となりの席の野見山さんは5億人を動員できるスーパーアイドル! ってことに気付いてるのは、頭の上に【動員力】が見えてるオレだけ(ちなドルオタ)なんですが、どうすりゃいいですか?

めで汰

「地底アイドル」編 1人目のメンバー

第1話 数字が見えるようになった

 オレ、白井聡太しらいそうた十六歳は、ある日突然女の頭の上に数字が見えるようになった。

 男の上には見えない、女だけ。

 放課後の電車に乗り合わせてる見知らぬ女子高生たち三人の頭の上に浮かぶ『8』『2』『1』の数字。


(はは~ん、これは漫画とかでよくある経験人数的なあれってことか?)


 そう思い、若干鼻の下を伸ばしながら、家に着くまでにすれ違った女たちの数字をチェックしていく。

 数字は大体どれも一桁。

『3』とか『4』とか。

 まぁ、多くても十台前半。

『12』とか。

 十台後半はほとんどいない。

 そして。

『0』は一人もいない。


(う~ん……もしこれが本当に経験人数だとしたら、世の女は全員経験済みってことになるぞ……? いいのか、そんな世の中で……?)


 童貞のオレ氏、軽く絶望しながら家に到着。

 ギリギリ都内の駅から徒歩十四分。

 ちっちゃなちっちゃな一軒家だ。


「ただいま……」


 玄関を開けると、どこかに出かけようとしてる妹、白井さらら十四才とばったり出くわした。

 その妹の頭の上に浮かぶ数字は──。


『27』


 うん、どうやらこれは経験人数ではないらしい。

 女子中学生で男にも興味なさそうな妹が、まさかまさか二十七人もの相手といたしてるだなんて天地がひっくり返ってもありえない。


「げっ、兄貴じゃん。なに青い顔して。具合でも悪いの? あっ! 私、今からうるるのチェキスタッフだからさ! 現場被ったりしないよね? マジで気まずいから! 地下ドル現場で兄妹が顔合わせるのとか!」


「うるる」ってのは妹さららの友達で地下アイドルをやってる子。

「チェキスタッフ」ってのは、さららがうるるのライブの特典会でやってるバイト。

 んで、オレの趣味は地下アイドルのライブ鑑賞。

 しかも無銭イベント専門。

 要するに、お金がないから無料で見れるイベントだけ行ってるってわけ。

 それで「現場」ってのは地下アイドルの対バンフェスイベントの現場のことね。

 たしか、今さららが言ってたイベントは有料だったはず。

 だから、当~然ビンボーなオレは行かない。

 ただ、なんとなくそれをそのまま伝えるのもシャクだったので──。


「27」


 さららを指差して意味ありげにニヤリと笑ってやることにする。


「は!? ちょ、ちょっと! 27ってなんだよっ!? ねぇ、兄貴! ねぇってっ!?」


 悪いな、さらら。

 聞かれたってオレにもわからないんだ。

 ただ、お前は『27』

 それがお前の数字だ。

 どうだ、なんの数字かわからないからモヤモヤするだろう?

 オレだってモヤモヤしてるんだ。

 だから、どうかそのモヤモヤをオレと共有ままバイトへと向かってくれ、すまん。


「フンフフ~ン♪」


 妹にモヤモヤを押し付けてちょっとスッキリしたオレは、スタスタと階段を二階へと上がっていく。

 途中、リビングで煎餅かじってる母親の姿がチラリと見えた。

 その……もちろん数字も。

 ちなみにその数字は──『45』

 うん……。

 やっぱり経験人数じゃないな、これ……。

 もし、これが経験人数だったらオレの精神は崩壊する……。

 なので経験人数じゃない……。

 絶対にだ。



 その数字が【動員数】だとわかったのは、テレビで『アイドルグループ飛鳥山55の霧ヶ峰リリがソロで武道館ライブを行い8000人を動員』というニュースを見た時だった。

 現役最強アイドル霧ヶ峰リリ。

 何年も日本のトップに立ち続けている『飛鳥山55』の不動のセンター。

 その頭の上に、燦然さんぜんと輝く『8000』の数字。

 他の人の数字は黒や赤なのに、霧ヶ峰リリのだけ金ピカだ。


 その後、色んなアイドルのワンマンライブの動画を見て確信した。

 Zepp TOKYOで行われたライブ動画のメンバーの頭の上に浮かんでる数字を足していく。

 すると、ちょうど『2000』になる。

 新宿クレイズだと『400』。

 渋谷オーイェストだと『200』。

 間違いない。

 オレに視えてるのは、その人の持ってる潜在的な【動員力】だ。


 ってことで、寝た。

 別に動員数が見えたところで、オレの生活に何も変わりはないからね。

 動員数を気にしてるのなんて、毎日ライブやってる地下アイドルくらいのもんだ。

 ただのオタクのオレごときに動員力が見えたところで「だから?」って感じ。


 まぁ……地下アイドルグループを作ってみたいと思ったことは、ないことはない。

 もしかしたら、この能力はメンバーだったりのスカウトに役立つのかも知れない。

 けど……けどさ?

「自分がアイドルグループを作る」なんて、そんなのアイドルオタクなら誰でも一度は考えることだろ?

 ま、夢みたいなもんだよ、夢……。

 オレにアイドルグループを作るなんてムリムリ。

 ただの高校生だしね、オレ。

 ふわぁ……。


 ねむ……。



 翌朝。

 登校しながらオレは、通学路に浮かぶ女子たちの数字をぼんやりと眺める。

『3』『4』『2』『7』『2』『11』『6』『1』『5』『3』『2』『8』『3』

 ほとんど代わりの映えしない数字たち。

 一桁の数字は黒字で、│まれにいる二桁の数字は赤字で記されている。

 ちなみに、昨日動画の中で見た売れっ子アイドルたちの三桁の数字は銀色だった。


(霧ヶ峰リリは四桁……金色だったなぁ。やっぱ日本一のアイドルってだけあって別格なんだろうな……)


 ガラッ。


 そう思いながら教室のドアを開けた──瞬間。


(ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?)


 目に飛び込んできた。


 虹色。


 オレの隣の席の超地味子、野見山愛の頭の上にキランキランに光り輝く──。


『5億』


 の数字が。



──────────

【あとがき】

 この小説を開いていただいてありがとうございます。

 これから白井くんと野見山さんが、のんびりペースで一歩ずつアイドルの階段を上っていきます。

 非常にスロ~な歩みですが、みなさんにもお付き合いいただけたらとても嬉しいです。

「♡」や「☆☆☆」なんかもいただけたらめちゃめちゃやる気も出ます。

 ぜひぜひ不器用な白井くん&野見山さんの歩みを、今後とも見守っていただきたいです。

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