第8話 侍女と侍女。

『心配しないで良い、ちゃんと真意は伝わってる筈だからね』


「ごめんね本当、もっと早くに突き放せば良かったんだろうけど、機会が無くて」

『下手に突き放せばムキになる、コレで良かったんだよ』


 ヤバいわ、女同士の言い合いとかは慣れてるから良いんだけど。

 兄妹喧嘩、しかも程良く言うって超難しくて、ちゃんと考えて言ったんだけど。


 上手く伝わってるか、誤解してないか、程良く手加減出来てたかが気になって気になって。


 ちょっと五男が良く見えてる。

 ヤバいわ、追い込まれ過ぎ。


「ダメだ、不安だから暫く侍女に相手して貰うわ」

『うん?分かった、引き籠もり過ぎない様にするんだよ』


「うん、ありがとう」


 そして、新メンバー、侍女ちゃんの紹介です。


『女なら最高の女なんですけどね、五男様』


 うん、男色家ならぬ女色家なんだよね。


《あら、浮気?》


 はい、コッチも、まぁ謂わば夫婦。

 婦婦?なんだよね、前の婚約者のお屋敷の侍女で、うっかりヤってる所を見ちゃって。


『いや、お嬢様に寄り添った考えをしようと思って』

《あぁ、成程ね》


 こんなんだけど、便利そうだから貰った。


 他は殆ど良い人で、あ、コイツ叩かれるの止めなかった奴なんだけど。

 まぁ、当主様の事を守りたかったのはマジで、だから許したんだよね。


 しかも弱味も握ってるし。


「うっかり良いなと思いそうになって逃げて来た」

『ほら』

《流石ね》


「でさぁ、どうしよう?」

『どっちか、ですよね。無難に嫁いで周りを安心させるか、思った通りに行動するか』

《私は無責任なので言いますけど、お嬢様の思う通りに生きた方が、楽しいと思いますよ》


「だよねぇ」


 アスマン様からは、お兄ちゃん達の事は気にせず、良いと思う人に嫁ぎなさいって手紙が来たし。

 私の幸せを追求してこそ、アスマン様も皆も幸せになれると思ってるんだけど。


 何か、ちょっと我儘な気もするんだよね。

 前回の当主様は条件的には問題無い、けど誰かを重ねられんのマジで無理。


《今回も、良いのは居なかったんですよね》

『私から見ても、無難過ぎてちょっと、逆に、お相手が耐えられるのかと』

「だよねぇ」


 真面目過ぎたり大人し過ぎてもダメ、程良い歯応えが有って、少しは打たれ強くて面白みが有る人。


 ってなると、七男なんだけどさぁ。

 やっぱり、どうにも弟なんだよねぇ。


 いやさ、最近はかなり男らしくなって来たけど。

 アスマン様も兄弟と結婚させる気は無い、って言ってたし。


 手近に手を出すって、何かダサいじゃん、妥協してるみたいでさ。

 失礼じゃん。


《その気になるお相手は、どこの国の方ですか?》

「地元の上」

『釣書きは普通でしたけどね』


「手に取って開いた瞬間、ゾワゾワしたんだよね、嫌な意味で」

《それがもし恋の始まり、なら良いんですが》

『取り敢えずは温かくしましょう』


 で、どう折れたのか分かんないけど、悪寒が走った相手の所へ向かう事に。


 で、勘がココまで当たるとは思わないじゃんよ。

 クソ評判が悪いって、地元じゃ相手を探せないって、相当でしょうよ。


『すまない、引き返そう』

「いや、凄い気になるじゃん、呪い」


『もし本当なら』

「困って無いなら去る、お願い、人助けは最後にするから」


 まぁ、困って無いワケ無いよね。

 呪われてるって周りに言われてる位だし。


『すみませんが、そのベールは』

《顔を見ると呪われる、そう気にする者が居るので、すみません》

「なら私だけで。何、大丈夫ですって、知り合いのジプシーを応援に呼んでますから」


 そう、こんな事も有ろうかと今回は入念に下準備して来たんだよね。

 男色家かどうか、浮気性かどうかの見極めも手伝ってくれるって言うし。


 うん、持つべきモノは横の繋がりだよね。




《あの、何で》

「呪いが解けるかと思って」


 僕がベールを退け顔を見せると、顔の痣を気にもせず、口づけを。

 何故、どうして。


《もしかしたら、コレで君も》

「大丈夫、備えは万全ですから」


 綺麗に柔らかく微笑まれた。

 いつぶりだろう、もしかしたら初めてかも知れない。


『そんなにウチの子を気に入ってくれたのね』

「はい、気に入りました。ありがとう、お兄様」


 彼女はとても良い匂いで。

 柔らかくて。


『サラ、婚姻前だよ』

「失礼しました、日取りはいつにしましょうか」


《どうして、僕なんか》

「僕なんかと言わせない様にしたいので、嫌ですか?」


《嫌じゃないけれど》

『では僕らは僕らで話し合いをしましょうか』

『そうね』


 そうして先ずは婚約が済み、彼女とも一緒に住む事に。


「お母様が取り仕切って下さって助かります」

『良いのよ、私の愛する息子のお嫁さんの為だもの』


 母とも諍いを起こさず、何かを要求される事も無く、5日が過ぎた頃。


「ひゃー、初めての蕁麻疹だ」

『あ、直ぐに医者を』


「いえ、ただ痒いだけですし、先ずは呪いかどうかジプシーの方に診て貰うんで、その後でお医者様にお願いしますね」


 ジプシーは呪いだ、と。

 けれども医者はただの食中りだ、と。


『そう、タラが原因かも知れないのね』

「いやー、今までは大丈夫だったんですけどね」

《暫くは料理で出さないでおこう》


 けれど10日が過ぎた頃。


「すみません、今回の月経が凄く重くて」

《無理をしないで、ゆっくり休んで》


「はい」


 そうして20日目の朝。


《凄い熱じゃないか》

「あれー?元気なんですけどね?」


 熱を出した2日目には下がったもの、すっかり食欲が無くなり。


《すまない》

「元気な方なんですけどね、すみません」


《いや、やっぱり婚約は破棄しよう、君には生きてて欲しい》

「ダメですよ、単に私が弱ってるだけかも知れないんですから。弱気にならず、頑張りましょう」


 そして、一月経ったある日の朝。


《母上、何をしたんですか》


『こんな浅黒い子は止めて、もう少し白い子にしましょう』


 サラは血を吐いて、ベッドの上でもがき苦しんで。


《母上》

『良い子なのだけど、肌の色がね』


《今まで、全て》

『アナタを守る為よ。大丈夫、ちゃんと良い子は見繕って有るわ、ほら』


 扇で指し示した先には、サラの侍女が。


『お嬢様に去れと言うだけで良かった筈では』

『だって、そんな可哀想な事はしたくなかったのだもの』


『だからと言って、毒殺ですか』

『どうせ何度も婚約破棄された子なのだし、死んだ方が楽でしょう?』


『彼は傀儡、ですか』

『嫌だわ、そんな酷い言い方。私はこの子を守ってるだけよ』


 こんな恐ろしい人だったなんて。

 僕は。




「お兄ちゃん、聞いてた?」

『あぁ、お前の勘は良く当たるな、サラ』

《コレぶっ殺して良いか?》

《サラの部屋を汚すのは得策じゃありませんよ、後にしましょう、後に》


「コレ私の血じゃないから大丈夫だよ、ウミガメの血だから」

《サラ、具合は》


「大丈夫、ごめんね騙して」

《ううん、無事なら良いんだ》


「もう分かったと思うけど、呪いは全部お母さんのせいだよ、その痣もね」


《痣も》

『そうなの、全てアナタの』

《殺そう》

『いや、ココは当主に任せよう』

《どうしますか、当主様。密かに殺すか、見せしめに使うか》


「お勧めは見せしめなんだけど、実の母親だし」

《いえ、もしかしたらまだ呪われていると怖がってる人達が居るかも知れません。どうか見せしめにご協力下さい》


『では、条件に妹との婚約破棄をお願い致します』

「アナタが好きだって人を見付けておいたから大丈夫、頑張って」


《僕の事は》

「ごめんね、呪いが解きたかっただけ。この女の事で手一杯で眼中に無かったんだ、ごめんね」


《どうして、ココまで》

「ほら、キャラバンって幸せを届けるじゃん?それと同じ、不幸から解放したいなーと思って」


《だけ?》

「いやほら、先にアナタを好きだって人を知っちゃってたから、うん、ごめんね」


 あー、ココで抜け殻になられると困るんだけど。

 引っ張っても良い事が無いって兄弟で実感してるし、まぁ、兄達に何とかして貰おう。


『当主、構いませんか』


《はぃ》


 いや本当、ごめん。

 顔も声も可愛いから好きになれそうだったんだけど、呪いが有っても好きだって、影で支えてた従姉妹ちゃんを知っちゃうとね。


 うん、恋路を邪魔するとか無いわ。




「どう?大丈夫そう?」

《残念ですが》

《平気そう》

『サラが憎まれ役になったお陰だろうね、お疲れ様、サラ』


「はぁ、良かった」


 サラは惚れる前に、彼に相応しい相手を見つけ出してしまっていた。

 それが最初の毒を盛られた日、彼女は彼の痣を良くする為、変装しジプシー達から薬草について学んでいる最中だった。


 そして僕が訪れた際、直ぐにも身分を明かし、サラに助力すると。


《けどさぁ、何もキスしなくたって》

「だって絵本だと良く有るじゃん」

《立ち直って頂けたから良いですけど、それが無かったらもう少し早く》

『いや、逆に暴くのが遅くなったかも知れないよ』


《けどさぁ》

「はいはい、ごめんねごめんねー」

『もう遅い、今日はもう部屋に戻ろう』

《サラを頼みますね》

《はい》

『お任せを』


 事の真相は、息子可愛さに染料で痣を染め続け。

 自分の理想とする嫁が来るまで、薬草を使い追い出し続けた、酷く子離れの出来無い母親の仕業だった。


 サラの勘は当たる。

 特に悪い事に対して、どうやら鋭く働くらしい。


『サラが男だったならな』

《いやダメでしょう》

《そうなると四男に取られてたかも知れませんね》


『いや、アレは年上にしか興味が無いらしい』

《いやそうじゃなくてさ》

《そろそろ妹離れしたらどうですか、このままだと毒殺しそうですし》


《他に女が出来たからって》

『今更、この年で仲裁はしたくないんだが』

《すみません》


 六男に女が出来たのは良い事なんだが、サラの事になると未だに冷静さを欠く。

 しかも七男に至っては、未だにサラを。


《で、次はどうするって言ってんの》


『一旦は帰るそうだ』

《ジャミル以外、綺麗に居なくなりましたからね、母さんとサラの祖母のお陰で》


 詐欺紛いの取り引きを行わせ、暴れた所で更に今までの悪行を暴き、鉱山送りとなった。

 小さな悪事だったが、積み重ねれば相当の事。


 母の実家も出る事になり、事は公にはならなかったものの、何も知らないままで居たジャミルだけが残った。

 だが。


『政略結婚も確定したんだ、事実上、家は無くなる』

《当然でしょうよ、サラを見殺しにしようとしてたんだしさ》

《ですね》


 サラに掻い摘んで伝えたが、ジャミルの事をすっかり忘れており。

 何もしなかった事を、逆に謝られた程だった。


『さ、久し振りに家に帰るんだ、ゆっくり休んで万全の体制で行こう』

《うん》

《はい》

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