第44話 字力具

 祭りの次の日から領民を募りながら家の建設ラッシュが訪れていた。


 祭りの時に知り合った『覇』領にいた酒好きなおっさんも手伝ってくれていた。

 それもあって作業効率は上がったのだ。


「シュウイ様、これはどこですか?」


「あっ、それはそこに置いておいてちょうだい。オウル有難う」


「いえ。何もしないままでは食べる資格はありません」


「はははっ。まぁ、そんなに固くならなくていいんだよ?」


 ここ数日の作業の合間の休憩の準備とかを手伝ってくれていたオウルとサクラ。

 さっきのように何もしなければ食べる資格はないと、そう思っているみたいなんだ。


 別にいいって言ってるんだけど、オウルはそういうところが頑固みたい。


「あぁー! 今日は芋揚げかぁ。これのスパイス効いたやつが美味しいんだよねぇ」


 ミレイさんは大して手伝ってもいないが、休憩のお菓子を食べ始めている。この位図太くなってくれればいいんだけどな。


「あの人、食べる資格ない」


「なんだとぉー!?」


 オウルの指摘に怒るミレイさん。頭を抑えて立つのを防いでいた。「ガルルル」と今にも食ってかかりそうにしている。


「オウルもサクラも何もしなくても食べていいんだぞ? ボクたちは家族なんだ。働いていないと食べちゃダメということはないよ? でも、気になるなら手伝うのは構わないから」


 頭を撫でながら優しく諭す。

 それを少し恥ずかしそうにやられるがままになっている。


 サクラは数日話しかけたが、やっぱり話さない。話せないのかどうかは分からないけど、言葉は分かるから聞こえないわけではなさそうだ。


「おー! シュウイさんありがとよ!」


「いつも助かるよ。飲み物と補給する食べ物持ってきてくれて」


 口々に作業している人達からお礼を言われる。皆には頑張ってもらっているから。ボクもやるって言ったんだけど領主は見てるだけでいいって言われたんだ。


「ううん。ボクたちの為に有難う。サクラ、食べな?」


  サクラはよく遠慮して食べてないことがあるから別で取ってあげるんだ。そうすると少しずつだけど食べる。


 二人ともまともに食べていなかったみたいで少しずつ量を増やしているところなんだ。


 少し体に活力が戻ったみたいでガリガリから少しは肉がついた気がする。


「シュウイさん、もう少しで三十件目ができますよ。あとどれ位ですか?」


「うーんとねぇ。あと二十位かな? 午後はボクも手伝えるから」


「助かります!」


 こんな感じの日々を送っているわけだけど、段々と街の形になってきているんだ。ただ、来る者拒まずだから周りにはなんにもない。


 流石に不用心だから、夜は見張りを立たせているんだけど。もちろん、ボクも見張りはやるよ。


 家が多くなってくると見渡せないから少し高い建物を作ろうということになった。

 はしごを登っていく塔のようなものだ。


 それを作るには細長いから土台を頑丈に作らないといけないんだって。

 ボクは分からないけどそんなことを言っていた。


 それを今日の午後は作ってしまおうということで、ボクたちの家が真ん中になっているので、その家の横に高台のみの建物を作るんだ。


「シュウイさん、見張りには字兵が登るんですよね?」


「うん! そうしようと思ってるよ。何か問題?」


「いえ! あのー。あんな高いところから人の侵入が見れますでしょうか?」


 そんなこともあるかと、こんな字力具じりきぐを持ってきたんだ。


 字力を流すことで作動する。

 そして、中には『光』と『飛』ばすの字が印してある。これはレーザーライトのような役割を果たす。


 もうひとつは二つ穴が空いていて『遠』『見』が印してある。これは、双眼鏡の役割があるものだ。


 これをシュウイは開発した。

 現代知識もある訳ではないが、字の意味だけでこれを考えたのだ。


 この世界で初めて二文字以上の字力具が開発された瞬間だった。


「なんですかコレ!?」


「えっ? 字力具。ボクが作った。使ってみて?」


 ふたつの穴に目を当ててみる。


「うわー! 凄い遠くまで見えるー!」


「これも遠くまで照らせるなぁ! すげぇ!」


 喜んでくれたみたいで何よりだよ。


「よかったよ。こういう字力具を増やしていこうと思うんだ。今までは一文字しか使うことを考えてなかったから」


「いや、これは発見ですよ! シュウイさん凄い!」


「これは良いですねぇ!」


 照れながらもボクは自慢げにしていた。


 この日から見張りができるようになったんだよね。


「シュウイ様、僕にも字力具を作れますでしょうか?」


「オウルにもできるよ? ただ、字の意味を理解しないと作れないから、そこから覚えよっか!」


「はい!」


 この日からオウルは漢字の勉強をし始めたのであった。

 講師はボクしかできないから少しずつ教えていくことにした。


「ねぇ、シュウイー? あの高いのなぁにぃ?」


「あれは、見張りをするための塔だよ?」


「えぇー! 楽しそう!」


「見張りの字兵さんの邪魔しちゃダメだよ?」


「うぅー」


 ミレイさんは見張り台に興味津々で困る。

 それを見ていたオウルは「やっぱり子供だ」といってミレイさんが怒る。

 最近のこの二人の日常風景なんだよね。

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