第3話『スラム街の悪ガキ、盗聴されていた』①


「そういえばユーリはなんであそこに居たんだ?」

「……イヴの先輩として色々と教える様にと隊長に頼まれまして」


 空き部屋にやって来たイヴは、案内してくれたユーリにふと気になった事を尋ねるとそう答えられた。

 しかし彼女は本当の事を言うつもりないのか、それっぽい事を言ってイヴを納得させる。


 彼が来るまで、ユーリとレインは腹の探り合いをしていた。

 しかし結果は分からず。

 レインもユーリも相手が裏切り者なのか判断がつかなかった。

 故に裏切り者の可能性が最も低く狂犬の如く噛み付く彼の傍に置く事で現状の打破をレインが試みて、それにユーリが乗ったという訳だ。


 魔王はそのやり取りを理解しているのか、イヴに伝える事無くただ黙っていた。くだらんと思いつつも。


「……イヴ、あなたには謝罪をしなくてはなりません」

「謝罪?」

「報酬の話です。隊長の話から分かる通り、貴方の望む報酬は……」

「あー、そっか……」


 イヴはユーリの手伝いをする際にスラム街への配給の量を増やすように求めた。

 しかし現在はその裏切り者の妨害で減らされており、もし増やしてもまた操作される可能性がある。そうならない様にレインも尽力するだろうが……おそらく裏切り者は目的の為に、嫌がらせの様に妨害を仕掛けてくるだろう。


「もうそれは良いよ。結局その裏切り者を何とかしないとスラム街の奴らの生活も、エリア外の蓋門がいもんも解決しないって分かったから」

「イヴ……」

「ユーリも本当知っていたんだろ? そしてソイツをどうにか見つけて何とかしようとしていた。違うか?」

「いえ、合っています」

「だったらやる事は変わらねーな」


 イヴは少しだけスッキリした顔で、ユーリに真っすぐ目を向けて答える。


「という訳でこれからよろしく頼む」

「いえ、こちらこそ。貴方の……あなた方の力があれば百人力です」


 特に魔王の観察眼はまるで未来視の様に全て見通す。

 ユーリは彼が居れば案外すぐに見つかるのでは? と期待していた。


 ……そういえば、とふとユーリは気になった事を二人に尋ねる。


「あの。こうしてGUARDと協力関係を結べたのですから、体の検査などは受けられないでしょうか?」

「体? 検査?」

「いえ、その……」

「……ああ、そうだった! すっかり忘れていた!」


 魔王と融合しているのを当たり前の様に感じていたのか、ユーリの言葉に物凄くビックリするイヴ。

 そうだよ。GUARDに入るならこの不可思議な状況をどうにかできるじゃないか。

 光明を見出した様に喜びの表情を浮かべるイヴだったが……。


【辞めておけ。恐らく此処の人間どもでは無理だ】

「……? 何でそう言い切れるんだ?」

「話をする前に決めつけるのは如何なものかと……」


 魔王は意味が無いと切って捨てて、ユーリとイヴは不思議そうな顔をする。

 イヴとの融合を魔王自身普通ではないと考えており、出来るなら分離した方が良いと語っていた。それに他に色々と不便もあるのは事実であり……故に否定的な意見を出した彼に怪訝に思うのも仕方がない。


【奴らは我の存在を把握していた。大方盗み聞きウォーロックから聞いた情報なのだろうが……。

 そして我らが分離したがっている事を知りつつもその話をしなかったのは出来ないのだろうな】

「イーヴァルディの力目当てにあえて言及しなかった可能性は?」

【それならば逆に言及しそうだがな、あの小娘の性格的に。それに表面上は助力を乞いたのは小僧相手だ。あまり我の事を表沙汰にしたくないのだろうな】


 尤もレイン自身にその話題を出す余裕が無かったのか、もしくは後日話すつもりだった可能性もあるが、裏切り者が居る状況で魔王の存在を明らかにすれば利用されるだろう。

 レインも入隊式を通してイヴをGUARDに所属させようとしたという事はつまりそう言う事だ。


「うへぇ。まだしばらくお前と一緒かよぉ」

【今我と離れると、ただでさえ弱っちい貴様がさらに弱っちくなるが?】

「うるさいな……」

【図星だから反論に力が無いな。もしくは我が恋しいか? 割とキショいな】

「いつかぜってぇ泣かすからな」

【できない事を大口で叩くのはガキの特権だ。気の済むまでピーピー鳴くが良い】

「こいつ本当に……」


「あの、二人でイチャつくのなら私帰りますよ?」


 そう言って既に扉に手を掛けているユーリ。

 実際彼女も疲れている為、休みたいのが本音であろう。

 イヴは彼女を引き留める事無く、魔王もまた何も言わなかった。


『(聞きたい事があるが……今は良いか)』


 まだその時ではない故に。


 こうしてユーリは帰り、イヴはしばらく魔王に弄ばれた後にふて寝した。

 魔王も今日はイヴの体を使って好き勝手する気分ではなかったのか、そのまま眠った。


『……鬱陶しいな』


 ずっと盗聴されている感覚に眉を潜めながら。

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