第5話 準備
「今日はどのようなものをお探しですか?」
店に入っていきなり聞かれた。
ジャージで入ったのが行けなかったのだろうか。
アカキに入って真っ先に中年の男性に聞かれたのだった。
「あっ、はい。地味めなスーツを探してまして。礼服とは違うんですけど……」
「はい! かしこまりました! こちらに!」
案内された先には青に赤のステッチが入ったスーツが。
いや、地味なのって言ったよね。
こんな目立つの来てたら標的にされるわ。
何考えてんだコイツ。
「すみません。こういうのじゃなくて、紺とか黒でも構わないです。礼服じゃないやつを……」
「はっ! 申し訳ありません! こちらです!」
今度は黒に金のステッチのスーツ。
俺をなんだと思ってるんだ?
地味なやつって言ったのに。
頼りにならんな。
「自分で探します」
そのスーツを素通りしてビジネススーツのコーナーに。
紺のストライプのスーツがあった。
これもいいなぁ。
でも、目立たないのは模様は無い方がいいな。
模様がないものを選ぶ。
「これがいいかな」
次にネクタイを選ぶ。
地味にした方が良いんだろうし。
グレーのネクタイを選んだ。
「そのようなもので宜しいのですか?」
店員さんが問いかけてくる。
だから、俺をなんだと思ってるんだ。
これでいいんだ。
ベルトと靴、靴下、ワイシャツ。
次々とビジネスコーナーで選んでいく。
「これでお願いします」
「先程は失礼しました。お預かりします」
会計を済ませる。
今日預金から下ろしたのだが。
思いのほかお金持ちで液晶画面を二度見してしまった。
ゼロ一個間違えてないかな。
そう思うほどの多い預金だったのだ。
荷物を抱えて店を出る。
午前中が終わろうとしていた。
人混みを流れに乗って駅に向かう。
新しい新居は都心から五駅ほど離れた所だった。
自分的にはいい距離感だった。
その駅周辺も気に入っている。
最寄り駅について降りると。
家への帰り道で昼食を済ませられるところを探す。
久しぶりに外食するかなぁ。
何が食べたいか。
自分に問いただしてみるが。
答えはなかなか出ない。
スーパーにフラッと寄る。
あっ、このプロテインこんな味あるんだ。
鶏肉安いじゃん。
野菜食いたいよなぁ。
久しぶりにパスタ食べるかな。
キャベツ茹でたのと鶏肉を煮たものをさいて上に乗せて。
あぁ。腹減ってきた。
少し酒……いや、止めよう。
炭酸水だな。
ノンカロリーだ。
果物もあった方がいいな。
バナナだな。
エネルギーになる。
あれ?
なんか気付いたら食べたいものが筋肉を形成したり、エネルギーになる物ばかりだ。
習慣って怖いな。
まぁ、悪いことじゃないからいいか。
会計を済ませて外に出る。
いやー。なんか自由な時間でいいなぁ。
スーツの買い物をした物を肩にひっさげ。
スーパーの袋を下げて歩いていく。
コンビニの前に差し掛かった。
若者がワラワラと屯している。
あぁ。こんな時期があったなぁ。
なんかわけぇな。
あっ、このコンビニで売ってるエナジードリンク気になってたんだよな。
方向転換してコンビニに向かう。
すると若者達がざわめき出した。
別にとって食おうとしてる訳じゃないんだが。
サァッと海が割れるように道ができる。
素通りして中に入る。
エナジードリンクあるかな。
おっ、あったあった。
二本買おう。
レジに持っていくと店員さんの手が震えている。
どうした?
大丈夫か?
金を払って店を出る。
若者達は居なくなっていた。
家に帰ったか。
うんうん。
その方がいいぞ。
午後を有意義に過ごした方がいい。
家に着くとテーブルに買ってきたものを広げる。
冷蔵庫に入れるものを入れて。
思ってた昼食を作る。
ここ一年で自炊する事に抵抗はなくなった。
むしろ、好きかもしれない。
コトコトと鍋の中で泡立つ様を見る。
なんかこの時間が結構好きなんだよなぁ。
パスタと野菜と肉を一緒にいれる。
その方が効率的だから。
盛り付けて。
和風ドレッシングをかける。
パスタソースも美味いけど。
こういうの好きだな。
パスタじゃなくても結構鶏肉と野菜にドレッシングをかけて食べてたな。
食べ終わって片付けをして落ち着いた。
少しテレビをつけてぼぉっとする。
こんなに何もしないの久しぶりだなぁ。
「っしっ!」
立ち上がる。
静かにできる腕立てや腹筋。
スクワット。
軽く汗を流して。
プロテインを流し込む。
二時間が経っていた。
なんか結局筋トレしちまったなぁ。
はぁ。
少し寝っ転がって天井をみる。
まさかこんな事になるなんてあの時は思ってなかったなぁ。
言葉もこんなに普通になった。
お前がいたら驚くだろうな。
お前なら「何その言い方? おもしろーい」って笑うんだろうな。
あの時俺は、咄嗟の出来事で反応できなかった。
今なら良かったのに。
そう思う時があるよ。
この一年強くなることしか考えてなかった。
昨日、護さんと手合わせして強くなったって少しは実感したよ。
あっちは油断してたのもあると思うけど。
「あぁーーー。明日からかぁ。いよいよだなぁ。楽しみだ。皆と仲良くなれるといいけどなぁ」
次の日から再び怒涛の日々になることをこの時はまだ知らなかった。
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