今、何を見てるの?

モリアミ

今、何を見てるの?

 たった5分、宇宙にいくために何千万も払う人がいる。そしてもっと長く、もう少し遠くへ行くために何億、何百億とお金を使う人がいる。もし僕にそのくらいお金の余裕があれば、僕もそのくらいお金を使うと思う。でも、それに何の価値があるかって聞かれたとしたら、そんなことには何の価値もない、ただの無駄使いですよっていうと思う。何でかって? 僕はただ、ただただ遠くにいってみたい、遠くから見てみたい、それだけ。ただ確かめてみたい、そこから何が見えるのか。


「あの山には神さんがおって、天辺の高いとこからあんたを見とる、悪いことはしたらいかんよ?」

 子供の頃、おばあちゃんは僕の住んでた所から見える一番高い山を指指してはよくそんなことを言ってた。その山は僕の住んでた町にある山の中で、2番目か3番目かの高さがあって、そして天辺の直ぐ下、岩の張り出した下の大きな窪みに社があって、だから多分、神様もいたのかもしれない。でも、僕はおばあちゃんの話を聞いたとき、あんな遠くから本当に僕のことが見えるのか、それが気になって仕方なかった。だから僕は、その山の天辺まで行くことにした。多分、5時間位かかったと思う。秋過ぎで見晴らしの良い山の上から、僕の家はどこに有るかも解らなかった。それにその時の僕は、お腹も減ってて寒いし疲れたし、5分もそんな場所にはいなかったし、それに神様でも無かったから、それで僕の家が見つけられなかったんだと思う。真っ暗になる前には家に帰れたけど、結構怒られたことだけ覚えてる。多分、お昼に帰らなかったから。今思うとよく遭難しなかったもんだ。それで、そう、僕がそんなことしたのはお葬式のとき、誰かは覚えてないけど、誰かが言ってたことは覚えてたから。

「死んだ人は星になって君を見守ってる、だからもし、寂しくなったときはその星を探してごらん」

 多分、そのとき僕はそれがどの星で、そしてそんな遠くから僕のことを見つけられるのか、それが気になってて、そんなことだけを覚えてて、それであの山の天辺まで行って。だから僕は、何処か遠くのから場所から、本当に見えるのか、それが確かめたいんだ。きっと、そう何だと思う。


 隣の小さな影は、さっきからじっと顔を夜空に向けたまま、身動ぎ1つしない。子供ながら真剣そのものといった感じ。

「ねぇ、今、何を見てるの?」

「オリオン座」

「他には何か見つけた?」

「解んない、ママも探して」

 そんなこと言われたってねぇ、私だって詳しい訳じゃなくてねぇ。

「えっと、まってね、冬の大三角でしょ、だからぁ、あっちが北でしょ、それだと、あれ? そう、あれ、あの右下のがオオグマ座? そして上にいってコグマ座? よ?」

「本当だ、すごい、他は?」

「他? どうだろう? 後何があったけ? カシオペアとか? えぇっと、あれ、あのWのやつ、あのギザギザ、あれ」

「本当だ、あった」

 我が子ながら素直で良い子、こんな適当な説明なのに。

「ねぇ、ママは何でいっぱい見つけられるの」

「えぇっ、そーねぇ、どんなに遠くにあっても、そこに有るって分かってれば見つけられる、のよ?」

 そんな風に、真っ直ぐ見つめられると後ろめたいなぁ、ママは。

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