ブルーからの依頼
十川弥生
第1話 贈り物
12月25日
今日未明、
ブチッ
「あっ、折角ニュース見てたのに。しかも近いぞここからぁ」
俺の席の横で父が朝食を食べながら言った。
「今日はクリスマスなのよ。暗いニュース番組なんて見ないでよ」
そう言いながら母は朝のバラエティー番組にチャンネルを変えた。
「洗い物終わらせたいからさっさと食べて」
「はいはい分かりました。」
と父は居心地悪気に言った。
ふと父の方に目線を移すと丁寧に残した食パンの耳をむしゃむしゃとリスのように食べていた。
アラフィフのおっさんがその食べ方はないだろと思わなくなるほど見慣れた光景だった。
「てつやもよそ見しない、学校遅刻するわよ」
「へいへい」
今日は終業式なので遅刻は怖くないと余裕の表情で言った。
いつもと変わらない平日の朝だった。
インターホンが鳴るまでは。
ピンポーンと珍しい時間帯にインターホンが鳴り響いた。
「サンタでも来たのか」
父が冗談交じりに言う。
「はーい」
父の冗談に見向きもせず母はエプロンで水の水分を拭き取りながらモニターを覗き込む。
モニターから聞き取れないほどの男の声がする。
「
「ええ、そうですが」
「私、警察のものなんですけど息子さんはいらっしゃいますか。よろしければ中でお話しをお伺いしたいのですが」
母が急にこちらに目線を向けてきた。
俺に何か
という惚けた表情を返してやった。
目付きから推測するに友達では無さそうだ。
「客間を掃除するので少々お待ちください」
「こんな朝早くに誰なんだ」
改まって父が尋ねた
「警察の方だって、てつくんとお話がしていって」
警察という言葉を聞いて父は緩んだ姿勢を慌ただしく立て直しこちらを睨みつけてきた。
自分にも訳が分からず説得に試みた。
「父さん!落ち着いて!音楽を聴きながらチャリ乗るぐらいで、それ以外は特に何も‥‥」
父の表情は一ミリも変わらない。
父親とは息子のことをここまで信用しないものなのかとその表情を見て強く感じた。
母は寒い外で警察を待たせまいと男を早々に客間に案内した。
玄関を上り廊下を左に曲がると客間で右に曲がるとリビングという家の構造上、男の姿ははっきりとは確認できなかった。
そして案の定、自分を呼ぶ声がした。
父の強い視線を感じながら俺はリビングを後にした。
客間に行くまでの廊下が酷く長く感じた。
リビングのテレビからは賑やかな声が聞こえる。
和室の客間には黒いコートを着た警察と思われる男と母親が向かい合わせで座っていた。
客間の扉を閉めると自分の家とは思えない重たい空気感だった。
警察の人と対面で接するのは初めてのことなので生ぬるい汗が全身を湿らせた。心臓の鼓動が早くなり体は変に力んでいた。
恐る恐る母の横に正座した。
早速相手が話を切り出してきた。
「君が息子さんの哲也くんだね」
「はい。そうですが‥‥」
目を合わすことができず胸ポケットから頭を出している朝日影に目をやりながら答えた。本物の警察官なんだと改めて理解した。
「まずはこれを見てほしいのだけど」
そう言うと警察は透明な証拠品袋に入ったゲームカセットを俺の目の前に王手と言わんばかりにゆっくりと置いた。
俺はその袋の中の物を凝視した。
何やらゲームカセットのようだった。
しかもよく知っているゲームだ。
【名探偵ヒーローパープルマン】
熱血キャラで戦闘担当のファイアーレッド、知的キャラで捜査担当のアイスブルーのコンビが謎を解決しながらストーリーを進めるミステリーアクションゲームである。
パープルマンというのはファイアーレッドとアイスブルーが合体した姿名である。赤と青が合体してパープルマンとは安直すぎる名前だとこの歳になって思った。
携帯型ゲーム機ガラエス(GS)のハードソフトでレベルアップ社から発売された懐かしのゲームだった。
そのソフトには藻のような緑色のものが付着していた。
何故警察官がこのカセットを見せたかったのかの理解に苦しんだ。
さらによく見てみると薄ら文字が書いてあった。レベルアップ社のソフトにはタイトルロゴの下に名前を書くスペースがあったのを思い出した。
その欄には幼稚な文字で次のように書かれていた。
あかぎてつや
ブルーからの依頼 十川弥生 @Sogawa11618
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