怖い部屋-やってはいけないことリスト-
西羽咲 花月
第1話
電車の窓から見る景色は次第に建物が少なくなってきて、田畑が増えてきていた。
「もうそろそろ到着だね」
目を輝かせて呟いたのは璃宮中学校2年生の根本亜希だった。
亜希の隣には双子の兄である和也が座っていて、2人の頭上にある荷物棚には大きなキャリーバッグが二人分乗っかっていた。
この冬休み中にふたりは友人の親戚が軽々しているコテージに宿泊して、スキーを楽しむことになっていたのだ。
といっても、その友人である透子の姿はこの電車内にはない。
透子だけは家の用事があるらしくて、1日遅れて現地でふたりと合流することになっていた。
それなら元々1日遅く来れば3人で行動できたのだけれど、透子から『スキーだけじゃなくて、コテージも十分楽しいから』と言われ、特に用事もなかったふたりは押し切られるかたちで1日先に宿泊施設へ向かうことになったのだった。
「それにしても田舎だなぁ」
和也が少し不安そうな表情を顔似浮かべて呟いた。
普段都心で暮らしている和也たちにとっては近くに飲食店やコンビニ、大型デパートがあるのが当たり前だった。
こんな田舎に泊まって、夜中お腹が好いたり体調が悪くなったりしたらどうするのだろうと、不安になってしまう。
「いい景色だね」
亜希の方はさっきから何度もスマホを操作して景色を撮影している。
本当は電車内でスマホを使わない方がいいのだけれど、同じ車両にはふたり以外の乗客の姿がなかったので、使わせてもらっていた。
「それにしても、人がいないなぁ」
隣の車両へ視線を向けても、継ぎ目のマドから見えるのは2,3人の乗客の姿のみだ。
都会の喧騒に慣れている和也にはこれも不安要素のひとつだった。
「昔、都市伝説で聞いたことがあるんだ」
不意に話始めた和也に亜希は耳を傾ける。
「ある電車に乗ってついいねむりをしてしまったOLが、見知らぬ駅に降り立ったって話。そこは検索しても出てこない駅で、実在しない街だったんだ」
「それ知ってる。有名な話だよね。でも大丈夫だよ、私達は電車に乗ってから1度も眠ってないから」
ここへくるまでに何度か電車を乗り換えて来ているけれど、まだ1度も昼寝をしていない。
朝早い時間から行動しているけれど、楽しさの方が勝っていて眠気は襲ってこなかった。
そうこうしている間に電車は和也たちの目的に到着した。
「次は〇〇駅~、○○駅~。右側のドアが開きます。お降りの際は……」
決り文句が流れてきて亜希はまた車窓から外を見つめた。
そこには小さな無人駅がぽつねんと立っていて、なんだか寂しそうに映る。
「やっぱり大丈夫だよ。この駅の名前は都市伝説の駅名とは全然違うから」
亜希はそう言ってニッと笑ったのだった。
☆☆☆
小さな駅に降り立ったふたりはすぐに50代くらいの男性に声をかけられていた。
コテージを経営している透子のおじさんだ。
「やぁ、はじめまして」
人懐っこい笑みを浮かべて右手を差し出してきたので、亜希は手を握り返した。
「君たちが透子の友だちだね?」
聞かれなくても、この駅で下車したのは亜希たちだけだった
「はい、そうです」
「透子の友だちに会うことができて嬉しいよ」
おじさんは今度は和也に手を差し出す。
和也はおずおずとその手を握り返した。
体格に似合わずにガッシリとした手に一瞬ドキリとする。
「ここから先は車で移動になるから、乗って」
狭い駐車場に停車していたのは白いバンだった。
お客さんの送迎用になっているようで、『コテージ飯田』と書かれている。
ふたりの荷物はおじさんが軽々と持ち上げて車の後ろに運び込んでくれた。
「ここからどれくらいかかるんですか?」
後部座席に乗り込んが亜希が、運転席のおじさんへ向けて質問する。
亜希の左隣には和也が座っていた。
「1時間くらいかな」
思っていたとおり結構かかるみたいだ。
なにせスキー場が近いと言っていたくらいだから、コテージも山の中にあるんだろう。
「到着したら昼前くらいになるかな。ゆっくり眠ったらいい」
動き出した車の中でおじさんにそう言われ、亜希と和也は視線を見交わせた。
ついさっき電車内で話していた内容を思い出す。
居眠りをしている間に知らない街に降り立ったという女性の都市伝説。
もう電車からおりているけれど、思い出すととても眠る気にはなれなかった。
「いいえ、大丈夫です。それより、コテージの周辺にお店はありますか?」
和也が一番心配していたことを訪ねた。
「コテージの近くにあるのは売店くらいかな。なにか執拗なものがあれば、街で買って行けるけど、寄るかい?」
売店はどれくらいの広さになるんだろう。
何が置いてあるんだろう。
質問する前に亜希が口を開いていた。
「そうですね。少し買い物をしようと思います」
☆☆☆
街のデパートでの買い物は簡単な医薬品だった。
もしも風邪をひいたら、もしもお腹が痛くなったら。
そう思って次々薬を手に取る和也を見ておじさんが驚いたように目を丸くした。
「それくらいの薬なら、コテージにも準備があるよ」
「あ、そうなんですか?」
不安の払拭するように次から次へと薬を見ていた和也が恥ずかしげにうつむく。
「もちろんだよ。絆創膏も包帯もある。もっと大きい病気や怪我をしたときには対応できなくなるけれど、救急車くらいは呼べるよ」
「そ、そうですよね」
頷いて棚に薬を戻していく。
「売店にはお菓子とかも置いてありますか?」
亜希の方はさっきからチョコレートやスナック菓子のコーナーから動こうとしない。
「もちろん。お菓子やカップラーメン、おにぎりにパンくらいならあるよ」
おじさんはそう言ったけれど、結局亜希は好きなお菓子を何種類か購入していた。
「亜希ちゃんはお菓子が好きなんだな」
車で再出発した車内で、おじさんが明るい声をかけてくる。
「はい。ご飯よりお菓子が好きなので、よく怒られてます」
一方の和也はお菓子よりもご飯のほうが好きで、よく食べた。
双子と言っても似ているのは顔つきだけで、二卵性双生児の双子は中学生にもなるとどんどん違う見た目になっていく。
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