体術の秘密⑦

 体育館に行き先生に見ての通りなので着替えてきますと断りを入れ、更衣室に逆戻りする。

 更衣室で軽く確認したけれど、上は肌着まで完全にアウトだ。ブラも……ダメかな?

 下は下着までは濡れていなそうだったけど……。


 保健室で下着の替えを買った方が良いかも。

 教えてくれたなっちゃんに感謝だ。


 そうと決めたら私は制服を持って保健室へと走る。

 いくらまだ暖かいとはいえ、下着までびしょ濡れの状態でいつまでもいたら風をひきかねない。

 息を切らせながら保健室に着くと、先生は不在ですと書かれた札が目に入る。


「ええー?」


 そんなぁ、と思いながらも保健室のドアを開けた。

 不在でも何でも早く着替えたい。

 下着を探すのは手間取るかも知れないけれど、後で言っておけば大丈夫なはずだよね。


 とにかく下着を何とかしないと。

 私は呼びの下着が置かれていそうな場所をごそごそと探し始めた。

 そうしているとカーテンのかかっているベッドの方から物音が聞こえてくる。


 寝てる邪魔をしちゃってたかな?


 私はもう少し静かに、それでいて早く探すようにした。

 なんとか見つけた下着を持って着替えるためにカーテンが閉められるベッドの方へと向かう。


 ベッドは三つ。

 そのうちカーテンが閉まっているのは二つだ。


 生徒数が多い学校なのに三つって少ないんじゃないかな?

 いや、具合が悪い子は寮に帰るのか。

 セルフで納得しながらカーテンを閉める。


 とにかくこれでやっと着替えられる。

 私はまず上の体操着を脱いでベッドのパイプのところにかけておくと、肌着を脱ごうと手をかけた。

 でも体操着を脱いだことで一気に寒気を覚えた私は――。


「ふっふぁ……クシュン」


 くしゃみをしてしまった。

 うるさくしない様にと思ったのに……と、誰かが寝ているであろう二つのベッドを気にかけると。


「ん? この声……」


 隣のベッドの方から聞き間違いかと思うような声が聞こえた。

 そして物音がしたと思ったら隣のベッド側のカーテンが勢いよく開かれる。


「ひっ!?」


 着替え中だというのに無遠慮に開かれたカーテンに驚く。

 でも、それよりも驚いたのは。


「く、久保くん!?」


 そう、カーテンを開いたのがさっき食堂で別れたはずの久保くんだったことだ。

 しかも何故か制服の胸元がはだけてる。

 引き締まった胸板がしっかり見えた。


「……」

「……」


 数拍、私も久保くんもそのままで止まっていると。


「ねぇ久保ー? どうしたの? シないの?」


 と、久保くんの横から派手目な女子が現れた。

 しかもその子も胸元がはだけている。

 流石に私も状況を理解した。


 保健室はラブホじゃありません!!


 と、説教してやりたい気分だったけれど、もう一つのベッドの人もいる。

 あまり騒がない方が良いだろうと思って口を閉ざした。


 って言うか、もしかしなくても食堂で言ってた「保健室いくか?」っていう久保くんのセリフ。

 こういう事するためにってことだったのかな?

 理解したと同時に頬が引きつった。


 こんのド変態が!!

 って言うか、何で私のことじっと見て固まってんの!?

 見るな!


「お前……何? もしかしてやっぱり俺にヤられたかったわけ?」


 睨みつけていると、ニヤリと笑われる。


「いや、ないから」


 即答したのに、久保くんはニヤニヤしたまま間にあるベッドを乗り越えてこっちに近付いて来た。


「そんな恰好までして俺がいるここまで来たんだろ? 遠慮すんなって」

「はぁ?」


 どこをどうしたらそんな解釈かいしゃくになるのか……。

 あまりのふざけた言い分に私は久保くんのフワフワ揺れる猫っ毛をむしり取りたくなる。


「ちょっと久保? 何してんの?」


 そこで放置されている派手女子がムッとした声を出す。


 そうだよ何してんの?

 そういう事は同意してる相手とするもんでしょ?


 と、内心派手女子と同じ意見でいると、久保くんは顔だけ彼女に向けてとんでもないことを言った。


「あーお前もういいわ。俺こいつとヤるから」

『はぁ!?』


 私と派手女子の声が重なる。


「何それ、バカにしてんの?」

「してねぇよ。元々こいつがダメだったから処理しようとしてただけだし」

「バカにしてんじゃん!」


 あっち行けとばかりに手を振る久保くんに、彼女は怒り出す。


 そりゃそうだ。

 って言うか私も怒りたいし文句を言いたいんだけれど口をはさむ隙が無い。

 そうして何も言えないでいるうちに派手女子が私をキッと睨んで去って行ってしまった。


 ええー?

 何か無駄に敵を作っちゃった気分。


 苦い気持ちで去って行った彼女を見ていたら、突然腕を掴まれベッドに引き倒される。

 あ、やばっ。

 と思ったときには久保くんに圧し掛かられていた。


「……思った通り。お前胸結構あるよな?」


 そうしてその胸に伸ばされた手を私は払いのける。


「私着替えに来ただけだし、何よりこういう事するって同意してないんだけど?」


 やっと文句を言える状況になったのでハッキリ言っておく。

 でも久保くんはそんなのお構いなしだった。


「どんな理由だろうがそんなカッコウで俺の前に現れたんだからもう逃がさねぇよ。邪魔者もいねぇしな?」


 と、また手を伸ばしてきたので今度はそれを掴んで触られない様にする。


「……美来、お前往生際が悪ぃぞ?」

「だから嫌だって言ってるじゃん」

「諦めろって。気持ちよくしてやるから」


 そのまま攻防が続くのかと思ったら久保くんの顔が近付いてきた。

 逃げるように顔を逸らすと、首に顔を埋められる。


「お前、首弱かったよな?」


 その声と一緒に出てきた息が首にかかり、「んっ」と声が出てしまう。

 弱いところを知られてしまったのはまずかったかも知れない。


「そうそう、イイ声出せよ」

「ひあっ!?」


 そのまま首筋を舐められて体の力が抜けてしまう。

 私の手から久保くんの手がするりと抜け出し、その手はわき腹の辺りを撫でた。


「腹チラとかやべぇよな。お前肌白いしくびれハッキリしてるから……ソソられる」


 首にかかる息が熱くなってきた。


 ちょっ! マジでヤバいかも!?

 せめて足が自由になれば何とかなるのに!


 身じろぎするけど圧し掛かられている足は全く動かせない。

 そうしていると脇を撫でていた手が肌着をめくり始め、もう一度首を舐められた。


「やめっ、んっ」

「――いい加減にしろ!!」


 と、そこで第三者の声が保健室内に響く。

 驚いているうちにシャッと勢いよくカーテンが開かれる音がした。

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