妖しく笑う生徒会長 前編
忙しい日々を過ごしながら、また八神さん達のところにお使いを頼まれやしないかとビクビクしていた私。
お昼は今まで通りローテーションでそれぞれのテーブルで食べていたけれど、私も八神さん達も忙しいのかあまり一緒になる事はなかった。
一緒になったとしてもどちらかがすぐ居なくなる状態。
だからお昼の時間は何か言いたそうな視線を投げかけられるだけで終わっていた。
そんなだから、またお使いなどで彼らの所に向かわせられると困る。
でも本来直接かかわるようなことはあまりないみたいで、もう彼らの元へ行くような仕事はなかった。
よく考えてみれば、仮にも不良の集まりである“暴走族”と生徒会が関わるようなこと自体普通はない。
じゃあこの間の書類は何だったのかってことになるけれど、知ったところで何かが変わるわけでもないからあまり気にしなかった。
そんな感じで、忙しくはあるけれど大きな問題はなく文化祭の準備は進められて行く。
不穏な空気はあれど一見順調に文化祭準備は進んでいた。
***
「じゃあ高志、悪いけれどそのことを先生に説明してきてもらえるかい?」
「あ、はい……ですが千隼様、私が出たら人手が……」
控えめにだけど坂本さんの指示に抵抗を示す高志くん。
私は書類整理をしながらそれを密かに応援していた。
だって、今高志くんがいなくなると私は坂本さんと二人きりになってしまうから。
坂本さんは正直得体は知れないので、二人きりになるのはホント勘弁してもらいたい。
「人手なら美来さんがいるじゃないか。しばらくは大丈夫だから、行って来てくれ」
「あ……はい」
控えめな抵抗は控えめなままで終わる。
ちょっと高志くん⁉
もっと粘ってよ!
驚愕の表情で彼を見ると、申し訳なさそうな顔が合わせられる。
すまない! 早めに戻ってくるから!
彼の目はそう語っていた。
いや、そう思うなら粘ってってば!
私の訴えは届かなかったのか、彼は急いで生徒会室を出て行ってしまう。
少し呆然と高志くんがいなくなったドアの方を見ていると、「ふぅ……」と息を吐く音が聞こえた。
その音を出した坂本先輩はガタリと椅子を鳴らして立ち上がり、私に近付いて来る。
「全く、二人きりにさせない様にしてるのバレバレなんだから……」
妖し気な雰囲気を
「ね? 【かぐや姫】?」
「っ⁉」
こ、これはバレてる?
ううん、当てずっぽうで言ったって可能性も……。
「ああ、変に誤魔化さなくていいからね? この間街で会ったとき、服も変えて変装してたみたいだけど靴とバッグは同じだっただろう?」
「っ⁉」
指摘されて、しまった! と思う。
いくらなんでもそこまで見られてるとは思わなかったから……盲点だった。
「前からカンの鋭い司狼が気にかけていたからもしかしてとは思っていたけれど、街で会って確信したよ。……やっと見つけた、【かぐや姫】の美来さん」
妖艶な眼差しで覗き込まれ、二年前の記憶がフラッシュバックする。
そうだ。
この坂本という先輩は、本来こんな目をする人だった。
優し気で王子様のような雰囲気を出している普段の坂本先輩。
時折黒っぽい感じもあるけれど、二年前同様のこんな眼差しはあまり出してこなかった。
それが、今はためらいもなくさらしている。
そのことが私の正体を確信している証にも見えて……。
誤魔化すのは無理だと思った。
「……それを知って、どうするんですか?」
バレてしまっているなら変に誤魔化し続けても意味がない。
そう判断した私は坂本先輩の出方を伺った。
「そうだね……全力で口説くかな?」
「はい?」
少し考えるように視線を横にずらしたと思ったら、すぐに戻して目を細める。
そうして口にした答えに、私は緊張感のない声で聞き返した。
いやだって、八神さん達にもバラすとか、二年前同様もっと強引に迫ってくるとかするのかと思ったから……。
全力でとか言ってる辺りある意味強引なのかも知れないけど。
いや、まずはそれよりも。
「口説く、ですか?」
「そうだよ?……ああ、それとも――」
テーブルについていた坂本先輩の節ばった手が私の顎に触れる。
何をされるのかと身構えていると親指の腹で唇を撫でられた。
「二年前みたいに、キスした方が良かった?」
「っ!」
妖しい眼差しに絡めとられる。
その妖艶さは、二年前より拍車がかかっている様に見えた。
二年前同様動けないでいると、パッと顎から手が離される。
もしかしたらまたキスされてしまうんじゃないかと身構えていた私は少し拍子抜けした。
いや、キスされなくて良かったんだけどね。
「キスはしたいけど、今はしないよ。二年前は君のことが知りたくて、逃がしたくなくて焦ってあんな風にしたけれど……今度はちゃんと口説いてからにしたい。泣かせたくはないしね」
と、この間の街でのことも出して説明される。
それにしても……。
八神さんといい如月さんといい。
泣かせたくないって言われるのはこの間街で銀星さんに泣かされたからだよね?
それでキスとかされずに済むのは良いけれど、こう何度も指摘されると恥ずかしくなってくるというか……。
何とも微妙な気分になってしまう。
「そうですか……」
結果、そんな答えしか出てこなかった。
「バラしたりもしないから安心していいよ。司狼は何となくカンで気付いていそうだし、怜王も気付くのは時間の問題って感じはするけれど」
俺からは言わないでおいてあげる、と告げられる。
「それは……ありがとうございます?」
信用できるかは別として、嘘を言っている様には見えなかったから一応お礼を口にしてみた。
「ふはっ、そこは疑問形なんだ?」
私の態度の何が面白かったのか分からないけれど、坂本先輩は自分の口元に手を当てて笑う。
妖艶な顔に少し幼さが垣間見えて少し可愛く見えた。
や、男の先輩に可愛いは失礼かもしれないけど。
「まあ、そういうわけだから」
幼さが消えた表情でまた覗き込まれる。
妖しく艶やかな眼差しに、捕えられた。
「っ!」
スルリと頬を撫でられ、妖艶な眼差しが嬉しそうに細められた。
「俺に口説かれる覚悟、しておいてくれよ?」
私は坂本先輩の眼差しに捕らえられ、身動きが出来ない。
それでも何とか必死に動けと体に命じた。
「っか……」
「か?」
「覚悟なんて、出来ませんっ!!!」
やっとのことで叫ぶと、私は立ち上がって坂本先輩から逃げ出す。
生徒会室からも飛び出して、とにかく逃げようと走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます