たちの美しさと高貴さに
うっ……っとのけぞるルカ先輩。
「アハハ~、ルカちんはアイドル好きだもんな~。ほら、今言ってた……なんだっけ? ミノムシズ?」
「ミノリンズ! 『実りあるヒロイン
あれ、一息でドバァーと喋るこの感じ。
なんか身に覚えがあるぞ?
もしかして。
「ルカ先輩って、オタク……だったりします?」
「アハハ~! 正解! ルカちんはアイドルオタクなんだよな~!
「ちょっ……ミカちん! 言わないでよ、恥ずかしい!」
いくらオタクが世間から人権を得てきたとは言っても、いきなりオタクであることを暴露されるのは恥ずかしいよな。
気持ちはわかる。
そして、たいていドルオタというものは。
「ちなみにミノリンズのどこのオタクなんですか?」
こういう質問をされたら。
「……『iタイッス!』だけど」
「あぁ、いいですよね、『iタイッス!』。オレ、
他のオタクから、こういう風に返されて。
「あ~、そうなんだ!? ナノカちゃんかわいいよねっ! 新曲見たっ!? 今回もマジサイリウム曲って感じで……」
こうなる。
オタク特有の早口喋り。
いま人気の地下アイドルなんて前世(他グループに所属していた経歴)持ちがほとんどだ。
だから、ミノリンズくらいの地下大手ともなると、オタ同士が「よさ」を確認し合う作業がとてもしやすい。
「ルカ先輩は、それでオレたちの動画も見ててくれてたってわけなんですね」
「まぁ、そうね。一応。自分たちの学校のアイドルがどんなもんか知っておきたかったし」
「で、どうでした? その……オレたち」
ごくり。
ドルオタのオレの思い込みと勢いで突っ走ってきた、この一週間。
はたして『Jang Color』は、他のドルオタの目にはどう
「う~ん、
「そ、そうですか……」
「とりあえずオリジナル曲だけでライブできるようにならないとなんとも言えないかも。衣装やアー写、振り付けに楽曲、どれも言ってみれば『サンプル盤』って感じだから。最終的に何人グループで、どうなりたいのかも見えてこないし」
サンプル盤……まぁ、たしかに。
くぅ~……いちいち例えが的確だぜ、この先輩。
「でも」
グサグサと現実を突きつけられてうなだれるオレの頭に、ルカ先輩はモゴモゴっとした早口でこう続けた。
「嫌いじゃない、かな。あの『ゼロポジ』って曲。ドルオタには響くと思う、うん。ちゃんと編曲し直せば定番曲になるかも。もちろん、衣装とかメンバーとかちゃんとしたアー写とか揃え終わってからの話だけど」
おおっ!
届いてた!
ドルオタの!
しかも女オタに!
場末のイベントスペースでの!
オレたちのライブが!
「湯楽々、野見山!」
パァン!
顔を見合わせてハイタッチするオレたち。
そして。
「ルカ先輩! 見てくれてありがとうございます!」
「あらあら、ルカ先輩、意外といい目をしてるじゃないの。見る目があるってやつ? あんな暗い照明のブレブレの動画の中から私たちの可能性を
ルカ先輩を左右から取り囲んで感謝の気持ちをぶつける湯楽々と野見山。
うん……そうだよな。
楽屋泥棒のゴタゴタで、オレもちゃんと二人を褒めてあげられてなかったもんな。
やっぱり……嬉しいよな。
自分たちのライブが認めてもらえるってのは。
なんか、今やっと初めて。
「ライブを終えたんだ」
っていう実感が湧いてきた。
「ちょ、ちょっと! あんまりくっつかないでよ!
「ナハハ! ルカちん、後輩にモテモテじゃん! ま、これからはナオちんがアイドル活動するんだ。うちらも全力でサポートするからさ! あと十一日、だっけ? 時間もねぇし、やることやろうぜ! ってことで! よし、昼メシ食おう! 昼休みも残り時間少ないし!」
「あ、あっちに一個ベンチが余ってたから、それこっちに持ってこようよ」
ミカちん&ルカちん。
明るいミカちんと、裏でそれを支えるルカちんって感じだ。
非常にバランスがいい二人。
「みなさんって、昔からの友達なんですか?」
向かい合わせに並べたベンチに座って昼食を取るオレたち。
意外にも、先輩たちのお弁当はミカ先輩の手作り三人分だった。
「んにゃ、私とルカちんが中学校からのツレで、ナオちんとは
ミカルカの間に挟まれて、借りてきた猫のようにしおらしく座ってモソモソとお弁当を口に運んでいる満重センパイ。
「えっと……満重センパイ、大丈夫なのかしら? あまりに元気なさすぎて心配になるのだけれど?」
たしかに。
お昼休みになってから一言も喋っていない。
昨日のブラコンバレが、まだ尾を引いているんだろうか。
「ああ、ナオちんなら気にしなくていいよ。いつもこんな感じだから」
「えぇ!? そうなんですか!? ずっとあんな感じかと思ってました!」
素直に驚く湯楽々。
湯楽々が言うと悪気なく聞こえるから
「あ~……。ナオちんってさ、元々大人しい子なんだよ。あ、これ言っていいよね?」
「うん、もうお兄ちゃんのことも知られちゃったし」
タカビーな、
「元々はさ、うちらが先生と揉めてたんだよね。ほら、こんな
ミカ先輩の家は大家族で貧乏。
満重センパイの家は、離婚してセンパイを引き取った父親が渋谷でやってた服屋を潰して借金背負ってこっちに引っ越してきて、今でもロマンを求めて赤字のクラシックカー屋さんなんかをやってるらしい。
で、再生数を伸ばすために、ああいう格好やキャラを作り上げていったのだそうだ。
まぁ、満重センパイに限ってはお兄ちゃんへの構ってアピールって面もあるんだけど……。
つまり。
ああしてオレたちと強引にコラボしようとしてたのも、それなりの理由があったってわけだ。
別に。
理由があったからって他人を馬鹿にしていいわけではない。
でも。
それでも。
まぁ、納得はいったわけで。
キーンコーンカーンコーン。
と、ここで昼休み終了の鐘。
なにはともあれ。
こうして、オレたち『Jang Color』は。
明るいギャルのミカちん。
裏方志望のアイドルオタク、ルカちん。
という心強い二人の味方を
ただ……なんだろう。
借りてきた猫状態の満重センパイが、オレのことを。
ジィィィィ~。
っと、
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