プロジェクト《かぐや姫》決行②

 しのぶに呼ばれて、明るいうちに着替えてしまおうと彼女が作った衣装を着る。


 なんていうか、シンプルなんだけど凝ってる衣装。

 ロングスカートのワンピースタイプで、胸元から切り返しになって開くようになっていた。

 その部分に綺麗な和柄の布が付けられている。


「かぐや姫をイメージしたから色々つけちゃったけど……うん、なかなかいいんじゃない?」


 と自分で作った衣装を自画自賛していた。


「すごいね……十二単じゅうにひとえをイメージしたって言ったっけ? 面白いね、こんな風に出来るんだ」


「まあ、ワンピースタイプだし本当に布を重ねる事はできないから、あくまでイメージなんだけどね。良い柄の布があって良かったよー」


 満足そうにニコニコと解説するしのぶ。

 でもこの衣装を作るのにお金を使わせてしまったんじゃないかな?

 特に和柄の布なんてそこそこしそうな物に見える。


 うう……でも今は金欠で……。


 遥華の店でこの間の服代も支払って来たので、本気で使えるお金がない。


「ありがとう。でもごめんね、結構お金かかっちゃったでしょう? 来月なったら払うから」


 申し訳なく思いながらそう言うと、しのぶは「気にしないでよ」と笑った。


「私が好きでやったんだし。それに――」

「お金の心配なら要らないぞ?」


 しのぶの言葉に被せる様に、私が着替え終えるのを待っていた奏が室内に入ってくる。


「おー、似合うじゃないか。やっぱりしのぶはセンスが良いな」


 しっかり好きな子を褒める辺り奏はホント抜け目ない。


「そんな、美来が可愛いからだよ。……でも、ありがと」


 恥じらいを見せながらお礼を言うしのぶは可愛かった。


「それで? お金の心配はいらないって?」


 どういうこと? と聞き返す。


「坂本先輩から必要経費としていくらか貰ってあったんだよ。文化祭の予算から出したのか、ポケットマネーなのかは知らないけど」

「いつの間に……」


 ホント抜け目ないな。


 でもまあ、確かにそれなら気にしなくて大丈夫かな?

 制服で出来ない以上は私服で表舞台に出なきゃならないんだし。


 いや、でも私の出る幕が本当にあるのかも分からないし……。

 そこんところどうなんだろう?


 いいのかなぁ? なんて首を傾げていると、「移動しよう」という奏の言葉で教室を出た。

 少し早いけれど、校庭に設置してある簡易ステージの陰のところに行く。

 明日も控室代わりに使う場所だ。

 向かうと、そこには先客がいた。


「美来さん……そのワンピースとてもよく似合っているね」


 開口一番に誉め言葉を口にしたのは坂本先輩。


「ありがとうございます。……その、お金貰ってたみたいで」


 無難にお礼を口にしてから続けてお金の話をする。

 もし文化祭の経費から出されたとなると申し訳ない気がしたし。


「気にしなくていいよ。頼んだのは僕の方だし、そのお金も僕の方で出してるからね」

「そうですか……。ありがとうございます」


 とりあえず経費で落とされていなくて良かったと安心する。


「それで? 生徒会長もここで待機するんですか?」


 素っ気ない様子で聞く奏は、ここに坂本先輩がいることに不満みたいだった。


 でも坂本先輩は気にする様子もなく「そうだよ」と答える。


「色々とセッティングしたのは僕だし、見届けないと。それにここからが一番様子が分かるからね」


 確かにここは舞台になっているから校庭を見晴らせるようにはなっている。

 さらにもう少し高い位置に登れる場所もあるから、様子を見るには丁度良いだろう。


 それに、今日はしくも二年前と同じ満月。

 開けた校庭の様子は、ライトなどが無くてもよく見えた。


「ま、別にいいんですけど」


 そう言う奏はそれでも不満そうだった。


 やっぱり奏は坂本先輩のこと嫌いなのかな?

 少なくとも好きではないことだけは分かる。


「美来、これつけておいて」


 そう言ってしのぶはどこから持ってきたのかピンマイクを差し出してきた。


「香と奈々が放送部でこの舞台担当だったでしょう? ちょっとこっそり借りさせてもらったんだ」

「はぁ……しのぶも抜け目ないね……」


 感心しながら、しのぶ、奏に影響されてきてるんじゃないのかな? と思ってしまう。


 一緒にいすぎて似てきたって言うか……。

 もはや恋人通り越して夫婦なんじゃないのこの二人。


 なんてこっそり突っ込みたくなった。


 でもピンマイク自体は助かったのでありがたく使わせてもらう。

 いくら何でもこの広い校庭に地声では端まで届かない。


 二年前のように声が反響するような建物はないし、どんなに大きな声を出しても喧噪けんそうにかき消されてしまうだろうから。


 そんな風に準備をして、空もすっかり黒々としてきたころ。

 ちらほらとガラの悪い男子生徒たちが校庭に現れ始めた。


 これが本物の暴走族とかだったらバイクで乗り入れるとかするのかもしれないけれど、【月帝】も【星劉】も寮住まいの生徒だ。

 普通に徒歩で集まってきているらしい。


 そんな一見格好付かない集まり方をしているけれど、ピリついた空気は本物。

 人数が多くなるほどに、抗争前の一触即発といった雰囲気は強くなる。

 ピリピリとした肌を刺すような空気がこちらにまで伝わってきた。


 その空気がひと際強くなる。

 ザワリと二つの塊が中央へと移動していた。


 それぞれの幹部達。

 中央で対峙した彼らの中に、さっき教室で会った三人の姿も見つける。


 ちょっとのケガは仕方ないかもしれない。

 でも、大怪我だけはしないで欲しいと思った。

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