第18話 新任領主。

『“付き添いが少ないようだけれど”』

《“お嬢様がご実家に遠慮され、この人数でと申されての事で。ですがもう2人コチラに来る手筈にはなっておりますが、如何致しましょうか”》


『“あぁ、そうなんだね、来て貰って構わないよ”』


《“すみませんが今日着いたばかりですので、別棟をご案内頂けますでしょうか”》

『“そうだね、彼に着いて行くと良いよ”』


《“はい、では失礼致します”》


 何で俺が執事コレやんのさ。

 いや、アイツにさせるよりは良いよ、それこそサラと一緒に居られるんだし。


 けどさぁ。


「ボンクラっぽいなぁ」

《それな》


 俺やサラの肌の色に、違いに偏見が無さそうな所は良いけど。

 弱そう、軟弱そう。


 けど仕事はしっかりしてる。

 それこそ俺まで使うんだもん、お陰でサラとあまり一緒に居られない、けど。


『“本当に、先代様は良い方だったんだけどねぇ”』


 話が聞ける。


 良い奴過ぎて騙されそうになって、奥さんが何とかしたけど、妹と共に出て行った。

 で、それを追い掛けて先代当主は代替わり、この若いのになった。


「“今の当主様の方が向いてはいるんですよ、奥様がしっかり教育されましたから。でも、どうにも人の良さが滲み出てしまって”」


 先代の息子だから、と。

 詐欺紛いの誘いが耐えない、新任の挨拶って名目の勧誘がじゃんじゃん来る。


 でも後ろ盾が殆ど無いんだよねぇ。

 社交は殆どが先代の奥さんで、寧ろ今は見極められてる最中、確かにコレを1人ではキツいわ。


「“だんなさま、おくさまがおよびです”」

『“あぁ、すみませんが、妻の呼び出しが有りましたので、また後日。見送りを頼むよ”』

《“はい”》


 で、俺に情報収集させんの。


 うん、柔和なのは見た目だけだわ。

 中身は凄いしっかりしてる、経営も問題無し、そら王家王族が目を掛けるのも頷けるわ。




『“はぁ”』

「“おつかれさまです、ハーブティーですよ”」


『“ありがとう”』


 詐欺師に名簿が出回ってんのかい、って位に怪しいのも来まくんの。

 父上には世話になった、って、良い身なりのクセにクソ胡散臭いの多め。


 マトモそうなのとヤベぇの半々、そら妻を欲するわな、しゃーない。


 けど奥様は無能で、凄くシャイ。

 って事になって貰ってる、で実は侍女とデキてる、とも。


 いや穏便に済ますのってコレしか無いかな、と。


「“すみません、かほごにそだちすぎたんだそうです”」

『“君は謝らなくて良いんだよ、今はまだ隣が不安定だし、王家王族も一枚岩では無いとは分かっているから”』


 ごめんね、そこも全部、王家王族の計略の中なんだよね。


「“さがしてくれてるそうです、ちゃんとしたひと”」

『“最低でも、君の様にしっかりしてる子なら誰でも良いんだけれどね”』


 中世なんだけどさ、安定してるからか草食系男子多いんだよね。

 それこそジャミルみたいに流されちゃうのも多い、女も男も。


 でも折角、この人はちゃんとしてるんだし。

 一から教育しないとダメな嫁より、既に即戦力になる子を。


 うん、私も確認したろ。


「“おみあいの、みてもいいですか?”」


『“そうだね、いい加減に手を付けないとね”』


 妾候補にと、わっさわさ来てるんだけど。

 仕事と接客で時間が殆ど取れないんだよね、当主様。


 で何人か見てみたんだけど。

 流石に色んなの来てて、良さそうなのと凄いヤバそうなのが居た。


 あ、コレ勘ね。


「“すごいいいのとわるいのです、かんです”」

『“成程ね、じゃあコレから対応してみるよ”』


 王家王族に相手を探して貰ってるけど、コッチもコッチでしないとね。


 けど人手が無くて大変だったらしい。

 そら奥様と先代にも使用人は必要だからで、ココには精鋭が残ってくれたんだけど。


 あら、もしかして先代の奥様の策略か?


 ヤベぇ、有り得る、アスマン様なら絶対有り得る。

 成程ね、でココでも私が実績を積めば。


 凄い、何にも無駄が出ない。

 すげぇな、レウス様のお兄様。




『彼女の勘は凄いね、正に天と地の差だよ』


 妻になる筈の婚約者は女色家で、しかも殆ど領主の仕事を知らず部屋に引き籠ってばかり。

 そんな王家王族の采配に絶望しなかったのは、彼女、サラのお陰だ。


 兄妹で連携しコチラが何も言わずとも客の選別を行い、僕を接待から逃がしてくれる。

 そうして仕事に戻すと、家の手伝いを始めてくれる。


《ご婚約者様は人を見る目だけ、は有りそうですね》

『ただ、そこだけ、ではね』


 サラの外見を好み、声を掛けた事が切っ掛けで侍女になって貰ったそうで。

 運が悪ければこの家は更に混乱し、直ぐにも王宮へ苦情の手紙を出す事になっていただろう。


《それで、どちらが良き方、なんでしょうか》

『コッチだったけれど、こうなるとね、もう少し答えは保留にしておこうと思う』


 まだ表の情報しか出揃っていない。

 ただ、裏に回す人手が無い。


《であればサラにお願いしては》


『そうだね』


 兄妹や婚約者、使える者は猫でも使わない限り、この家をマトモな状態にするにはあまりにも時間が掛かる。




「“こっちがいいとおもいます”」


 勘は良く働くんだけど、自分の時だけしか正確には分からないんだよね。

 他人の事となると、何か胸騒ぎがするってだけ。


 で、今回はキツい顔の子がまんま悪い子、今さっき会った温和な顔の子が良い子だった。


 キツい顔の子はバリバリ仕事が出来るんだけどさ、人と物の扱いが雑、ウチの当主様には不向き。

 けど顔が温和な子はもう、社交バリバリ、言葉使いが上手い上手い。


『“成程、実は王宮からも来たんだよ、返事がね”』


 で、温和な子が王家王族の本当の推し、らしい。


 なら最初からその子を紹介しろや、とか思ったんだけど。

 泳がせてたからこそ、ヤバそうな奴がココにじゃんじゃん来て、かなり情報が拾えたんだと思う。


 うん、何でも無駄にしない知恵にはマジ感服だわ。


「“あたってよかったです”」

『“ただね、更に君には働いて貰う事になりそうなんだ”』


 身代わりの身代わりの元、姉ちゃんの次の婚約者が既に決まってやがって。

 どうするべきか、私がエセルと相談する事に。


「ちょっと、聞いて無いんだけど」

「“うん、すまないね、調べる中で出て来てしまったんだ”」


 今でも当主様の相手は妹の方って事に周りにはなってて、姉ちゃんの相手に、と名乗り出たのが出たらしい。

 破格の婚約費用を出すから、その虐められる程に外見が違う子が良い、と。


「裏しか感じないんだけど」

「“裏は良く有る貴族の好奇心、暇潰しだよ”」


「あぁ、死ねば良いのに」

「“どうやら向こうの母君もそう思ってる様で、君に動いて貰いたいんだ”」


「もうココは良いの?」

「“お相手も君のお陰で乗り気だからね”」


 この外見でも私を大切に扱って、手出しをしない。

 そこを信用しての事らしい。


 うん、便利だわこの外見。


「じゃあ、1度実家に帰る?」

「“そこで入れ替わりを画策しているそうだからね、その通りにさせる、そして身代わりに嫁ぐのは君だよ”」

《“隣国で動くんじゃなかったの?”》


「“文句が有るならサラの代わりを探して来てくれるかな、お兄さん”」

「はいエセルの勝ち、それとも見付けた?奥さん候補か私みたいな子」


《ぅっ》

「よし、今回は生温かったし、次こそ本番だな」




 サラは使用人の仕事をしつつ、人を選別し、当主の補佐をしっかり行い。

 嫁探しまでこなし。


『それで生温かった、か』

「次こそ本番だな、と」

《頼もしいわねぇ》


「それはそうなんですが、こう立て続けは、分かるんですが」

『これからも、コッチの都合で動かせない事が増えるぞエセル』

《そうね、掃除するのは他人の家だもの》


 もし、サラが本気で仕事にしてしまったら、一緒に居られる時間が極端に減ってしまう。

 そこだけは阻止したい、けれど。


 彼女は生き生きしている。

 肌の色の違いから怪訝な顔をされても平気で無視し、目的をこなし、コチラが望む以上の成果を出す。


 けれど対価は侍女としての賃金のみ。


 僕どころか国の都合としても良い、良過ぎる。

 何とか守らなければ、下手をするとレウス様の末弟の妾か、正妻候補に。


 なら、国益の為にも、僕は。


「僕は、また、国益の為に身を引かないといけないんでしょうか」




 バカと天才は紙一重と言うが、まんまだなエセルは。


『バカが、誰がそこまでしろと頼んだ、そもそもアイツの事でも』

《もう、サラの事になると途端に視野が狭くなるわね、何も妻や妾だけが国を支えられるワケじゃないでしょう?》


「まさか」

『言うな、何処に耳が有るか分からんからな』

《サラが呑む様に、少し、誘導するだけよ》


「僕は絶対に協力しませんからね、一緒に居る時間が減っては困ります」

『おうおう、精々足掻け』

《ただサラの意志を曲げたらダメよ、好きなら沿うか離れるか、だけ》


 サラの見極めは勿論、その先の件については、エセルが仕事を降りる機会でも有る。

 このまま国の中枢に居るか、王宮から出るか、その判断はコイツに任せるつもりだ。


 なんせ本気で頭が良いからな。

 幾ら俺がどうこうしようとも、政治が絡めばエセルには負ける。


 だが兄上が相手となると。


 両者に本気で争われたら困る。

 となれば、本人達に投げるのが1番恨まれないだろう。


「サラに会いたい」

『悪かった、次はお前が侍従だ、少しは好きにしろ』

《あらダメよ、身は清いままで居させて頂戴ね、サラの為に》


「そんな無責任な事はしませんのでご心配無く」


 どうだかなぁ。

 アレはウチの嫁の夜伽の内容について難色を示さなかった、それは無知の知か、かなりの知識を持っているか。


 ただ、どうにも、ウブな童貞に立ち向かえる相手とは思えんのだが。

 まぁ、本人がこう宣言したんだ、精々頑張って貰うとするかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る