第112話 日上極秘会談(後)
切り出したのはベアだった。
「さて、貴国とは友好ヲ結びタイと思ってイルノダが、そのためには大きな1つの弊害ガアル。日本の対応にツイテ窺いたい」
僕は首を傾げる。玖須田総理もだ。
事前に何を話すかは、ザッと通してあるからね。
根回しは大事なのよ。
メリルちゃんの笑顔が僕に刺さる。
え? メリルちゃん、ちょっと怖いよ?
「ソウダナ。日本では気にも留められず、ノリすらコレで良しとシテイル。ダガ、貴国には認識を改めテもらう必要がアル」
総理だけでなく、日本陣営みんな揃って生唾を飲み込む。
「大厄災【魔王の檻】【魔神の足】【八龍の宴】【水神の死】、全てヴァルファリアの民の多クガ犠牲を払い続けたモノ。大厄災につイテは他の勇者から話は聞イているダロウ。ノリは、全ての大厄災に関わり、我らを救っタ。第十勇者ノリを英雄視スル者は多く、中ニハ神の御使い……むしろ神扱いスル者さえモイる」
ベアがここまで言えば、誰でも言わんとすることは分かるだろう。
玖須田総理は言った。
「日本で【裏切り者】と言われる【第十勇者】を何とかしろ、と仰りたいのですね?」
ベアは澄ました顔で言った。
「ナニが裏切り者なのか、コチラからして見テモ意味不明ナノだが、概ねソノトオリだ。【第十連合】も第十勇者から取っテイル。ヴァルファリアに於いて、ノリがどういう立ち位置か、まずは貴国に理解していただき、対応ヲ求めル」
玖須田総理も負けずに言い返す。
「国民感情ですからなぁ。出来る限り善処はします。それ抜きで友好は結べないと?」
「そウだ。大きな亀裂を生むダケダ。この新たナル大厄災【異界の門】モ、コチラはコチラで対応スル。そちらもソチラで対応するとヨイ。ココデハ、最悪、互いに邪魔ヲしない、コレを約束デキれば良いカラナ」
ベアも間髪入れない。
いつもの強気が戻って来た。
これには玖須田総理もタジタジである。
まぁ、ロビー外交どころか下地すら無いぶっつけ本番の外交だからね。
正直、文雄やヤエじゃ力不足だよ。
他に対応できる議員や大臣もいないと思うけど。
だから総理しか、言えないし話せないし決められない。
ぶっちゃけベアと玖須田総理の殴り合いである。
「まず……大変申し訳無いのだが、大厄災【異界の門】とやらを説明してほしいのだが……紀臣くん、頼めるか?」
昔の癖で僕の名を呼ぶ玖須田総理。
それに明らかな顔でムッとするベア、メリルちゃん、リリカちゃん。
玖須田総理が無言で頭を下げる。
ガン詰めである。
さすがに可哀想だな。
「分かりました。大厄災【異界の門】とは第十連合にて決定した新たなる大厄災です。地球では観測する術は1つを除いてほぼ無いと思いますが、今、地球及びヴァルファリアには、全世界ランダム地点にて【亀裂】が生じています。これは時間経過と共に勝手に開くモノがあると推測します。これによりナニが起こるかと言えば……ある日突然異世界と繋がる訳です」
僕は一旦区切る。
日本陣営はヤバいとは分かっていても、何がどうヤバい……つまり不味い事態になるのかまでは想像できないらしい。
時間が勿体ないので、答えをさっさと言う。
「地球にとってのデメリットは、【八龍】のどれかの縄張り内に亀裂ができ、それが開いた場合、龍に襲われかねないということですね。他にも色々あるとは思いますが」
「ま、待ちたまえ!」
玖須田総理は僕を止めた。
「龍はそちらの世界のモノだ! そちらで何とかするのが筋だろう!」
言いたいことは分かる。
「総理の仰ることは尤もなのですが、ヴァルファリアにも地球の化学汚染物質が流れ込んでくるんです。脅威度で言えば、龍の方が大したことないんですよ。僕なら【八龍の宴】に対抗できますから」
「いや、龍の方が危険だろう!?」
「いえいえ、こちらは環境問題に敏感なミルフレイア崇樹国、海で暮らすナミューダ海底国があります。光化学スモッグとマイクロプラスチックだけで、第十連合に連なる二国が黙っちゃいませんよ? 地球の先進国はこの問題をすごーく軽視しておられますが」
僕の言葉にベアも頷く。
「ならばどうしろというのかね? 第十勇者くん?」
総理は僕に怒りを向けてくる。
簡単な答えだよ。
「先程総理が言った通りですよ。龍やら厄介なモンスターはこちらが……まぁ主に僕が対応しましょう。代わりに環境問題に関しては、亀裂にフィルターを設置するなりなんなりやっていただき、日本に対処してほしい。ってことです。もちろん何もかも完璧にできるなんて僕らは思っていません。出来る限り、最善を尽くし、対応する。それは友好無しに有り得ない、と、ベアトリクス公爵閣下は言っているのです。ね?」
ベアは大きく頷いた。
「それに亀裂は空間を捻じ曲げます。例えばですが、龍やら凶悪なモンスター、地球で言えばグリズリー、ホッキョクグマ、トラ、ライオンなどの猛獣が複数の亀裂に入り込んで神出鬼没。ゾウの群れが渋谷のスクランブル交差点に突如突っ込んでくるなんてことも有り得ます。亀裂の数次第ではありますが、まぁ僕が100人いても足りないでしょう」
僕の言葉に、日本陣営だけでなくこちら側の表情も固まった。
だから僕は言う。
「言ったでしょう? 国家存続の危機だと? 日本で言うところの核戦争レベル、地球国家文明そのもの危機であり、地球とヴァルファリアの双方が早期に手を組まねば対応できないんです。だから認定されました。これは大厄災【異界の門】だと」
玖須田総理は考え、震えるその手を挙げた。
「……状況は理解した。深刻な状況であるということを。安全な場所が世界から消える……分かった。速やかに対処したい。猶予はどれくらいある?」
「ヴァルファリアにおいてですが、一昨日時点で120ヶ所。今朝時点で250ヶ所。穴は開いていてもほとんどが僕の腕の太さサイズですが、顔程の大きさの穴もちらほら見かけるようになりました。見つけ次第潰していますが、大き過ぎると潰せません。硫黄島付近の勇者の島、あの巨大な門は潰せませんでした。まだ対処できていますが、そろそろ限界ですかね」
なんだか結局僕がほとんど喋ってるな。
玖須田総理も僕相手の方が話しやすいかな?
まぁ大厄災【異界の門】への対処は最優先だし、こればかりは仕方あるまい。
「……1週間……いや、3日欲しい。もちろん前向きに検討しよう。そちらの要望も大まかに理解した。さすがにこの内容は私の一存で何もかも決められるものではない。民主主義国家であるからな」
いや、持ち帰り前提の会談にしたからでしょうに。
僕はそっと紙束を差し出す。
「ウェスタリアからの要望書です。友好条約の草案にもなります」
玖須田総理は紙束をパラパラっと見て、大きな溜め息を吐いた。
「はぁ……全く君と言う人間は……。だが助かる。紀臣君のことだ。スピードを求めるなら無茶はそれ程捩じ込んでいまい」
あ、バレてる(笑)
「そこは見落としていただけると有り難いですね」
「こちらも仕事だ。そうはいかんよ」
玖須田総理は立ち上がり、右手を出す。
僕も立ち上がり、その右手を取る。
「この友好条約は、そちらに有利な形で結ばれることになるだろう。イニシアチブはそちらにあることも我々は理解した。これからもよろしく頼もう」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。ふふふ」
「ふふふふふ」
僕も玖須田総理も悪い事を企んでいるようにしか見えないな。
そしてベアは拍手を始める。こちらの陣営も皆揃って手を叩く。
合わせて日本陣営も拍手を始めた。
ただ1人、文雄を除いて。
そんな泣きそうな顔しなくても良いじゃん?
大丈夫だよ。
もうすぐだから。
待ってな、文雄。
日上極秘会談は、友好条約の口約束を交わし、お開きとなった。
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