第6話 祖母。

 地中海を船旅しちゃって、着いたのはモロッコ。

 産みのお母さんの生まれ故郷なんだけど。


 確かに、見た目はそんな変わんないし、食べ物もそこまで変わらない。

 こんなに離れてるのに似てる、寧ろエジプトの方がそこそこ近いのに違うの、不思議。


『“私が、祖母ですよ”』


 うん、言葉ギリギリだ。


「“よろしくおねがいします”」

『“聞き取れるから大丈夫よ”』


「私もです」


 それから細かい所はお兄ちゃん達に通訳して貰って、生みのお母さんの事を何となくは知れたんだけど。

 あんまり見習いたいな、と思えないんだよね。


 だってさ、凄い好きになって身分差とかも超えて結婚したらしいんだけど。

 コレじゃん。


 クソ子種袋はクソ女に財を狙われ酔い潰され、色んな意味でハメられて、妾を持った。

 で死んだ後、好きで選んだ筈の夫は子に無関心でドチャクソ子供が苦労して、生前に選んでた婚約者も家もクソ。


 要するに自分の好きな様にしたかっただけの、自分勝手な我儘女なんだよね。


 お祖母さんはしっかりした人っぽいけど、結局は教育に失敗したから、私が苦労したんだしさ。

 少なくとも誰も失敗してないアスマン様の方が尊敬出来ちゃうんだよね、ごめんねお祖母さん。


『“ずっとココに居ても良いのよ”』

「そうやってお母さんみたいに甘やかすんですか?」


『“そう思っても仕方の無いわ、ごめんなさい”』

「居るにしても、以降の改善点をお願い出来ますか?」


 出て来た案は良かったから、ほとぼりが冷めるまでお世話になる事に。


 でも超居心地が悪い。

 結局は腫れ物扱い。


 分かるんだけどさ、叱る時はしっかり叱らないと威厳とか効かなくなんのに、おっかなびっくりで叱るんだもん。

 上品って言うか、何か違うわ。


『“サラ、何か不満なら”』

「居心地が悪いのは勿論だけど、試しにおいたしたら、上品さに胡座をかいてしっかり躾けらんなかったんだなって思った。ココで得るモノを得たら去ります、後代の為にも私に何を言われたのか、しっかり考えて下さい」


 大人はもう仕方が無いとしても、従兄弟とか再従姉妹にはしっかりして欲しいんだよね。

 他人を私みたいな目に遭わせたら、兄弟総出で潰して欲しくなるし。


《サラ、次は何処に行こうか》

「次は砂漠かな、少しだけラクダに乗って旅してみたい」


《なら今は乾季で大変だから、海沿いを少し旅して、後はエジプトに行ってみようか》

「良いねぇ」


 別に規制はされて無いけど、きっと誰かと結婚したら、それこそ妊娠したら旅なんて無理な事なんだよねぇ。

 結婚前の娘には是非、旅を。


 いや、貞操観念ガッチガチだからなぁ。

 それこそ兄弟が付いてくれてるし、常に女性陣と一緒だから許されてる感じだけど、普通は無理か。


《流石、荷造りが早いね》

「前に貰った物は使って無いし、元の荷物が少なかったからね。よし、行こうか」


《そうだね、行こう》


 まぁ、素行の悪い子を装ってたから、使用人達は引き留め無かったんだけど。

 マズいと思うよ、一応、念の為に確認した方が良いと思うんだけど。


 まぁ、生みの親を育てた家だし、しゃーないか。




『何て事を!どうして引き留め無かったの!』


 今日の今日で出て行くだなんて。

 しかも使用人達すら私に確認もせず、あの子を送り出すだなんて。


「ですが、あの素行の悪さですし」

『お黙りなさい!あの子はね、私達を、この家を試す為、敢えて躾けの行き届かない子女のフリをしていただけなのよ。アナタ達、本気で、気付かなかったのね』


 試されている事は分かっていたわ。

 そして本当に私はどう接すれば良いのか、どうすべきなのかを悩んでいた、模索していた。


 そんな中、話し合おうと決意した矢先に、あの子から答えを突き付けられた。

 一気に腑に落ちたかと思うと、激しく後悔をした。


 上品さに胡座をかき、規範が疎かになっていたのは確か。


「ですが、だとしても」

『失態を犯したにも関わらず、言い訳から始まり謝罪は無し、コレではあの子に見捨てられて当然ね。当主の命令無しに客人を家から出した罰を受けなさい、アナタ達も覚悟なさい、粛清を始めます』


 穏便に、穏やかに上品に。

 ともすれば多少の失態は見逃すべき、そうして上流の余裕さを大事にし過ぎてしまった結果、娘は亡くなり孫は去った。


 もっと早くに出来ていた筈、なのにも関わらず私は今の今になって。

 私も、私こそ、上品さに胡座をかいてしまっていた。


 そしてまた、家族を失ってしまった。




「ねぇねぇ、何回目の手紙でお祖母さんに届くかな?」

《どうだろうね、先ずは今直ぐ出してみようか》


「良いねぇ、流石に置き手紙も何もして無かったし。あ、数字もふっとこか」

《直ぐには分からない様にね》


「流石」

《常識だよ常識》


 本物の家族が居るって、やっぱり強いなぁ。

 本当、流石に何も後ろ盾が無いと、ココでも大変だったろうし。


 こうして逃亡旅行も出来なかったろうし。

 うん、マジで感謝しか無いわ。


「よし、書けた」


《うん、最初は当たり障りの無い文書。本題は簡潔、量も程々、うん、いい感じに破棄しても問題無さそうな文書だね》


「後は何か無い?大丈夫?」

《もしコレを本気で届けたいなら僕が僕の名で宛先を書く、その手前ならサラが僕の名を使う、けど今回は初回だからサラがサラの名で出す》


「よし、そうするわ」

《そろそろお昼だね、何を食べようか》


「魚貝、アレ食べたい、牡蠣」

《生だよ?》


「うん、食べる」




 あの子からの手紙が届いたのは、どうやら三枚目にしてやっと、かしら。

 こうして試金石になってくれて、あの子は見捨ててはいなかったのね、何て優しい子。


『手紙に関わった全ての者を呼び出しなさい』


 前回の見せしめでは足りない程、家は腐敗にまみれてしまっていた。

 そうよね、あの子にとって居心地が悪くて当然。


 またいつか、気が向いたら寄って貰える、そんな家にしなければ。

 そうしなければこの家は、いつか滅びるでしょうね。


《すみません、お祖母様》

『従姉妹の手紙に手を出す意味を、教えて貰えるかしら』


《本当に家の血が》

『そう、そんなに目が悪かったのね。誰に見せても似ているとしか言われない、そもそもしっかりした証文も何もかもが揃っていると伝えたのに、そう、私すら信用しなかったのね』


《違うんですお祖母様》

『何が違うのかしら』


《幾ら血が繋がっていても、男を連れ込んだり、素行があまりに》

『そう、連れ込んだのはどんな男?まさかキャラバンの徽章を付けた若い男の子じゃないわよね?』


《そこまでは、知らないんですけど》

『では、噂に惑わされてしまったのかしら』


《後ろ姿は見まし》

『彼は育ての家のご家族、あの子にとってはお兄様、それに決して2人きりにはなっていないと私の侍女が確認しているわよ』


《でも》


『そう、罪を認めないのね。では無意味な目は焼き片耳は潰しましょう、そうして療養所で検体におなりなさい、さようなら』

《違うんですお祖母様!ごめんなさい!ごめんなさい!》


 あの子は実家、生家で虐げれていたと伝えた筈だと言うのに、財を削がれる事が嫌で邪魔をするだなんて。

 寛容さの分だけ、財を持てる。


 その金言がどうやら正しくは伝わってはいないのね、残念だわ。

 本当に、とても残念だわ。




「惜しい、4枚目なんだわな」

《残念だったね》


「仕方無いよ、それこそ大商家の大家族なんだもん。もう少し優しくしとけば良かったかなぁ、絶対大変じゃん、今まさにさ」


 一族郎党、大粛清中ですって書かれてんの。

 禄でも無い者は孫でも何でも療養所へ検体送り、所謂治験、薬の実験体にされんの。


 その過程で性奴隷っぽくなったりもして、鉱山送りよりタチが悪いんだけど。

 まぁ、クソ子種袋が鉱山送りだから、見せしめ的にはそれ以上じゃないと示しが付かないしね。


 けどなぁ、少し可哀相だわな、育ての親のせいでも有るんだし。


《可哀相だなんて思わなくても大丈夫ですよ、残ってる者は十分に居るんですから、ソレらは元から性根が腐ってたんですよ》


「そっか」

《それより労いの言葉を考えた方が良いですよ、まだまだ途中なんでしょうから、程々で》


「はいー」


 ココですっかり脱力されても困るもんね。

 つかホッとしてボケられるのが1番困る、マジで単なる嫌な子で終わるのは流石に、後味悪過ぎだし。


 もし結婚式が有るなら、まぁ、呼ぶかな。


《今日は何を食べましょうか》

「やっぱモロヘイヤっしょ、スープ最高」


 スパイスってそこまで嫌いじゃないんだけど、味付けはシンプルな方が良いし、体臭がキツくなりそうで避けてんだよね。

 でも体臭が有る方がモテんの、分からん、マジで分からん。


 アレか、フェロモンか?

 いや自分でも臭いなら違うか。


 いや、私は匂わないよ、無臭派。

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