16
「ここまでの話を聴いてどうです? 勘のよい浅倉さんならこの女性が誰で、その夫である
宗胤の声が不快で仕方がない。想像? 僕が殺したと言っているのに、この期に及んでこの坊主は僕が犯人ではないという仮説を押し通している。僕の領域に土足で踏み込み、自分だけが知っている情報の頭だけをちょこちょこと見せびらかしては優越感に浸る性格の悪い男……潰す苦虫も尽きるほどに、僕は静かに歯を噛み締めていた。
ようやく。僕の人生を
なぜ最後の最後で気を抜いた? どうしてこんな簡単な役目ひとつ、まともに遂行できない。なあ、
——残り四十一分。まやかしの爆弾が、時を刻む。
「知らない。僕はもう何も喋らないって言っただろう、勝手にしてくれ」
「そうですか。なら遠慮なく勝手に喋りましょう。今お話しした女性、
…………は?
「平成二十五年二月。
前田清玄が中退したのは高知県の大学……
「それから木村さんはSNSを削除し地元を離れ、ご主人と共に関東へ。しばらくは青年から連絡が来るのではないかと怯えていたそうですが、その心配は杞憂に終わったそうです。子供も授かり、木村さんの心は再び明るさを取り戻します。ですが悪魔というものは、忘れた頃にやってくる」
“五十万円、またよろしく”
「振込先と一緒にそう記載された手紙がご自宅に届いたそうです。木村さんは慌てました、ご主人がその手紙を確認したかは定かではなかった。ですがその直後、木村礼人さんは行方不明に。結局彼はその後も見つかることはなく……木村さんがご主人と再会を果たすのは、あなたが
くそ……どこまで腐ってるんだ、あの男。
「ご主人がいなくなってから、木村さんの人生計画は崩壊しました。元々職場での人間関係も良好でなかったのか、木村さんは周りから謂れのない誹謗中傷を受けることになります。浮気の末に捨てられた、金遣いの荒い嫁に愛想をつかした。子供も産まれて育児に追われる中、そのような口撃で木村さんの心は崩壊してしまうのです。但しタダでは転ばなかった。気づけば彼女は青年のSNSを探り、復讐心で自我を保つようになります。当時の恐怖を削ぎ落とせば、残るのはお金を奪われた怒りと恨みになるのは必然だったのでしょう。話した限り、木村さんはプライドの高い女性に見受けられましたから」
怒涛に喋り倒す宗胤は穏やかな口調のくせして、僕に口を挟む隙を与えてはくれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます