第39話 小さなお祭り

 この乱世だった世でも子供というのは結構生まれていた。


 そんな小さい頃を怯えて過ごした子やご飯を食べられなかった子というのは一定数いるのだ。


 そこでボクは小さい領だけど、少しお祭りを開こうと思い立った。


 本来はめでたいことがあった時に『粋』領で開かれていたお祭り。


 それを開催しようと思う。


 全領にそのことを伝えて子供や大人に集まってもらうことにしたんだ。


 この領には出店を沢山用意してもらう。


 そんな準備が、今始まっていた。


「シュウイ! こっち手伝って!」


「自分もいっぱいいっぱいっす! シュウイ! こっちに来て欲しいっす!」


「シュウイよぉ! 後輩なんだからぁ、アッシを手伝って欲しいねぇ」


 ミレイさん、コウジュ、モーザさんの順にみんなボクをお呼びのようだ。

 ちなみに、シゴクは『生』領でお留守番だ。


「今行くねぇ!」


 そういうとボクの身は『分』かれて行った。

 どこにでも手伝いに行くからボクはそこら中にいる。


 主に料理を手伝っている。

 野菜を『切』ったり、ゴミを『炎』で燃やしたり、『集』めたりとボクってなんでもできちゃうから重宝される。


 急ピッチに進められた準備はお昼の頃には終わりを迎えた。

 準備が整ってくるといい香りがそこら中を漂い。

 人々が段々と集まってきた。


「お兄ちゃん。ぼく、お金ないけどいいの?」


 小さな六歳くらいの男の子が声を掛けてくれた。


「うん。いいんだよぉ。好きなのを食べていいからね!」


「ほんとう⁉ やったー! ありがとう!」


 その男の子はおやっさんのやっている肉を食べに行ったみたい。

 かわいいなぁ。肉が食べたかったんだろうなぁ。

 あの肉は子供でも食べられるように甘じょっぱいからいいと思う。


 その男の子を羨ましそうに見ていた。数人の子供がどうしていいかわからずに呆然と立っていた。


「よくきたねぇ! このお祭りは好きなのを食べていいから、遠慮せずに食べな!」


「ねぇ。これ食べたからって殴られたりしない?」


 ボクは胸から込み上げてきたものを抑えるのに必死だった。

 こんなに小さい子達はそんな経験をしてきたのか。

 なんて残酷は世の中なんだ。


「くっ……このお祭りはね。ボクがみんなに食べて欲しくて開いたものなんだ。お金を要求したりもしないし、殴ったりもしないよ。何も心配ないいらないから好きな物をお食べ?」


「ホントにいいの?」


「うん。本当だよ? 見てごらん。あの子もお肉食べているけど、なんともないだろう?」


「うん! 私ね、パンが食べたいんだぁ!」


 サンドイッチのお店へと走っていった。

 肉と野菜をバランスよく挟んだパンが置いてあるお店ができたのだ。

 このお店は女性が営んでいる。


 この世界では男が店をやるというなぜかそのような風潮があり、女性はトラブルに合うと勝手に思われていた。だからこのパン屋さんはいい見本になると思う。


 その女の子を見送ると他の子供達も行きたい店へと足を運んでいる。


 子供は素直だ。一人二人と食べに行けばみんな後を続く。けど、大人は違う。子供が行っても様子を伺っている。


 そもそも、子供より先に毒味をしないのか? と不信感を抱いてしまった。


「大人も食べていいんですよ? 楽しんで行ってください! 今日は酒もありますよ?」


「あんた、こんなことして領民を集めるのかい?」


 猪顔の男はそう言い放った。

 そういう意図はなかったが、それで大人は手を付けないのか。

 ボクの下に着かなきゃいけないと思っているから。くだらない。そんな手は使わないよ。


「ボクは領民を集める為にしているわけではありません。子供達に好きな物を食べて欲しくて開いているんです。大人もいいよといいましたが、別に無理に食べる必要もありません。お好きにしてください」


 大人はあまり信用していないし、こっちを疑ってくるということは何かしら自分自身も何かを思っていることがあるから、そういうのだろう。


 集まりたい人だけ集まればいいと思っている。全員を無理に集めようとは思わない。ただ……。


「仮にも領を作るのですから、何かあったらボクが対応します。残っている人たちで強盗の様なことをすれば、ボクが殲滅するでしょう。こっちを勘ぐるのはかってですが、うまく立ち回った方がいいとおもいますよ?」


 また変に革命軍とか作られたら潰すしかないからね。

 そういうのはよく考えて行動して欲しいな。


「ふんっ。そうかい。獣王くらい短絡的なら考えが読めたのに、なかなか考えが読みづらいねぇ」


「何も考えていませんよ? ただ、食べて欲しいだけです。ボクも、拾われた身です」


「あんたがかい?」


「はい。孤児でした。『粋』領主の妹に拾われました。まずご飯をご馳走になりました。あの時はおいしかったぁ。こんなにおいしいものがあるんだと感動した物です」


「苦労したんだな」


「いえいえ。ボクは幸せでしたよ。拾われたんですから。ずっとそのまま一人の子も居たでしょう。そういう子達にも気軽にお腹いっぱい食べて欲しい。それが目的です」


「いや参った! おれはあんたを疑えねぇ。手伝わせてくれ」


 そう話すと手を伸ばしてきた。

 手を取りガッチリと握手をする。


「一緒にいい領となるよう、頑張っていきましょう」


 まだまだお祭りは続く。

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