第14話 襲撃者

 二日目、三日目は何事もなく終え。

 今日は四日目を迎えようとしていた。


「そういえば、聞きそびれてたんですけど。エレナさん、なんでイージスを雇ったんですか?」


 出勤する車の中でふっと思い出したので聞いてみた。

 驚いた顔で見て来た。

 そして、呆れた顔になる。


「それ知らないで護衛してたの? 大変ね」


「いえ。社長にも聞くの忘れてしまって」


 このチームの皆が聞き耳をたてている。

 皆が聞きたかったことであったから。


「私、人気者でしょう? だから、色んな人が言い寄ってくるんだけど……最近異様な詰め寄り方をされたのよ。店の中だったから助かったんだけどね」


 やはり、危険な客がいるという事だな。

 金を落とせば何をしてもいいと思っている輩がいるんだ。

 いや、もはやそれも関係ないのかもしれない。


「特徴は?」


「んー。やせ型で髪は目にかかるくらい。スーツで来るときもあるし、私服の時もあるわ。私服の時はパッとしない黒い服を着てる感じ。お金もそんなに持ってる感じじゃないわねぇ」


 それだけわかれば特別に警戒できる。

 皆に目を配ると頷き返してくれる。

 そこまでわかっていればある程度は警戒のしようがある。


 ただ、目にかかるくらいの髪で痩せ型はよく居る若者だ。

 わかりにくい気もするが……。

 でも、VIP席を払えるくらいの金があるとすると高給取りの職に就いているのかもしれない。


 そうなると、つてがあってここにきたんだろうからな。

 今の護衛がついているという状態も知っている可能性がある。


 素人がそれを知って何をするか。

 何も出来なくてストレスが溜まると暴発する。

 つまり、なり振り構わない。


「なるほど。少しその線で警戒します。エレナさんも気をつけてください」


「えぇ。わかったわ」


「ここ数日、大人しくしていたとなるとそろそろかもしれません」


 皆に目配せをする。


「そうだね。亮くんの言う通りだ。今日も気を引き締めていくよ!」


「「「はい!」」」


 よしさんの激が飛んで。

 皆の気持ちが引き締まった。

 と同時に店に着いた。


「着きました」


「降ります!」


 俺が先陣を切って降りる。

 辺りを確認する。

 異常はない。


 なんか。

 人が多い?


「人が多くないですか?」


「今日は金曜日だ。明日が休みの人が多い。飲みに来る人も多い日だ」


 俺が聞くとよしさんが教えてくれた。

 そういう事か。

 なんか曜日感覚狂ってたわ。


「行くよ」


「はい!」


 エレナさんを真ん中に配置し、よしさんと俺で挟む。

 そのまま店の中へ。

 控え室も中を確認し、中に通す。


 中で三人だけになる。

 少し俺達の空気がピリついている。


「ねぇ? あんまりピリピリした空気出さないでくれないかしら? お客様が恐がるわ」


「これはどうも。すみませんでした」


 よしさんが頭に手を置いて「いかんいかん」と笑っている。

 言われてすぐに適度に気を抜くところが凄い。

 流石に経験が違うな。


 このピリついた空気が一気に柔らかくなった。

 エレナさんのとこにつくんだ。

 少し柔らかい空気にしないとな。


「エレナちゃーん。おねがーい」


「はぁーい……さぁ、行くわよ」


 エレナさんはこんな危機が迫っているような時でも優雅で。

 ナンバーワンキャバ嬢は伊達じゃないとそう思わされた。


「あっ、会長さん、いつも来てくれてありがとー!」


「ホッホッホッ。エレナに会いに来るのがワシの唯一の楽しみじゃからな」


 かなりの高齢に見えるお方も酒を少し飲んではシャンパンだのドンペリだの。

 ドンドン酒をいれていく。


 一時間ほど居るとお帰りになり。

 待ってましたとばかりに違うおじさん。


「社長さーん。来てくれて有難う御座います!」


「なぁに。エレナちゃんのためだものぉ。今度、デートに行こうね?」


「奥さんのオッケーが出たらね?」


「そりゃ、いつまでも出ないよぉ」


 イカつい社長さんと楽しそうに話している。

 今日は俺達に絡んでくる人は居なさそうだな。

 みんな慣れてくれたんだろうか。


 四組ぐらい入れ替わった時。

 無線で連絡が入った。


『交代よ』


 後ろにはけて、咲月さん、蓮さんと入れ替わる。

 実は咲月さんが絡まれる確率がかなりあった。

 仕方がないよな。


 隠せないくらいの物が実っていたら。

 酔っ払いの親父達は気になるに違いない。

 そして、ホワンと受け答えするものだからまた受けが良かった。


 エレナさんにバイトしないかと誘われていたっけな。

 お金に困ったら宜しくお願いしますって言ってたけど。


 夜もだいぶ更けてきた。

 深夜の二時頃。

 酔った人達が騒ぎ出す時間帯。


「もうすぐ閉店ですね」


「そうだね。今日も来な────」


「キャーーーーー」


 フロアから悲鳴が上がった。

 カメラをつけている訳では無いから訳が分からない。


「何が起こった!?」


『刃物を持った男が入ってきた! 応援を! 

   り……う!』


 すぐに走り出す。

 エレナさんが呼んでいた。

 無線越しに聞こえるくらいの音量で。


 控え室からすぐフロアに出る。

 刃物を持った男は俺から正面。

 男からしたら横の位置。


 男の正面にはエレナさんと蓮さん、咲月さんだ。


「それを下ろせ!」


「うるさいうるさいうるさい! 俺は、そいつに散々貢いだのに見向きもしてくれなかった! 気付けば借金取りに追われる始末! そいつと一緒に死ぬ!」


 蓮さんが下ろすように言うが、聞く耳を持たない。

 男は興奮状態だ。

 ここで高圧的なのは逆効果。

 横からゆっくりと近づく。


「そうだったんだな。それは、やるせなかったよな」


「お前に何がわかる! 来るな!」


 一歩また一歩。

 小さく確実に近づく。


「俺もそそのかされそうになったんだ」


「お前も?」


「あぁ。甘い言葉を投げかけられてな……」


「そうだよな!? アイツが甘い言葉を言ってくるから、俺は……プレゼント買ったり、酒を飲ませてあげたりしたんだ」


「そうか……色々してあげたんだな……」


 あと数歩のところまで来た。

 ここまで来れば一瞬だ。


「そうだよ! あいつが! ウィンドカッ────」


 目線が俺から再びそれた。

 テーブルにあったコップを持って。

 男に投げつけた。


「うわっぷ!」


 手で目を拭く動作に移行した瞬間。


「がぁぁ!」


 腕の親指を握って引っ張った。

 ナイフが落ちる。

 蹴って遠くに飛ばし。

 

 そしてそのまま膝裏を蹴り。

 床に頭を付けさせる。

 腕は後ろに。


 腰にケツを下ろす。

 これで身動きが取れない。


「皆さん! 怪我はありませんか!?」


 辺りを見回すとみんな頷いている。

 大丈夫だったようだ。

 危なかった。もう少しで魔法を撃たれるところだった。


 ポケットからあるものを出し。

 男の親指同士を合わせて。

 チキチキチキッと結束する。


「亮くん、そんなの持ってたの?」


「先生に便利だって聞いたんで」


「お手柄だよ」


「後は、警察ですね」


「今呼んだ。あっちのフォロー頼んでいいかな?」


 咲月さんが指を指した方を見ると震えているエレナさんがいた。

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