第34話 美少女JKモデル、ガチでブスの現実に直面する②


 ウチは困惑する。


「な……なんでよ、あの子、どう見てもイジメられてんじゃん。絶対アイツらカバン持つ気ないよ。ウチ、持たせる側だったからよくわかるし」

「今助けても……あとでもっとやられるだけだから……」


 ウチがその言葉を理解できないうちに、小学生の群れはすぐ去ってしまった。

 その後を、カバン少女が、せっせと走ってついてく。


 ……不愉快だった。


「よくわかんない。紗凪はあの子の味方じゃないの? 同じブス仲間でしょ」


 ウチがベンチに座り直してきくと、紗凪は悲しそうに顔を歪めた。


「山崎さんは知らないかもしれないけど……そんなに単純じゃないんだよ、イジメられるって問題は。そもそも、いじめの自覚、ないかもだし……」

「はぁ? いやいや、イジメてるほうはみーんな、イジメてるってわかってやってっから」


 ウチは自信を持って言い切る。

 いじめる側に自覚がなかったなんてこと、実際はほとんどありえんし。

 『ふざけてるだけのつもりでした』っつーのは、万引きで捕まって、レジ通すの忘れてましたっつーのとまったく一緒だ。


「あ、いじめる側じゃなくて……いじめられてる側の話です……」


 紗凪がポツリと訂正する。

 それは、理解不能な一言だった。


「え……どゆこと? なに、あの子、いじめられてるってわかってないってこと?」


 ウチが眉をひそめる隣で、紗凪は諦めたように頷いた。


「……少なくとも昔のわたしは、自分がイジメられてるって思ってなかった。こんなわたしと遊んでくれてる。ツラいことをされるのは、自分が悪いんだって思ってきたの。だから、そのとき山崎さんが助けてくれても、きっと理解できなかったと思う」

「いや、意味わかんないし。なんでアンタが悪いのよ」

「ブスに生まれたから」


 紗凪の一言が、ナイフみたいにウチの胸に刺さった。

 ウチは、その言葉を言ってた奴を、よく知ってる……


「わたしね、小さい時からよく仲間外れになってたんだ。かくれんぼで見つけてもらえなかったり。ケイドロでわたしだけ脱獄させてもらえなかったり。氷鬼でわたしだけ解凍してもらえなかったり」

「あぁ、ありがちなやつな……」

「それで、ずっとわたしだけ狙われる理由がわからなかったんだけど、胸が大きくなってきたときに、色んな人に同情されてわかったの。『わたし、同情されるほどブサイクなんだ』って」


 彼女は長い脚をブラブラさせながら、苦笑する。


「それで全部スッキリしたっていうか。ブスだからイジメられてたのなら、もうそれは、仕方ないねって。私が不快な思いをさせてるんだもんねって。だから、少しイジられても、遊んでくれてありがとうって思ってたし、泣かされるって分かっててもついていってた」

「……じゃあなに。アンタ、節子たちにイジメられても、ありがとうございますなんて思ってたワケ」

「さすがに、今は分かってるよ。分かってるというか、心が先に無理になっちゃったというか……」


 そう言って、彼女は体を抱えるみたいに、右腕に手をやる。

 彼女のいつものクセだ。


 でも、ウチは本能でその腕を止めてた。


 行動の理由が、後から頭についてくる。


 待ってよ……確かこの子、さっきの店で、シースルー着れないとか言ってなかった……?

 夏でもいっつも長袖でさ。

 心が無理ってさ……


「紗凪、そのシャツの下……」


 彼女は「あ」と小さく呟くと、しばらくじっと俯いてた。

 それで、また諦めたように笑うと、


「……他の人にはナイショにしてね。心配かけたくないから」



 って言って、その袖をまくり始めた。




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