悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

悪役転生

第1話ある男の終わり

　【ブレイヴ・ヒストリア】

　それはある世界で一世を風靡したファンタジーRPGだ。

　物語のプロローグ――主人公のローランは初恋の少女アリシア達と共に穏やかな生活を送っていた。

　辺鄙な村での、慎ましくも穏やかな幸せな生活。

　しかし、そんな幸せな日々はある日を境に脆くも崩れさる事になる。

　ある日、突然。二人の暮らすククル村に貴族の少年が現れた。

　その少年の名をレクス・サセックスと言った――。

　彼はアリシアの体質に目をつけ、自分の妾にするために彼女を迎えに来たという。

　最愛の幼馴染の少女を奪われる――。

　そんな現実を受け入れられないローランは激昂しレクス・サセックスに、決闘を挑んでしまう。

　アリシアを守る為、死力を尽くしレクスに挑むローラン。

　しかし、冒険者の一人息子として育てられたローランをレクスは容易く圧倒する。

　手も足も出ることもなく、ローランはレクスに敗北を喫すると、アリシアを奪われてしまう。

　最愛の少女を失い、失意の底に沈むローラン。

　しかし、遠征から帰ってきた父に冒険者として成功すれば平民も貴族にもなれる――という話を耳にする。

　これはそんな【ブレイヴ・ヒストリア】のレクス・サセックスに転生してしまった男の物語。

　――血の味がする。

　腹部から、足に流れ落ちる生暖かい液体の感覚と、口の中に鉄の味を感じていた。

　その直前には複数の破裂音。

　――俺は撃たれたのか……？

　男は状況をそう理解した。

　少しずつ遠くなっていく意識の中で犯人の方を振り返る。

　そこには、仲間だと信じていた女が少し震える手で銃口を向けている。

「ごほッ……ッ！」

　むせびあがってくる血の塊に男は思わず咳き込む。

　脳を混乱が支配し少し遅れて感じる凄まじい痛みの感覚を男は感じた。

　思わず自分の腹を触る。

　手に付着する真っ赤な液体。やまない耳鳴り。視界は明滅していた。

「なぜ……？」

「ごめんなさい……」

　絞り出すような声で女が呟く。

「でも……、あなたが……。あなたが悪いのよ……あなたが……。あなたが――だからッ！　あなたが――ッ！」

　最後までは聞き取れない、女の絞り出すような、歓喜とも懺悔とも聴こえる声を聞きながら、力を失い倒れる体を犯人の女が支えた。

　――俺は死ぬのか？

　体が徐々に熱を失っていくのを感じた。

　寒気を感じながら何処かに落ちていくように、意識は暗闇の中に引きずり込まれていく。

　不思議と恐怖は感じなかった。

　常、日ごろから死というものは身近に感じていた。

　安定な職業についたことなどない。

　男は犯罪者だった。

　――そうか、俺は死ぬのか。

　心残りはある。

　やり残した事もある。

　しかし、自然と死を受けいれられた。

　全ての感覚が薄れていき、終わりの足音が近づいているのを確かに感じた。

　そして、

「あ……。ああああああああああああああッ！」

　なぜか、聞こえる悲嘆な叫び声。

　ぽたぽたと顔を伝う腹部から流れる液体とは違う液体。

　それは自らの瞳から流れ落ちたものなのか。

　それとも叫び声を上げる別の誰かが流したものなのか。

　男には分からなかった。

　少しづつ、意識は深く落ちて行き――命の炎が消え去っていく。

　かすかに見えた女の表情は、笑っているようにも泣いているようにも見えた。

　そして――。

「……私も後から、いくわ………」

　消え去っていく意識の中で、最後に何かが破裂するような、音を聞いた気がした。