絆の秘密⑦
今日のお昼は何にしようか。
二階席に行くならやっぱりデザートは欲しいけれど、毎日つけてたらお金が無くなってしまう。
今日は我慢して定食……いや、節約してうどんにしておくべきか……。
うん、うどんにしよう。
あのだしの香りも気になってたしね!
そうしてうどんを注文した私は今日も三人に連れられて二階席へと向かう。
二日目だから昨日ほどの騒がしさはない。
でもまあ、今日もなの⁉ って感じの驚きはあった。
そして敵意はさらに増したようだ。
目論見通りではあるんだけれど、やっぱりこの視線は慣れないなぁ……。
「じゃあまたな、美来」
二階に着くと久保くんはそう言って一人【月帝】のテーブルに向かって行った。
またなって、明日までは会わないでしょうに。
どうせ午後の授業は出ないんだろうし、そうなると寮でも鉢合わせすることはまずない。
生活時間帯が違うんだもん。
寮で会うことがあるとすれば休みの日くらいでしょう。
そうして久保くんを見送ると、私は明人くんと勇人くんに手を引かれて【星劉】のテーブルの方へ連れられて行く。
【星劉】のテーブルでは如月さんがすでに座っていてステーキを食べていた。
あの五千円もするステーキ、こういう人が食べてるんだなぁ。
この間双子も食べていたけれど、美味しかったなぁ……。
一度味わったステーキを思い出した。
「えっと、失礼します」
如月さんは特にこっちを気にした様子はなかったけれど、一応挨拶はしておく。
「美来はここな」
明人くんに席を指示され座る。
こっちでも“総長”の真ん前の位置だった。
そして当たり前の様に私の両隣に明人くんと勇人くんが座る。
もうこれは定位置になってるのかな?
如月さんは私を気にせずに黙々と料理を食べているから少し気まずかったけれど、うどんが目の前に来るとそれすらも気にならなくなった。
「お出汁のいい香り……」
トッピングはかまぼことネギ、揚げ玉のシンプルなものだけれどシンプルだからこそお出汁が引き立つ。
早速息を吹きかけ冷まして麺を吸い込む。
このコシ、このもちもち感! やっぱりうどんと言ったら讃岐うどんだよね。
前に水沢うどんと稲庭うどんも食べたことがあってそっちももちろん美味しかったんだけれど、手軽に入手出来ないからか特別なときに食べるものって感じがする。
普段食べるなら讃岐うどんって感じかなぁ。
笑顔になりつつ黙々とうどんを食べていると、隣からスッと海老天ぷらが目の前に現れる。
見ると、明人くんが差し出してニッと笑っていた。
「え?」
「それだけじゃ少ねぇだろ? 分けてやるよ」
「いいの?」
確かに節約のためにトッピングは少ないものにしたから、もらえるならありがたい。
でも海老天ぷらだよ?
天ぷら定食のメイン中のメインと言っても過言じゃないんだよ?
本当にいいのかと確認すると、「いいから」と言ってどんぶりの中に入れてくれた。
おお! おかずが増えた!
喜びに私は満面の笑みで明人くんにお礼を言う。
「ありがとう! 明人くんって優しいね!」
「っ! いや、いいって……」
そんなやりとりをしていると右側の勇人くんからも声がかかった。
「ほら、俺のもやるよ。それとも海老じゃなくて山菜とかシイタケの方が良いか?」
「え⁉ 山菜もシイタケも好き!」
思わず遠慮もなしにそう言って勇人くんの方を振り向く。
しかもどっちがいいかと悩む私に勇人くんは二つともくれた。
私は嬉しくて二人の優しさに感極まってしまう。
「ありがとう! 二人とも大好き!」
二人は私の嫌いな不良だけれど、おかずを譲ってくれるほどいい人で私を気に入ってくれている。
これならもう友達だよね。
明人くんと勇人くんに関しては不良とか関係なく大事な友達だって思った。
「うっ!……今のは、破壊力半端ない……」
「ちょっとまて。心臓痛ぇんだけど⁉」
さて早速食べようかと鼻歌でも歌いそうだった私の横で、勇人くんと明人くんが何やら言っている。
でもこれ以上はせっかくのうどんが伸びちゃうし、私も我慢できないので食べる方に集中させてもらった。
二人のおかげで大変満足出来る昼食になりました。
そうして全部食べ終えた私は「ごちそうさま」と言って席を立つ。
すると今まで何も反応を示さなかった如月さんに声を掛けられた。
「ちょっと待て。こっちに来い」
まさか呼ばれるとは思わなかったので一瞬躊躇ったけれど、無視するわけにもいかず如月さんの席の方へ行く。
「えっと、何か……?」
冷たい印象の瞳が私を捉える。
その目に真っ直ぐ見つめられると全てを見透かされそうでちょっと怖い。
「いや、ただの連絡事項だ。明日は生徒会のテーブルで昼を食べるように。そして次の日からはまた【月帝】のテーブルとローテーションしろ」
「え? はい?」
何でそんなことに?
まず第一にどうして生徒会のテーブルにも行かなきゃならないのか。
確か私が二階席で食べる羽目になったのは明人くんと勇人くんが私に付いて一階席で食べたせいだったはず。
その上で【月帝】の総長が何故か私を気にかけたからだったような……。
どうして? って思うのは自然なことのはずだ。
でも如月さんは不機嫌そうに私を睨み上げる。
「決定事項だ。文句は聞かん」
「っはい」
問答無用だった。
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