憑神探偵
トシ
『死亡宣告』編
――深夜番組や臨時放送に気を付けろ。
中には意味不明な映像やテロップが紛れているものがあり、それを見たが最後あなたは
殺 さ れ て し ま う か ら――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
全ての番組が終了し、TVから砂嵐の様な画面が映し出されている。
「……う……んん……」
彼女は目を覚まし、辺りを見回してみる。
自分の部屋、点けっぱなしの照明。時計の時刻は午前四時を過ぎていた。
「……いっけない……課題やってて、いつの間にか寝ちゃってたんだ」
今日の大学講義は朝からだった事に気付く。
「シャワー、どうしようかな……朝浴びようか」
寂しさを紛らわす為に独り言が多くなったとか、そんな事を考えていた矢先に異変が起こった。
――バツンッ!
突如部屋の照明が落ち、辺りが闇に包まれる。
「え? て、停電⁉」
その予想が外れている事に彼女は気付く。
(……何でテレビの電源だけ点いているの……?)
テレビの画面から光が放たれている。内容は変わらず砂嵐のまま、そのはずだった。
「……なに……これ……?」
映像は牧歌的な風景に切り替わる。高い頂から町……というより村を見下ろし、ノイズだらけで昭和時代の映像を流している印象。
更に画面切り替わり、今度は能面を被った大勢の人間が立ち尽くす。
何か喋っているようだが、うまく聞き取れない。
「何の番組? 訳が分からないんだけど……」
リモコンに手を伸ばすと、唐突に画面下から名前が上がってきた。スポンサー紹介? それにしては番組が謎過ぎる。
『――岩手県奥州市 サイトウ ヒデヨ(63)
――福島県伊達市 ヤマシタ トモミチ(41)
――茨城県古河市 ハヤシ エミリ(7)』
無機質に名前を読み上げられていく。
「気味悪い……早く切ろう――え?」
流れていく名前の中に、彼女の友人である
「なんでアキちゃんの名前が……同姓同名?」
それだけではない。しばらくすると、自分の名前まで呼ばれてしまう。
「な、何で私の名前が⁉ 何よ、これ⁉」
名前呼びニ周目を終えると、画面は切り替わる。
オルゴールのような悲しげな音楽と共に、最後はこのような言葉で締め括られた。
『――今◎ 丿死亡 者 ハ以 上 de巣
ソレ で ㇵ 皆さ NNNN
ヲ 耶 す 彡 ナ sa ィ゙――』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――数日後。
緊張した面持ちの女子高生が、ある汚い雑居ビルの前に立っていた。
もうかれこれ十分以上、扉を叩くべきか悩み立ち尽くしている。
(ここまで来たんだし勇気を出さなくちゃ……!)
意を決して扉を叩こうとした、次の瞬間。
「――――ッ⁉」
突如前触れなく開け放たれた扉に、彼女は顔面を強打する。
声なき悲鳴をあげ、彼女は顔面を抑え
「……オマエ、そこでさっきから何してんだ?」
霞んだ視界で見上げると、そこにはクチャクチャ何かを噛み締める目つきの悪い男性が立っていた。
これが彼女と
――事務所へ通された彼女は、緊張した面持ちで現在ソファーに座っている。
部屋は本棚に囲まれ、床は飲み物や雑誌、食べ終わった弁当などが散乱して正直汚い。
正面には大きな机が置かれており、現在は彼女を出迎えた(?)男が椅子に座り机上へ足を放り出し、ふんぞり返っている。
(ここ……暴力団事務所とかじゃないよね……?)
彼女の不安が
「アンタ、何?」
アンタこそ何なんだと思ったが、口に出せない。
「消費者金融から催促に来たとしては、随分若く見えるな。その制服は
「ち、違いますッ!!」
制服を着てきたせいで、あらぬ誤解を受ける。
「あの、ここって……探偵……事務所ですよね?」
「おう。ここは【犬崎探偵事務所】……そして俺が所長の犬崎快刀だ」
男の言葉に彼女は、顔を引きつってみせた。
「もしかして、オマエ……依頼人か⁉」
「え、あの、いやその」
「何だよ、そうだったのかよ! だったら早く言えっつんだ。そうか依頼人かぁ!」
嬉しそうにしている犬崎を尻目に、彼女の怪訝な気持ちは色濃くなるばかり。
「若くても親から小遣いとか結構貰ってんだろ? ちょっとさぁ、依頼とは別に金貸してくんないか? 今月ピンチなんだ、頼むぜ」
「…………」
彼女は呆れて物が言えなかった。一瞬帰ろうかと考えたが、すぐに頭を横へ振る。
「犬崎さん、貴方の噂を聞いて伺いました。依頼を頼みたいんです、よろしくお願いします」
「とりあえず、アンタの名前は?」
「あ、遅くなりました。私、
「その制服、有名なお嬢様学校のだよな」
「お嬢様学校……周りはそんな言い方しますね」
「ふーん……そうかそうか……(金持ちのお嬢か。こりゃ、タンマリふんだくれそうだぜ)」
「どうかしました?」
「いや何でもねぇ。気にしないでくれ。んで、依頼内容を教えてもらえねぇか?」
「あ、はい……依頼というのは、私の姉、
「いわゆる尋ね人か。姉ちゃんは、いつからいなくなったんだ?」
「三日前です」
「姉ちゃんは何歳だ?」
「二十歳です」
「ハタチィ? そんな年頃の女だったら三日くらい家を空ける事もあんだろ」
「違うんです!」
「偉く断言するじゃねぇか。姉ちゃんが誘拐された証拠でもあんのか?」
「証拠……というより……あれは普通じゃない……普通じゃないんです……」
そう語る未夜の体は、小刻みに震え始める。
「何が、どう普通じゃないんだ?」
「言葉では……ちょっと……」
「警察には知らせたんだろ?」
「勿論です。ですが、ちゃんと捜査してくれず……また何かあれば連絡してくれとだけ」
「そんな事だろうな。まぁ、だからこそ探偵稼業が生き残っていけるんだが」
犬崎は口から風船を膨らませながら天井を仰ぐ。
「姉ちゃんと最後に連絡取ったのは、いつだ?」
「二日前です……」
「どんな話の内容だったか覚えているか?」
「はい……姉から電話がかかってきたのは朝方近い時刻でした……私はその時間、熟睡していて電話に気付かなかったのですが」
「ですが?」
「留守電に……姉の声が入っていたんです……」
未夜は携帯を取り出し、留守録を再生させる。
ザリザリと耳障りな音と共に、鬼気迫った女の声が聞こえ始めた。
『……未夜……未夜ァッ……! 助けてッ!!』
この声の主が、未夜の姉で間違いないだろう。
『私、私ッ! 殺ッ……殺されちゃうッ‼ やだ、やだッ! 死にたく……死にたくないッ‼』
未夜は耳を塞ぎ、目を閉じる。
『……テレッ……ビ……! 来るッ! やだッ! お母、さん! お父さ、ん! 未夜ッ! 助け……助け…ッ――――
ギャアァアアアアァアアアアアッッッ‼‼』
突如、未夜の姉の悲鳴が携帯から響き渡った。
ここで録音は終了。犬崎は携帯を閉じ、未夜に「もう終わったぞ」と告げる。
「姉ちゃんに彼氏はいるのか?」
「は、はい。一度家に連れてきた事があって、同じ大学に通う人だと聞いています」
「多々気になる点はある。確認しなきゃいけねぇ」
「そ、それでは」
未夜の表情が、ぱぁっと明るくなる。
「いいぜ、この依頼――引き受けよう」
「あ、ありがとうございます!」
「姉ちゃんが通う大学へ向かう。ついてこい」
犬崎は立ち上がり、ガムを膨らませながら呟く。
「……おもしろくなってきやがった……」
ガム風船が弾けた先から覗く犬崎の表情は、不敵な笑みを浮かべていた。
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