11. Continue:04-1
翌朝。『憩いの火』の周りで『勇者』三人が目を覚ます。
周囲を見回せば、傍に川。その向こうには魔王城。結果として、ここはやはり『魔王城』前の『憩いの火』だ。
「……ダメか」
「まぁ、そりゃそう、よね」
肩を落としながらため息を付くアクセルに、これまたため息をついたエマである。
正直、ループ前から「これは大丈夫なのか」という疑念はぬぐえないままだったのはある。だから三人も落胆というより、納得の色が強い。ジャンヌも寝袋を畳みながら息を吐く。
「明らかに異常な状況でございましたからね……炎の化身とされるシェドザール様が、炎を一つも操れないほどの氷に、だなんて」
「そりゃあ、アシア様も認めるわけにはいかない、ってやつか」
ジャンヌの発言にアクセルも再びため息だ。こんなやり方、自分がアシアの立場だとしても「いやいやそれはないだろう」と言うだろうから。
大鍋をカバンから取り出して水を入れながら、エマが二人に目を向けつつ口を開いた。
「ってことは、あれかな……やっぱり『魔王』とは、正々堂々本気でぶつからないと、アシア様から認めてもらえない、みたいな?」
エマの問いかけにアクセルもジャンヌも真剣な表情で小さく頷いた。
と、その話を聞いたか聞かずか、ばさ、と翼のはためく音と爪が地面に触れる軽い音がした。『魔王』シェドザールもまた、目覚めて降りてきたらしい。
「そうかもしれんな」
「あ」
もはや見慣れた光景と聞き慣れた声に、エマが早速反応して
確かに、『勇者』と『魔王』の戦いが真剣勝負でなかったら、何のための最終決戦なのか、という話になる。アシアの側もそういう戦いを望んでいるのはあるだろう。
アクセルが椀の中に水を入れてシェドザールに差し出しながら問いかける。
「『魔王』。もう大丈夫なのか」
「大事ない。凍え切ったまま死んだゆえ、目覚めた時は寝汗にまみれていたがな」
椀に入れられた水を舐めつつ、シェドザールはゆるりと尻尾を振った。なるほど、確かにあんなに氷漬けにされて死んだのなら寝苦しくもあるだろう。
ぐつぐつ茹だる大鍋の中のスープを見ながら、シェドザールがまず口を開いた。
「吾輩も、『勇者』と『魔王』が真正面から相対する、という状況が必要であろうことに異論はない……問題は、相対した後どうするか、であろうな」
彼の言葉に、三人が小さく頷く。結局のところは、その「相対した後」が問題なのである。
『勇者』と『魔王』が『玉座の間』で相対する。そしてお互いに死力を尽くして真剣勝負を繰り広げる。そこまではきっと間違っていない。問題はそこから先だ。
「そうだな……正面からぶつかって、死力を尽くして、勝ちを拾う、というのは二回目で既にやっているし、それでダメだった。必要な要素が、何かあるはずだ」
鍋をおたまでかき混ぜるアクセルの言葉に、異を唱えるものはいない。
そう、二回目――一度敗北した後に魔王城内でレベルアップを重ね、『魔王』討伐を成し遂げたあのケースで、ダメだった。普通に考えれば条件にピッタリ合致しているわけで、それで『巻き戻し』を抜けられないとは考えられない。だからこそ、他に何かしらの条件があるのだ。
と、そこでジャンヌがそっと手を挙げる。
「あの、それでしたら。一度本当に、『魔王』を倒した後、その日のうちに魔王城の外に出ることで『繰り返し』を回避できるのか、やってみませんこと? もし城の外に出る――魔王城の中にいないことで達成できるのなら、二回目と同じことをもう一度するだけで済みますわ」
ジャンヌの言葉にアクセルとエマがポンと手を打った。
そもそも三回目のケースで検証した「魔王城に『勇者』『魔王』の双方が存在しない」はダメだったが、あれは『勇者』と『魔王』のぶつかり合いが無い中でのこと。『勇者』が『魔王』を倒したうえでその条件を満たしたらどうなるか、検証する価値はある。
「そうだな。『魔王』、これを達成するのに、何かいい手はあるか?」
アクセルが頷きつつシェドザールに声をかけると、水を舐めていたシェドザールがスン、と鼻を鳴らして言った。
「ふむ……相分かった。吾輩を殺したら、速やかに
シェドザールの言葉に、エマが大きく目を見開いた。
なるほど、玉座の裏は二回目の時には調べもしないどころか目を向けもしなかった。あの時は疲労とダメージと睡眠不足でさっさと寝たかったのが先行したのもあるが、そこにあることを知っていたらもしかしたら、という話だ。
アクセルが唇をぺろり、と舐めながら納得したように呟く。
「城お決まりの、隠し通路ってやつか」
「なーんだ、そんなのがあるんなら、二回目の時にちゃんと調べておけばよかったわ」
「まあまあ、あの時は皆さんヘトヘトでしたから。ヒントもなしに探すのは難しいですわ」
がっかりしたようにぼやくエマに、ジャンヌが苦笑しながらなだめる。
彼女の言い分もわからないでもないが、あの時は本当に限界だったのだ。探している余裕がなかった以上、結果論であろう。
ともあれ、ここまで話がまとまったらあとは二回目同様にレベルを上げて『魔王』との最終決戦だ。今回はシェドザールも状況を理解しているから多少はやりやすい、はずだ。
そうと決まれば今回も時間をかけられない。レベルを上げて戦闘をやりやすくしなくてはならないのだ。シェドザールもそれを理解してか、立ち上がってばさり、と翼を動かす。
「では『勇者』、毎度のように玉座で待つ。健闘を祈る」
「ああ」
シェドザールの言葉に短く返事を返し、アクセルは城の方へと飛び去る『魔王』を見送った。自分を倒しに来る敵に「健闘を祈る」というのもおかしな話だが、今は立派に
ともかく、早く動き出さなくては。ぐつぐつ言い始めたスープの鍋を火からおろして、『勇者』たちは慌ただしく朝食を取り始めた。
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