声の秘密④

 食堂の一件は瞬く間に広がったのか、午後はもう針のむしろって感じで視線が突き刺さっていた。

 私の自業自得なところもあるかもしれないけれど、双子が近付いて来なければこんなことにはならなかったんだからちょっとは恨ませてほしい。


 ちなみに久保くんは昼休みで早退したらしく、食堂から戻ってきたときにはもう席にはいなかった。

 しのぶの話では、これが久保くんの普通らしい。


 そんなこんなで授業を終え、帰りのSHRも終える。

 そして早速放課後に事は起こった。


「今日こそは買い出しに行くんだっけ?」


 帰り際しのぶに確認される。


「うん。だからいったん第二学生寮に戻ってから夜第一の食堂行くね」

「分かった、じゃあ来るとき連絡頂戴。また一緒に食べよう?」

「うん。じゃあ私ちょっとトイレ行ってから帰るから、また後でね」


 そうしてしのぶと別れ、トイレで用を済ませている時だった。

 私が個室に入ったと同時に、複数の足音がトイレに入ってくる音がする。

 そして私の入っている個室の前で止まり、ビビビッという音、そしてドアに何かしているような音が聞こえた。


「調子乗りすぎだよアンタ。ちょっとは反省することね」


 嘲るような声がかけられたと思ったら、キャハハと笑いながら彼女達は出て行った。


「……」


 あー何かされたな……。

 水を流してとりあえずドアを開けようとする。


「……動かない」


 うーん。

 ビビビッて音はたぶんガムテープか何かだよね?

 それで外から何かしたなら力ずくで開けれなくはないかな?

 そう思ってグッと力を入れてみるけれどそう簡単にはいかなかった。


 仕方ないなぁ。


 ドアから出られそうにないと判断した私はそこから出るのを早々に諦めた。

 幸いここのトイレは上部分が空いている。

 私は便座の上に立って、ふちに手をかけると思い切りジャンプして隣の個室に降りた。

 そこから出て今まで入っていた個室のドアを見ると、粘着力の高いガムテープが何重にもなって貼られていることがわかる。

 こりゃあ簡単には開かないわけだ。

 呆れと、ちょっとの悲しさを軽いため息で吐き出し、私は何事もなかったかのように教室に戻る。

 すると明らかに驚いた女子が数人いて、トイレの方にバタバタと向かっていく。

 それを見た私は、丁度他の子たちと話をしていてまだ教室に残っていた畠山先生のもとへ向かった。


「先生、さっきトイレに行ったら何かいたずらしていた子がいて……。今ならまだいると思うのでちょっと見てもらえますか?」


 私は用事があるので帰りますが、と言って畠山先生をトイレに向かわせる。

 カバンを持って廊下に出たところで、畠山先生の大声が聞こえた。


「お前ら何やってるんだ⁉ 全部はがすまで帰るなよ⁉」


 ちゃんと真犯人があのガムテープを片付けることになったようで良かった。

 私はやりたくないって思ったし、とばっちりで別の子がやらされたりしても気分悪いしね。


「あの子たち、これで懲りてくれればいいんだけれど……」


 そう呟きながら、無理かもなぁって思った。


***


 一仕事終えた気分で隣のクラスを見ると奏の姿がない。

 カバンも無いみたいだけど、もう行っちゃったのかな?

 電話しようかと思ってスマホを出すと、奏からメッセージが届いていた。


《先に学校出てる》


 シンプルな一言。

 私も《分かった》と簡潔に返事を打って送信すると、学校を出るために生徒玄関に向かう。

 校舎から出て、敷地外に出る校門の辺りに奏はいた。


「ここで待ってたの? もう寮に帰ったのかと思った」


 言いながら駆け寄ると、奏は「ちょっと心配だったからな」と答える。


「遅いなと思って教室見に行ったらカバンはあっても美来いなかったし。何かあったのかなーって」

「あー分かっちゃった? ちょっとトイレに閉じ込められちゃって」

「ああ、そういう感じか。まあ、昼のアレを見て懲らしめずにはいられなかったってとこか?」

「そうだろうねー」


 普通の世間話のように会話をしながら歩く私達。

 どうやって出てきたのかって聞かない辺り奏は良く分かっている。

 そして、私だって奏のことは分かっている。


「で? 奏は何されたの?」

「あ、やっぱバレたか」


 と、いたずらっぽい笑顔を見せられた。

 何もなかったなら私のカバンがあると分かった時点でそのまま待っていたはずだ。

 でも外に出たってことは、奏は早く学校から出たかったってこと。

 何かあったに決まってる。


「って言っても大したことされたわけじゃないぞ?」

「でも早く学校から出たかったんでしょ?」

「まあ。ただ、取り囲まれて『あんたの妹どうにかしてくんない?』って詰め寄られただけだよ」


 女の集団っていつ見ても怖いよな、って苦笑いしている。


「あちゃー、ごめんね?」


 私は眉を寄せつつ軽い感じで謝った。


「悪いと思うならもうちょっと考えてから行動しろよな?」

「へへっ、いつも苦労をかけますオニイサマ」


 なんて冗談っぽく言ったら無言で小突かれてしまった。

 そんな感じで、何事もなかったように買い出しも終えた私達は第一学生寮に夕食を食べに行く。

 しのぶとも合流して、明日あたりカラオケに行こうと約束をした。


「楽しみだなぁ。《シュピーレン》の生歌」


 しのぶはそう言いながら鼻歌を歌っている。

 ここ最近は引っ越しや転入手続きでカラオケも行けていなかったから、私も楽しみだ。

 しのぶに音痴だとは思われたくないし、今日は少し発声練習でもしておこうかな、なんて考えながら今日の学校生活を終えた。

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