愛しき死体と人形使い
R・S・ムスカリ
シーズン1
01. 切り捨てられた人形使い
「マリオ。今日限りでお前はクビだ」
ダンジョン攻略の打ち合わせだと思って会議室に入ったら、僕はパーティーリーダーのシャインから解雇を宣言された。
突然のことに耳を疑った。
昨日まで肩を並べて戦っていた仲間なのに、今日になって何故そんなことを……!?
「ちょ、ちょっと待って。どうして僕がクビなんですか!?」
「わからないのか?」
「わかりませんよっ」
「お前はもう足手まといだ。勇者であるこの俺が率いるパーティー〈暁の聖列〉には必要ない」
「そ、そんな……どうして急に……!?」
「本当にわからないのか?」
シャインは小さく溜め息をつくと、僕から視線を反らした。
否。彼は僕の後方に目を向けたのだ。
彼が視線を向けているのは、部屋の隅に置かれた二体の人形だった。
それらは
人形技師に修理してもらおうと思って、昨晩からここに置かせてもらっていたのだけれど……。
「フェンサーとウルファーが何か?」
「ぶっ壊れてるだろ」
「そ、それはそうですが、すぐに人形技師を呼んで直してもらいます! 次の冒険までには間に合わせますから……っ」
人形使いである僕は、戦闘において人形を操作して戦う。
無貌の剣士人形フェンサーは前衛。
パーティーの最前線に立ち、囮となって敵の気を引いたり、盾となって仲間を守ったりする役割を果たしている。
狼頭人身の魔導士人形ウルファーは後衛。
魔力のこもった魔導石を組み込むことで、人間の魔導士と遜色ない魔法を扱えるため、戦闘では重宝する。
その二体は長らく僕のパートナーとして戦ってくれたのだけれど、今は破損が酷くて移動させることもままならない。
……まさかそれが原因なのか?
「あの二体は、たしかに戦闘力も高くて役に立ってくれたがな。あれ一体の修理にいくら掛かると思ってる?」
「うっ」
「前にも人形が壊れた時に修理したが、その時は一体8万ゴルト掛かった。8万ゴルトだぞ。立派な軍馬が何頭買えると思う?」
「で、でも、僕達の冒険には絶対必要じゃないですか! だって、僕達は――」
「魔王の討伐が目的だ。そして、それには金がいる。パトロンからの支援があるとはいえ、お前は金が掛かり過ぎるんだよ」
「そんなぁ……」
修理費用が高過ぎるから、人形を直す気がないと言うこと?
人形がなければ僕は戦うことすらできない。
僕が足手まといって言うのはそういうことか……。
でも、今までずっと一緒に頑張ってきた僕をクビだなんて、あんまりじゃないか?
「みんなは僕のクビに納得してるんですか!?」
僕は他のパーティ―メンバーに助けを求めた。
誰かが反対してくれればあるいは、と思ったのだけれど――
「……」
「……」
――他の仲間達は驚いた様子もなく、平然としている。
この雰囲気……。
もしかして、すでに僕の解雇についてみんなで話し合っていた……?
「仕方ないんじゃない。人形がなきゃ、あんたはただの雑兵でしょ」
魔導士のジジが冷めた声でそっけなく言った。
彼女は僕を見ることもなく、手元の魔導書に視線を落としている。
「人形は回復魔法では治せませんから、戦力外通告は仕方のないことですわ。マリオ様ご自身は体力もないので荷物持ちにすらなりませんし、仮にも勇者シャイン様のパーティーに戦力ゼロの
聖女のベルナデッタまで同じようなことを――否。もっと酷い。
優しげな笑みをたたえてはいるけれど、僕に向ける目はまるで昆虫を見るような冷たいものだ。
「そう言うわけで、お前とはこれまでだ。さっさと屋敷から出ていけ」
「無理ですよ! 急にそんなこと言われても、僕には他に行く当てが……」
「それはお前の都合だろ。俺達には関係のないことだ」
「今までずっと一緒に戦ってきたのに、そんな……あんまりだっ!!」
「使える人間は丁重に扱うが、そうでなければ話は別だ。ハッキリ言ってやろうか? お前の代わりはいくらでもいるんだよ。ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと荷物まとめてここから出ていけ」
シャインの言葉は、とても仲間に向けられたものとは思えなかった。
僕への態度が昨日までとまったく違う。
これが僕の憧れた勇者シャインの本性だったのか……?
「ああ、それとな。そこの
「えぇっ!? なんで!?」
「修理費が8万もするだけあって、素材は一級品だ。近くの鍛冶師がそれなりの金で引き取ってくれると話がついてる」
「そんな勝手な! 僕が承諾するわけないでしょう!?」
フェンサーもウルファーも、僕の大事な人形だ。
しかも、どちらも人形技師だった父さんの形見なんだ。
そんなこと絶対に認めるわけにはいかない!
「お前がパーティーから出ていくことで、今までお前に使った金が無駄になるんだ。だったら、せめて最後にそのくらいの貢献はしてくれよ」
「う……うぅ……っ」
「それにお前一人じゃ8万なんて大金、とても用立てられないだろ?」
「く……っ」
僕には返す言葉がなかった。
人形使いは人形がなければ何の役にも立てない。
しかも、僕の人形はとびきり高性能ゆえに維持費も高い。
そもそも前の戦闘で人形を壊してしまったのは、僕の落ち度でもある。
大破の理由はみんなをかばったことにあるけれど、僕がもっと上手く人形達を操作できていれば、壊すこともなかったかもしれない。
「……わかり……ました……」
正直、納得はしていない。
けれど、今の僕がこのパーティーにとって重荷になっていることは確かだ。
これ以上反対したところでみんなの考えは変わらないだろうし、ここは素直に身を引くのが利口な選択なんだろう。
「シャイン。せっかくパーティーに入れてくれたのに、これからという時に役に立てずすみませんでした……」
「そうだな。お前にはこの先も一緒に戦ってほしかったんだがなぁ?」
「……」
「はは。冗談だよ、今日までご苦労だったな」
「……はい」
「じゃあな」
「お世話に……なりました……」
その言葉を最後に、僕は独りで部屋を出た。
円満な離脱ではなく、邪魔者として追い出されるという現実。
まさに追放という言葉が相応しい別れだった。
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