少年・7

 少年は祖父の家にいた。

 実のところ、目の前の祖父の顔に、覚えはなかった。

 自分がどうしてここにいるのかも、よくわかっていない。

 この家で寝起きするようになる以前の記憶は、ひどく朧げだ。

 無理に思い出そうとすると、頭が痛くなる。と同時に、得体の知れない恐怖が這い上ってくるのだった。


 嫌だ、思い出したくないと少年の体が悲鳴を上げる。


 それより今はただ何も考えず、この祖父との穏やかな時間を享受していたかった。


 ここは、とっても安全だ。


 少年に話しかける祖父の眼差しは、やさしさと慈愛に満ちている。

 ああ、自分は確かにこの人の孫なのだと、少年は思った。


 祖父は汚れていた少年の体をきれいに洗ってやり、食事を与え、少年のための寝床を用意した。


 少年にとって、祖父の家はとても居心地が良かった。

 着替えは大人用のものしかなく、出される食事は時々生煮えだったりするけれど、祖父が自分に深い愛情を注いでくれているのは伝わる。


 不思議なのは、両親の姿がないことだった。

 一緒に住んでいないのか。

 自分は、祖父の家に預けられているのだろうか。だとしたら、いつまでここにいればいいのだろう。


 しばらくして、派手な格好の女性が家に入って来た。


「ただいまー。お父さん? いるの?」

 そう呼びかけながら居間に足を踏み入れてきた女性は、少年の姿を見て、悲鳴を上げた。


 驚き、不安げに部屋の隅へと逃げた少年に向かって、女性は話しかける。

「あなたどこの子? どうしてうちにいるの?」

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