ロック&アイアン

ジムっ子

第1話土被り

「疲れた。」


これが、さっきまで地獄のような戦場にいた女が、絞り出せる最大限の言葉であった。

8から9メートルの、あちらこちら土が漏れ出ていて、破損している巨大な鎧から土まみれで降りて野営で身体を拭いているのは、エリス・フォンライトという名前の

独立傭兵である。ボロボロに、なってしまった巨大な鎧、通称ダート・アーマー

これの修理をどうしようかエリス・フォンライトが、悩んでいる、ところに同年代くらいの女が近づいてきた。


「あーしはアグネス・カータレット、鎧整備士アーマースタイリストをしているんだ。」


続けてアグネス・カータレットは


「あんた・・えーと名前は?」


「エリス・フォンライト」


「そうかいじゃあ・・・フォン、あーしならこのボロボロのダート・アーマー3ゴールドで直せるけど、どうだい?」


怪しい、通常、鎧整備士アーマースタイリストに頼んで修理や整備をする場合9~12ゴールドは掛かる。

それをたった3ゴールドで修理なんてできるわけがない。


「魅力的だけども断る。」


「でもなぁ、ここの野営の鎧整備士アーマースタイリストは、もうあーしぐらいしかないよ。フォンが身体拭いている間に、他の傭兵が、契約したみたいで

さ。」


しまった。ついいつもの癖で先に身体に着いた土を、落としてもたついていたから

だ。


「・・・分かった、ただし変な真似したら、その顔吹っ飛ばすからね、修理よろしく頼むよ・・・カータ。」


「あーしに任せんしゃい!フォン。」

やはり不安だ。


そして、夜は深まっていきアグネス・カータレットがダート・アーマーを修理しているのを眺めつつエリス・フォンライトは、どこか遠い何かを見つめるように、静かに独り言を言った。


「生まれてこの方、化粧や上等な服を着て同世代の男とイチャイチャする、なんてような、乙女みたいなことを知らずに生きてきた・・・いや知らずに生きなければ、今頃どこかの共通墓地でおねんねしてるのかも。」


まるで、自分に言い聞かせるように。 

するとさっき成り行きで雇ってしまったアグネス・カータレットはエリスが使うダート・アーマーを修理しつつ答えた。


「でも、フォンは、死にたくなかったから乙女ってやつにならなかった、そうでしょ?そしてになったんでしょ、ほら泣き言言わない!あーしみたいな、三流の鎧整備士アーマースタイリストを雇ってくれたのは、フォンだけなん

だから。先に死なれたら、あーしの、生活どーなると思ってるの!」


アグネス・カータレットは、エリスに向かってまるで激励を飛ばすかのように言った。それに対して彼女は、天を仰ぎ少し微笑みながら、


「そうだね・・・死にたくないから土被りになったんだ。ありがとカータ気が付かせてくれて。ダートの修理は頼んだよ三流さん。私は、明日の戦場のために、寝るね。」


エリス・フォンライトはそう言うと横になって寝始めた。

そしてアグネス・カータレットは、明日死んでしまうかもしれない、フォンの為に自分の持てる限りの技術を尽くして、ダート・アーマーの修理をするのだった。

そして夜が明け、エリス・フォンライトが、起床するとそこには、ほとんど新品同然まで修理された、ダート・アーマーが朝日を反射させながら佇んでいた。


「カータって本当に三流なのかな?」


そうエリス・フォンライトがつぶやくと、


「あーしは三流の中の一流よ・・・むにゃむにゃ」


と寝言をアグネス・カータレットは言った。


「ふふ、さて、この一流のためにも、お金を稼ぐ為に、またあの地獄に向かお

う。」


そしてエリス・フォンライトは、戦地に赴く為に、ダート・アーマーへ乗り込みを開

始した。


今回の戦で、エリス・フォンライトは乱世の中で今一番勢いが良い、ローザ国の元王子をシンボルとして戦っている王国復権派に付くことにした。相手は、ローザ国がヨーシャーク大陸統一した際に、生まれた言わば亡国の一派らしい。

だが、エリス・フォンライトには何の関係もないことだ。戦う相手が何であれ勝つしかないのだから。そしてその一派を終わらせるために今から城攻めをする。

エリス・フォンライトや他の土被りたちは、ダート・アーマーによる強固な鎧と風系統の投擲物反射護符がついており基本的には、土被りが先陣切っていく。しかし相手側にも、もちろん土被りがいる。大体辰星歴500年から、この戦略が基本となっており土被り同士が、ぶつかり合い押し負けた方がその戦に負けると。


ガアアアアン


ダート・アーマー同士の凄まじい剣戟が繰り返される。王国復建派が押されていが


一人の独立傭兵のつるぎがけたたましくそして確実に相手の土被りを、


殺した。


ダート・アーマーから引き抜かれたつるぎには中に人がいたことを示す証拠がこびりついていた。


そして声高らかに


「亡国側の土被りを一人打ち取った!者共相手の陣は崩れた!前進せよ!」と。


効果としては十分だった・・・


そこからはまるで戦いとは言えない。狩人が獲物を狩るような一方的なものとなってしまった。


「ふぅ、今回も生き延びることができた。」


そうエリス・フォンライトは胸をなでおろした。攻城戦は起きることなく城主が城を明け渡してしまった。そして夜になり報酬が渡された。そしてエリス・フォンライトとアグネス・カータレットに王国復権派から騎士にならないか、という打診が届いたが騎士の安定している収入もいいが権力に、縛られるのが嫌だといって打診を蹴飛ばした。


「フォン本当に良かったのかい?あーしは騎士になるの悪くないとおほうんだがね~」


「これでいいのカータ、誰だって今の生活を変えたくないでしょ」


「そうかね~?」

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