世界が滅ぶ前に告白したい

桜井正宗

第1話 幼馴染

 あり 宗一そういち

 それが俺の名前らしい。


 記憶がない。分からない。

 俺はいったい何者なんだ。


 ある時、目を覚ますと俺はベッドの上にいた。なぜ、どうして……こんなところで目を覚ましたんだ?

 でも、ここは俺の家であり、自分が学生であると理解した。そんな過去の記録が残っていたからだ。


 どうやら、俺は事故に巻き込まれたらしく記憶喪失になったらしい。どんな事故か分からないけれど。


 両親は、俺の病を治すために海外に飛んだようだ。しばらく会えない。


 代わりに俺の面倒を“幼馴染”が看てくれていた。


 ちょうど扉をノックする音が耳に入り、俺は返事を返した。


「どうぞ」

「入るね、そうちゃん」

「……その、宗ちゃんはやめれ」

「宗ちゃんは宗ちゃんだよ~」


 微笑む少女。名を『桜吹雪さくらふぶき さくら』という。黒髪ショートヘアで、いつも黒い制服に身を包む。スタイルも良いし、性格も明るい。なぜ俺なんかを看病してくれるか分からなかった。


 でも、今は幼馴染であると理解している。


 どうやら彼女と俺は十年の間柄らしい。


「分かったよ。ところで桜、俺は学校に通うべきかな」

「そうだね。あの事故から一ヶ月だし、そろそろ気分転換に学生生活を送ってみてもいいかも」


「そうしてみよう。リハビリだ」

「わたしがついているから安心してねっ」


 今のところ頼れる人は、この桜しかない。

 だから俺は彼女の意見に従うことにした。


 なんとか生活面は問題なく進められるようになったし、あとは外の世界に慣れるだけ。記憶が結構抜けてしまって大変だ。でも、なんとなく体が覚えているようで、自然にこなせることもあった。


 それから俺は復学となり、ようやく学生の身分に戻ることができた。

 そうか、俺は本当に学生なんだな。


 学生服に着替え、桜と共に学校へ行ってみる。


 外はほとんど歩いていない。

 不安が多すぎて……正直怖い。


 天気が良くて太陽がまぶしい。これが外か……。案外普通だ。風が心地いいし、桜と一緒なら大丈夫そうだ。


「なあ、桜。俺はなんで事故ったんだろう」

「ごめんね、宗ちゃん。その時、わたしはいなかったから……分からないの」

「そっかぁ。せめて事故のことが分かればいいのだが」


 なぜかニュースとか記録にも残っていない。

 俺はいったい何に巻き込まれたんだ?

 そんな疑問を抱えながらも、学校に到着。


 地元の小西高校。そこの二年の教室へ向かう。


 すると、教室内のクラスメイトから注目されて騒然となっていた。

 これはどう反応していいか分からんな。



「あれ、有馬くんじゃね?」「おー、本当だ。死んでなかったんだ」「あの事件はヤバかったよな」「よく生きていたな」「やべぇ事件なんだろ?」「らしいね」「あの有馬、本当に有馬か? 幽霊じゃないだろうな」「怖いこと言うなよ~」


 などなど、なんか本当に霊扱いされていた。なんでだよっ!

 でも、クラスメイトは俺を気遣ってくれた。

 みんな優しいみたいだ。



「宗ちゃんとわたし、隣の席だからね」

「そうなのか。分かった」



 それから、桜はクラスメイトに対して俺の記憶喪失について事細かく話してくれた。おかげで、俺は可哀想な子供みたいな扱いとなった。なんか思ってたのと違う!


 けど、桜がいればいいや。

 俺に今必要なのは幼馴染の存在だ。

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