第13話 美少女JKモデル、ガチで転生バレする
「テンセイってなによ……」
「なんだ、知らないんスか。あ、なら、幽霊の憑依っスか? それとも宇宙人が寄生してるんスか? エリア51からの使者っスね! 正体を現せっス!」
よしひとが見るからに調子に乗ってる。
ウチはなんかイラッときた。
「人をバケモノ扱いすんな!」
とりま、頭を殴る。
「あいた――ッ! う〜、でも変っスよ〜。急に人格変わって記憶ないとか、普通の症状じゃ説明つかないっス〜」
よしひとがゲンコツをもらった箇所を押さえながら嘆く。
「……ハァァア」
ウチは、クソでかため息をついてしまう。
やっぱ、話さなきゃダメかぁ……?
変人だと思われたくないから黙ってたけど、もうすでに噂になってるみたいだし……
誰のもんか知らない自転車に寄っかかって腕を組む。
足元では、紗凪が不安そうな目でウチを見上げてるのがわかった。
紗凪は優しいから無理にきいてこなかったけど、ずっと心配されてたのはさすがに気づいてる。
ウチはもう一度デカいため息を吐いて、
「……絶対バカにしないでよ」
「! はいっス!」
この一週間で起こったことを全部話し始めた。
ウチは元々痩せた人間ばかりの世界にいたこと。
当然、元の世界では美人扱いだったこと。
ある日トラックに轢かれて、起きたら人間の体型と常識だけがひっくり返ってたこと。
女神と会ったことだけは、ガチで頭おかしいと思われそうだったのでぼかしたけど、それ以外のことだけでも、出来の悪い妄想を話してるみたいで充分恥ずかった。
「……っつーことで、この世界は天国か、夢か、なんかそういうヤツだと思ってんだけどさ。よくわかんねぇのよな、ウチも」
ウチはそんなフワフワした感じで締めくくる。
紗凪は、話をきく間、夢でも見るようにボーッとしてた。
対するよしひとは、ウチの話に何度も頷いてたけど、ウチが話し終わるとほぉっと息を吐いて、
「なるほどぉ……そういう設定なんスねぇ……」
と言った。
「……ちょ、それどういう意味⁉︎ りりあが嘘ついてるって言いたいの⁉︎ ︎アンタが正体出せとか言うから正体表したんじゃん!」
「いやそりゃそうっスけど、そんなSFチックな話、急に信じられないっスよ。あ、もしかして厨二病っスか?」
「ウッザ‼︎ 話させといてなにこの女ウッザ‼︎ アンタもりりあのこと頭おかしいって思ってんでしょ! ねぇそうなんでしょ⁉︎」
ウチは思わずヒスって叫ぶ。
心の奥から、マグマみたいな感情が湧き上がってくる。
自分でも意味わかんないくらい、ムカついてムカついてムカついて、仕方がなかった。
「みんなウチのことバカにして……! イカれた奴扱いして……!」
「ちょ、落ち着いてほしいっスりりあさん! ちょっとした冗談っスよ!」
「絶対……絶対りりあがおかしいんじゃないもん……おかしいのは世界のほうだもん……」
突然投げつけられた言葉に、この一週間耐えてきた心がついに折れ始めてた。
「え、ちょ、りりあさん……?」
「りりあだって、わかんないの……やっぱり自分がおかしくなっちゃったんじゃないかって思ったりもすんの……でも、病院でも異常なしって言われるし……ママもパパも知らない人だし……りりあもうどうしたらいいか……」
涙が溢れ始める。
りりあの頭に、誰かの手が優しく置かれた。
見上げると、いつの間にかウチの隣に立っていた紗凪が、ウチを撫でてくれてた。
ウチは紗凪のブラウスにしがみつく。
まだ濡れてる制服は、絵の具の特殊な匂いがした。
紗凪だって酷いことをされた後なのに、それでもウチを慰めてくれる……
なんて優しい子なんだろう……
「うぐっ……うぅ……さなぁ……」
今まで耐えてきた嗚咽が、ついに漏れてしまった。
「うーん、ちょっとカマかけただけなんすけど、少なくとも本人は本気っぽいスね……」
よしひとが気まずそうに呟く。
「今の山崎さんはそんな面倒なことしないよ」
紗凪がウチを撫でながら庇ってくれた。
うぅ、優しい……紗凪好き……一生推せる……
「んー。なら、今のりりあさんの話が全部実際に起こったことだとすると、転生してパラレルワールドに飛んできちゃったって感じっスかね。あえて分類するとしたらっスけど」
よしひとがまたきき慣れない単語を口にする。
ウチは紗凪の腕に包まれながら、鼻を啜ってきいた。
「パラレル……なにそれ……」
すると、よしひとは、まるで教師みたいに指を立てて、説明し始めた。
「えっとですね。つまり、この太ってる人が美人なこの世界と、今のりりあさん……『新りりあ』さんとしましょう……が元いた世界は、並行してこの世に存在してるんスよ。その存在は、互いの世界からは観測できないっスけど、どこかで繋がってもいるんス。同じ建物とか同じ名前の人物がいるくらいなんスから。それで、新りりあさんが車に轢かれたときに、なぜか並行世界が干渉しあって、新りりあさんの意識だけが、旧りりあさんの体に飛んできてしまった。っていう仮説っス。最近は、マルチバースって言い方もするっスね」
「……つまり、ウチは宇宙人だってこと?」
「全然違うっス」
りりあちゃんは、考えるのをやめた。
難しいことはよくわかんないけど、とりまもう完全に、ウチは別の世界にいること決定って感じらしい。
「そのパラレルなんとかの仕組みはいいけどさ……じゃあどうやったら元の世界に戻れんのよ……それを教えてほしいんだけど」
「え〜? わかんないっスよそんなの〜!」
よしひとが叫ぶ。
「んじゃ、なんかスーパー博士とかこの世界にいねぇの? パラレルなんとか研究家みたいなさぁ」
「いるとしたら、危ない人だから近づかないほうがいいと思う……」
紗凪がおずおず口にする。
「でもそっスね……帰るためには……んー……」
よしひとは長いこと黙り込んだかと、
「あ、ミスコンに出るとかどうっスか?」
突拍子もないことを言い始めた。
「はぁ⁉︎ ミスコン⁉︎ それがウチとなんの関係があんだよ」
「いや実は、ちょうどりりあさんが飛んできた日が、ミスコンの応募開始日なんスよ。なんかありそうじゃないっスか? おそらくこれに出るためにりりあさんは飛んできたんス! そういう運命なんス!」
ウチは無邪気に力説するスパンコール女の顔をじろっと観察する。
そういやコイツ、職員室でミスコンがどうとか言ってたな……
「……本当はなに考えてんのアンタ」
「りりあさんがミスコン出たら絶対面白いことになるっス!」
「行こ、紗凪。コイツダメだ」
ウチは傍らの紗凪を連れて、校舎のほうへ帰ることにした。
「あ、ちょっと話聞いてくださいっス! 本当に良いアイデアだと思うんスよ! ねぇ、りりあさん!」
よしひとの騒ぐ声が、誰もいない自転車置き場に響き渡った。
―― 第2章 ドブスりりあとドブスな仲間たち 了 ――
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