【少年・1】

 両親は、自分のことが好きではないのかもしれない。

 少年の胸には、いつも不安が渦を巻いていた。


 家族で夕食を囲んでいるとき、少年は子どもらしい無邪気さを装って、学校での出来事を話す。友達とこんな遊びをした。先生からこんなふうに褒められた。

 相槌を打つ父親の目は、一見すると穏やかだ。口元には完璧な笑みを浮かべている。


 だが少年は気づいている。

 さっきから、父親は自分の話にまったく関心を寄せていない。


 お前みたいなガキ、生まれて来なければ良かったのに。

 父親の目の奥には、そんな思いが宿っている。



 少年は両親から認められようと、すすんで家の手伝いをするようになった。

「ありがとう。助かるわ」と母親は形だけ微笑むが、決して息子の頭を撫でたりはしない。少年には、母親から触れられた記憶がない。

 母親の声には、息子への嫌悪がにじんでいる。


 こいつさえいなければ。

 母親の内に潜む憎しみは、間違いなく自分へ向けられたものだと、少年は理解する。


 両親は世間体というものを気にするたちだったので、少年が肉体的に虐げらることはなかった。

 冷え冷えとした自然、無感情の声、向けられる背中。そういったもので、両親は少年の精神を蝕んでいった。


 両親からの愛情は期待できない。

 そう悟った少年だったが、希望は捨てなかった。


 少年には、心のよりどころとなる存在があったからだ。

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