〝小悪魔な彼女〟に甘やかされたいと願ったはずなのに思ってたのと違ったのでチェンジで

きょんきょん

宿願

「苦節十六年。やっと僕の願いが叶うときがきた。いやあ、本当に長かった」


 学校が終わって自宅に帰ってきた僕――小山内望おさないのぞみは、母の声を振り切って二階に駆け上がると鍵をかけた部屋で一人、〝魔法陣〟を描いた紙を広げながら感慨深く頷いていた。


 あれは先日のことだった――馴染みの古書店で一冊の本を見かけたのだが、書架でホコリを被っていたそれは広辞苑並みの分厚さで、年季を感じさせる革製の装丁そうていが施されていた。


 特徴的な五芒星が記されているほかに題名も著者名も書かれてはいなかったが、本自体から発せられていた禍々しい雰囲気に思わず生唾を飲み込んで、気がつけば本をレジに置いていた。


 これまで偽物を掴まされ続けてきた僕だから、痛い目を見てきたからこそ断言できる――この本は間違いなく、本物の〝魔導書〟で間違いないと。


「にしても、お小遣いと貯金じゃ足りなくてお袋から前借りしたのは痛かったな」


 値札が貼ってなかったので店主に尋ねると、足元を見られて諭吉さんが数枚飛んでいく値段を告げられた。


 当然一学生がそのような大金を持ち歩いてるはずもないので、取置してもらってなんとかお金は工面することが出来たが、今後数カ月間は無一文で過ごさなくてはならない。


 とはいえ、本物の魔導書であれば然るべき場所――例えばオークションにでも売りに出せば、軽く〝億〟の値がついたっておかしくはない。


「まあ、売る気などさらさらないけれどね」

 

 ぐふふ、なんて自分でも薄気味悪い声を出しながら、夢が叶ったら、そのことばかり考えていた。


 何故大金を叩いてまで魔導書を手に入れようしていたのか、その理由はシンプルにしてただ一つ――〝小悪魔な年上のお姉さんに弄ばれるため〟に尽きる。


 僕という人間は、その宿願を達成するためにこの世に生まれてきたと言っても過言ではない。


 普段は自分の性癖を周囲に隠しているけれど、唯一知っている幼馴染には「現実リアル虚構ラノベを一緒くたにするなよ、この童貞が」と蔑まれている。


 ――ああそうさ。現実にはそんな都合のいいお姉さんが存在しないことくらい、長年夢見てきた自分が一番良くわかっている。


 ラノベだったらあんなことやこんなことまでリードしてくれるお姉さんも、未成年に手を出すこと自体が犯罪行為に当たる現実世界に存在したら、それは単なる性犯罪者でしかない。


「そんなことは小学生の頃に悟ってるんだよ。だからこそ、僕の望みを叶えてくれる魔導書を探してたんだ」


 魔法陣の中心にナイフで傷つけた指先から、滴る血を一滴垂らす。すると、それを合図に魔法陣全体が妖しく輝きはじめた。


 ただ一つ――懸念がないといえば嘘になる。どんな願いも叶える代償に、死後の魂は契約相手の悪魔に奪われると聞いているし、魔導書にもそう書かれていた。


 しかし、現世で宿願が達成されるのであれば、死後のことなんて些末な問題でしかない。輝きを増していく魔法陣に向かって、思いの丈を叫んだ。


「どうか僕の眼の前に、何でも言うことを聞いてくれて甘やかしてくれる、だけど大人の色香が満載で時々蠱惑的な眼差しで虐めてくる、包容力抜群の小悪魔なお姉さんを召喚してくださいッ!!」

 

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