第24話 ララさんの過去

 都内の閑静な住宅街が広がるエリアにあるアパートにやって来た。

 ほのかにフローラルな香りがする。

 この辺はよそ者が歩いていれば目立ちそうなものだ。


 それは逆に異物を寄せ付けないということ。

 俺達も密かに近所のおば様方に監視されている。


「じゃあ、俺と伴さんは遠くで見張ってます」


「えぇ。宜しく。亮、あんた目立つんだから気をつけてよね?」


「わ、わかりましたよぉ」


 そんなこと言われても困るんだが、目立つと言われれば仕方がない。

 目立たないように空気になろう。


 少し離れたところの公園から見張ることにした。


「ここからならあの部屋の入口が見えるな?」


「そうですね。なんか、ストーカーも同じこと考えそうですよね?」


「まぁなぁ。けどよ、ストーカーっつうのは段々我慢が出来なくなってくるもんなのよ。エスカレートしていくことが多いみたいだぞ?」


「なるほど」


 公園のベンチに腰掛けながら眺めているとララさんが登って来たのが見えた。

 あの部屋三階で良かったな。

 よく見える。


 ん? まてよ。それはストーカーも一緒か。


 ここは怪しい格好をして立っていればかなり目立つはずだ。

 グルリと見渡すと木々があり、見えないように隠れて様子を伺えそうではある。


 しばし沈黙が続いて、俺はこの前の疑問を聞いてみようと思ったのだ。


「伴さん、メデューサってなんなんですか?」


「そうか。亮はまだ聞いてないんだな」


「はぁ。何を……ですか?」


「実はな、ララには同じ職場で働いていた婚約者がいたんだ────」


 伴さんの口から出てきた話は血なまぐさい、この世界ならではの話だった。


 ララさんと婚約者さんは同じ職場で恋愛をして婚約をすることになったんだという。

 その職場は警察関係の警備会社だったんだそうだ。


 ある時、重要人物の身辺警護を補佐する任務に当たったんだとか。

 そこで襲撃してきた組織がメデューサという組織だったようで、一個の頭から蛇が無数に出てくるかの如く襲われたそうな。


 任務達成率は九割という驚異的な成功率を誇る闇の組織だったんだとか。

 一度は少数で襲ってきた為、なんなく撃退できたそうだが、その後が凄まじかったらしい。


 銃火器をかなりの数、導入して軍隊を相手にしているようなくらい激しい攻撃にあったそうだ。

 警察関係なので銃使用は出来たそうなのだが、ハンドガンでは太刀打ちできなかったんだとか。


 襲撃は成功して重要人物は死亡。

 婚約者は蜂の巣のような状態で見つかったんだそうだ。

 その職場は彼を思い出すからという理由で退職し、護さんに誘われてイージスに入ったんだとか。


「まさか、ララさんにそんな過去があったとは思いませんでした。そんな暗い過去があるなんて分からせないくらいに明るいですよね?」


「あぁ、そうだな! アイツは明るいからな! けど、その裏には暗い部分もあるんだ! 俺達が支えてやらないとな!」


「はい!」


『────ブッ──ストーカー被害の内容が分かったわ。かなりエスカレートしてる。内容は無言電話に迷惑メール、付き纏い、不法侵入の疑いもあり』


 ララさんから聞き取りの結果が知らせられる。


『了解だ。それだと近くに来そうだな!』


『そうね。しっかり見ててよ?』


『あぁ! 任しておけ!』


『宜しく』


 こうなると家の近くまで絶対に来ている。

 周辺をくまなく警戒した方がいいな。


「亮、少し散歩するか」


「はい。周辺を警戒ですね」


「そうだ!」


 散歩するのはいいけど、こんなに筋肉がある人が周りをキョロキョロして歩いてたらなんだが怪しまれると思うんだが。


 二人で少し土地勘を掴むためにも曲がり角や目印になりそうなものを覚えながら辺りを見て歩く。

 

 すると以外にも影になるところがあるのだ。

 自販機の裏、木の影、行き止まりの路地。

 頭の中で地図を描きながら要注意の場所をマークしていく。


 この仕事をしてから分かったことは地図の把握はすごく重要だということ。病院のような所であれば中の構図の把握は必要不可欠だ。


 あのアパートを中心に半径500メートルくらいの範囲は把握しておく必要があるだろう。

 逃げられた際に追う事もあるかもしれない。


「おい。あれ」


 伴さんが俺の腕を小突く。

 小突くだけでも痛いんだよな。

 筋肉ありすぎなんだよ。


 目線の先には黒いパーカーのフードを目深に被った人物がいた。

 ヨタヨタと歩いている。

 明らかに怪しい。


「あれ? あいつ……」


「知ってるのか!?」


「いや、最初に護衛したキャバ嬢の家でも見たことある気がして……」


「それいつだ?」


「えぇーっと、後藤班の時だから二週間前ですね」


 あの時は特に何もせずエレベーターに乗っていたからてっきり変な住人なのかと思っていたが、違かったのか?


 そもそも同一人物なのか?

 それさえ分からない。


「うむ。資料にはここ二ヶ月くらいらしいな。酷くなったのは」


「そう。ですか」


 その人物がこちらを見た気がした。

 さっと路地に入っていく。


 あいつだとすれば俺の面は割れている。

 少し小走りに路地を見に行く。

 走っている黒パーカーが見えた。


「伴さん! 俺、追います!」

 

 全力でダッシュする。


「あっ! おい!」


 俺は追うことしか考えておらず、周りが見えていなかった。

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