体術の秘密 決着④
「……無理しないで今日は休んだ方が良いんじゃないか?」
朝ごはんを食べに行く前に様子を見に来てくれた奏にそう言われてしまった。
でも……。
「でも、仕上げしとかないとあとが面倒だし……どうしても無理そうなら朝だけ行って早退するからさ……」
かすれた声が出る。
喉は完全に荒れてるな。
でも熱は37.9℃でまだ微熱の範囲内だから動けるし……だるいけど。
「わかった。早退するときは教えろよ?」
ため息混じりにそう言った奏を見送って、私はもう少し部屋で休む事にする。
そうしてギリギリまで休んでからゆっくり学校へと向かった。
教室内は何だか不穏な空気で……その原因は席に近づくとすぐに分かった。
「……あちゃー……」
最後の最後にやられちゃったなー。
机の周りには破かれた教科書が散乱していた。
全部ではないけれど、古文と現代社会の教科書はもうダメっぽい。
体調を整えるのを優先してたから教科書全部持ち帰るの忘れちゃってたよ。
まあ、でもこの仕上げ――というか、後始末ともいうかな?
これが終われば一気にこういうのはなくなるはずだし。
教科書二冊だけで済んで良かったと思おう。
「美来……」
心配そうに私を見るしのぶに大丈夫だと微笑みを返し、教室内をぐるりと見回す。
目に留まったのは最初に私をトイレに閉じ込めようとした彼女達だ。
クスクスと、ざまあみろと言わんばかりにこっちを
私は迷わず彼女達の方へ向かう。
後始末っていうのはこういう人達のことだ。
便乗犯っていうのかな?
他の人がやってるんだからちょっとくらい自分達もやっていいんじゃないかと勘違いしているバカな人達。
こういうのはコバエの様にちょこちょこいてうっとうしい。
だから、少し悪いなとは思うけれど大げさなくらい思い切り潰して見せしめになってもらう。
他の便乗犯も、手を出そうとは思えなくなるように。
「な、なによ?」
近付いて来るとは思わなかったのか彼女達は少し戸惑いを見せる。
「……あれ、やったのあなた達?」
声はかすれて格好付かないけれど、話をしなきゃはじまらない。
「何? 証拠でもあるの?」
「って言うか声かすれてるけど? 帰った方が良いんじゃない?」
「そうそう、それでもう学校に来なくていいんじゃない?」
あはは、と何が楽しいのか声を上げて笑う女子達。
「そう……」
まあ、当然とぼけるよね。
私は今度はポケットからカッターを取り出した。
百均で売っているような切れ味もそこまで良くない普通のカッター。
「じゃ、これは見覚えある?」
「は? 知らないわよ」
「この間刃をめいいっぱい出した状態で机の中に入ってたのよね」
それを言うと、彼女達は『ああ、あれね』といった表情になる。
ケガでもすればいいのにとか言っていたんだから、覚えがないわけがない。
「さあ? 知らないけど?」
それでも彼女達はしらを切る。
ま、予想通り。
私は少しだけカッターの刃を出すと、彼女達の中のリーダー格っぽい子に投げつけた。
と言ってもケガをさせるつもりはないから、顔の横すれすれを狙う。
カッターは彼女を通り越して背後の黒板にぶつかりカシャンと音を立てて落ちた。
「……え?」
「あ、ごめんね? 手が滑っちゃった」
わざとらしく笑顔を作る。
教室内の空気が一変するのを感じた。
「私、基本は平和主義だからさ……こういうことはあまりしないんだけど」
一度言葉を切って表情を変える。
真顔になって、射抜くように彼女の目を見た。
「やられた分はやり返すことにしてるの」
かすれ声じゃあ格好はつかないけれど、冷たく聞こえるように声を出した。
ゴクリ、と誰かがつばを飲み込む音が聞こえた気がする。
脅しはこんなものかな。
徹底的に叩き潰すならもう一押し欲しいところだけれど……。
でも、熱が上がってきたのか頭もガンガンと痛くなってきた。
流石にこれ以上は無理だ。
何も出来そうにない。
だから今日はもうこれで切り上げて早退しようと思う。
でも、そのときシンとした教室内に眠そうな声が響いた。
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