幼虐物語B面ードアマット令嬢?スパイク付きですけどね!ー

中谷 獏天

第一章

第1話 目覚め。

《この無駄飯喰らい!》


 とんでもない世界に転生してしまったな、そう思ったのは4才頃だったと思う。

 そこからジワジワと思い出し、6才の頃には殆どの記憶を取り戻してたんだけど、なんせこんな家なので隠してた。


 けど、もう良いかな、と。


「チッ、いい加減ウザいわ」

《は?》


「つかさ、アンタ、ウチのお父様と全く似てないのに、良く平気な顔をしてユルドゥズ家を名乗れるよね。クソ大きな顔して偉そうに、バカ過ぎでしょ、本当に貴族令嬢だっつんならさ、もう少し賢く生きたら?」


《何よ、アンタなんか》

「この家の人間、それこそアンタだとか使用人の様子を伺ってたんだけどさ。クソ、超クソだよね、本妻で正妻だったお母様とお父様と本当に血が繋がってる私が虐げられてんのに、何処の馬の骨とも分からない男と妾の子を贔屓にするとか、どう考えても頭が悪過ぎでしょうよ。死ね、実子じゃないってバラされたくなかったら今直ぐに死ね」


《何よ!私は》

「あぁ、知らされて無かったんだ、可哀想。アンタちゃんと良く見なよ、水鏡でさ、マジで似てなさ過ぎ。使用人がなんて言ってるか知らない、か、厚顔無恥なカッコウの子って言われてんの」


 まぁ、あだ名は嘘だけど、今までの事を考えたらコレすら生温いでしょうよ。


《そんな》

「アンタの相手が面倒だから、誰も本当の事を正直に言ってくれないだろうけど、まぁ精々聞き出してみたら良いんじゃない?特に、大好きなお母様に」


《嘘、嘘よ》

「ならさっさと聞きに行けよ雌豚!淫売!恥晒し!」


 ひっ、とか言って逃げてったけど。

 どうするかなぁ、まだ準備半分だったのに、短気を起こしちゃった。


 いや、まぁ、何とかなるでしょう。




 何とかなるでしょう、とか言って急いで出てきたけど。

 やっぱり体力には限界が有るなぁ、更に敢えて食べないでガリガリに痩せる作戦、ミスったかも。


『サラ、だよね?』


 あ、コレは確か、私の婚約者だった生き物。

 だった様な。


「あぁ、ジャミル様、どうも」

『1人、だよね?どうしてそんな荷物を?』


 コイツの敵か味方かの判定、まだだったよなぁ。


「こんなに痩せるまで、血の繋がっていない妹と継母と使用人達に虐められたので、逃げて来たんです」


『てっきり、病気だと』

「いえ、そんな程度の嘘に騙されないで下さいよ、私より年上ですよね」


『すまない、ただ、アイリンが嘘を言うとは』

「で、私を助けるんですか、助けないんですか」


 クソみたいな世界なのに変に治安は良いからか、強盗とかそう居ないんだよね、ココ。

 けど非力な少女としては、ぶっちゃけ助力は欲しい。


『すまない、取り敢えずウチに』

「いえ、ご信頼出来る親戚筋をご紹介下さい、知り合いでも構いません」


『ぁあ、じゃあ、従姉妹のラレの家に案内するよ』

「ありがとうございます」


『ラクダ乗り場まで行こう、荷物を持つよ』

「ありがとうございます」


 まぁ、その従姉妹さんの家に行くかどうかは、コレから決めるけどね。


『はい、どうぞ』

「ラレさんはどんな方ですか」


『少し頼りない子だけど、凄く優しい子だよ』

「ウチのアイリンも優しい子、ですか」


 あ、こりゃダメだな。


『何か行き違いが』

「ジャミル様に厳しい叔母様や伯母様の家にお願いします」


 コイツ、躊躇いやがって、マジで使えねぇ。


『分かった、けど、本当に』

「はい、お願いします」




 いやー、マジで体力が無いの。

 ラクダに乗ってたのに、気が付いたら失神してましてね。


『あ、良かった、気が付いたんだね』


「ココは」

『君の要望通り、僕に1番厳しい叔母の家だよ』


「ありがとうございます、ご挨拶に」

《安静にしていなさい、痛い所は無い?具合はどうかしら》


 やった、当たりかも。


「痛い所は、いつもより身体中が痛いです、それとお腹が空いて喉も渇いてます」

《そう、なら先ずはコレをゆっくり飲んで》


「はい、ありがとうございます、サラ・ユルドゥズと申します」


 意味は高貴な女性・星。

 全く真逆も良い処、良い迷惑。


《私はアスマン・ギュミュシュよ》

「お綺麗な名前ですね」


《ありがとう》


 意味は空から来た・銀。

 カッコいい、羨ましい。


 けど、ジャミルと違う姓って事は。


「あの、旦那様にご挨拶を」

《今は仕事に、キャラバンとして出てるから不在なの、だから気を使わなくて良いわよ》


「ありがとうございますジャミル様」

『いや、うん、僕は向こうの部屋に居るね』


「あ、はい」


 何だろう、あの変な態度。


《ごめんなさいね、身体を見せて貰ったわ、ごめんなさい、こんなになるまで婚約者のジャミルすら気付かなかったなんて》


 あぁ、気まずくて逃げたのか、マジでクソだな。


「死にたくないのでご迷惑をお掛けしました、すみません」

《良いのよ、1番厳しい人に、と。アナタは頭が良いのね、良く耐えたわね、もう大丈夫よ》


 余裕だったけど、ちょっと泣きそうになった。

 この人が1番厳しいって言うなら、ジャミルはどんだけバカなんだろうか。


「ありがとうございます」




 そうして無事に家の腐敗があっさりと暴かれて、クソ継母とクソ義妹は犯罪奴隷の相手をする性奴隷の身に落とされ、一件落着。

 とはいかず。


「すまなかったサラ、お前が病気だと」

「いや使用人も無能だけどお前も無能かよ」

《そうね、流石にキャラバンの仕事はもう、任せられないわね》


 父は家庭を円滑に回せず、かつ唯一の子供で女の子の私を大切に扱えなかったので、犯罪奴隷に。

 使用人も同じく、金に目が眩んで黙ってたので、犯罪奴隷に。


 遠くに住む母方の親族に配慮しての事、らしい。

 と言うのも、どうやら父は無理して良い所のお嬢さんを貰ってたらしい。


 なのにコレ。

 そら怒りますわな、孫娘が蔑ろにされたんだもんね、マジメンツ大事。


 そして私は今、母方の親戚、モロッコに行くかココイスタンブールに残るかを迫られています。


「お伺いしても宜しいでしょうか」

《モロッコもココとそう変わらないわよ、ただ、まぁ、面白いのはココね》


 話が早くて助かる、ジャミルの叔母さんアスマンさんは凄く良い人で、コレだけ迷惑を掛けたのに嫌な顔1つせずに動いてくれて。

 全然、厳しくない、寧ろ超優しいんだけど。


 マジでアイツ、何して厳しくされたんだか。


「もしココに残る場合」

《先ずは、ジャミルと婚約していたいかどうかね》


「ちょっと、遠慮したいのですが、アスマン様とは一緒に居たいです、ご恩返しがしたいです」

《あら良いの?相当な弱味を握れたのだから、以降は凄く楽だし、他にもっと良い人が見付かるまで便利に使って良いのよ?》


 確かに。

 つかなんて魅力的なお誘い。


「あの、本当にそう扱っても」

《勿論よ。もう気付いてるでしょうけれど、あのアバズレの子の方に気が向いてると相談して来て、私凄く怒ったのよ、あの子に》


「あぁ、それで」

《そうなの、どう見ても似てないのに、後から来た分際でさも実子の様に振る舞う遠慮の無い子って、大嫌いなのよ》


「すみません、もし無遠慮な部分が有ったら教えて頂けると」

《そう自分を省みれるんだもの、アナタは好きよ、もっとちゃんとお付き合いをすべきだったわね、ごめんなさいね》


「いえ、ご姉妹の家の事に関わるのは難しい事でしょうから」

《ふふふ、良い子良い子》


 謎はとべてすけた。

 乗り換え様としてたから私の事は放置した、かつ、アバズレ子の言う事も素直に信じた。


 けどまぁ、乗り換えに大反対したアスマン様の家に私を送り届けた点は認めよう。

 けど、この話の全てが真実だったら、の場合だけ。


 もしかしたら、万が一にもアスマン様が何か嘘をついてたら、私はモロッコに行った方が安全だ。

 ココにはもう、誰も守ってくれる人は居ないんだし。


「先ずはジャミル様と話し合ってみたいのですが」

《そうね、焦って決めないのも偉いわ、良い子良い子》




 お子様方は全員成人済みで、暇なのは本当だった。

 もしかして、マジでただ猫っ可愛がりされてるだけなのかも。


「で、ココから重要な話題になるんですけど、何の事だか当ててみて下さい」


 引っ掛け問題、さ、何が出るかな。


『すまない、病弱な君よりアイリンの方が』

「だけ、ですか」


 全世界共通なんじゃないかって位に、低くドス効かせた声って効果バツグンなのか。

 マジでビビってんの、ウケる。


『そう、君は、細過ぎて、でも虐げられてると本気で思わなくて、すまない』

「病気だ、病弱だって、いつ、どんな風に確認したんですか?」


 あ、コイツ人の話を鵜呑みにしたんだな。


『すまない、僕のミスだ』

「だけじゃないでしょうよ、アナタ様のご実家の責任も有るとは本気で思わないんですか?」


 アスマン様に教えて貰った事が本当なら、婚約者一家にも監督責任が発生するらしいんだけど。


『すまない』


「2回も言わせないで下さい。アナタ様のご実家の責任も有るとは、本気で思わないんですか?」

『すまない、責任は有る』


 一般的にも有るのか、分からないんだよね。

 見張られて殆ど外に出れないわ人と関われないわで、十数年ココで生きてるけど、常識に関してはマジで無知。


 そうだな、うん、アスマン様の言う通り暫くコイツの世話になろう。

 ついでに落としたろ。


「私、信じてたのに」




 僕はサラが少し苦手だった、痩せ細ってるのは勿論、殆ど表情を出さないし無口だし。

 だから、正直に言うと、豊満で僕に擦り寄ってくれるアイリンに心惹かれてた。


 けれど、全てはそのアイリンとアイリンの母親のせいで、サラはあんな態度だったのだと。

 僕は。


『すまないサラ、コレからはちゃんと君を大事にするよ、今度こそ婚約者として君を守らせて欲しい』

「はい、お願いします、ジャミル様」


 こんなに痩せさせてしまったのは、僕のせいだ。

 サラにはもう家族は居ない、だから僕がちゃんと、しっかりしないと。

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