弐拾-神術
霊術・固有術の訓練が行われた翌日。
御影陰陽師育成高等学校の敷地内にある、訓練所にて。
「今日は神術の講義を行う。この術は他と違い、支援系のモノがその多くを占める。例えば自身の攻撃力や防御力を上げる術や、敵を状態異常に陥らせる術などが存在するな。珍しいところで言うと、回復系や索敵系もある」
『おい雫。俺それ聞いてないんだが』
『そういえば言うのを忘れていたわ。ごめんなさいね』
『忘れてたのならしょうがない』
一応、雫の《-発散-》も支援系である。
「皆が付喪神と契約し、神術を使えるようになったのはごく最近の事だ。だから固有術や霊術と比べ、習得までかなりの時間が必要だと思う。そのため今日は丸一日、神術の訓練とする。ちなみに職業柄、神術を秘匿している陰陽師は割と多い。なので、他生徒の術を安易に聞いたりしないように」
『俺達はどうする?』
『一応秘密にしておきましょう』
『わかった。てか固有術も秘匿させりゃいいのに、何で自己紹介の時に発表させたんだろうな』
『京都の育成学校も同じ方針だったから、そういう決まりなのかもしれないわね』
『本当にややこしいよな、陰陽師ってのは……』
『同感よ』
数十分後、講義は終了した。
「……以上だ。それでは解散」
皆が立ち上がろうとした瞬間、先生がもう一度口を開いた。
「ああ、待ってくれ。やはり解散の前に、念のため今週のスケジュールを説明しておこうと思う。先ほどの説明の通り、今日一日は学校で神術の練習をしてもらうが、残りの三日間は“自由訓練日”とする」
それを聞いた生徒達はザワつく。
「もう自由訓練日なのかよ!?」
「さすがに、もう少し先だと思っていたぜ」
「授業はクラスによってバラバラだと聞いたけど、ここまでとは思わなかったわね」
「私は毎日刃先生に会いに来よーっと」
自由訓練日とは、文字通り自由に訓練してよい日のことだ。登校し先生に教えを乞うてもよし、陰陽師である親の仕事を手伝ってもよし。とにかく好きな場所で、好きな方法で訓練していい日である。
またこの自由訓練日の後には必ず、成績に大きく関わるイベントが発生する。
『どうせアレだろうな』
『ええ。どうせアレね』
先生は生徒の反応を楽しみつつ、説明を続ける。
「くっくっく。勘付いている生徒も多そうだな。そう、来週の月曜日に、それぞれの成績を賭けた模擬戦を行ってもらう。皆の活躍を楽しみにしているぞ。以上だ、それでは解散」
解散後、俺達は四人で昨日の場所まで移動した。
紫苑は冷静に言う。
「八重樫先生は随分とスパルタですね」
「本当だよ!だって他クラスは、未だに教室で座学を学んでいるんだよ!?」
「うちのクラスのレベルってそんなに高いのかな?」
「どうだろうな。他クラスに友達とかいないから、わからん」
『そこんところ、どう思う?』
『いつも貴方と夜刀の訓練を見ているから若干感覚が麻痺していたけど、このクラスは学年だと間違いなくトップだと思うわ』
『確かに本家出身の奴が、紫苑と雅楽丸以外にも結構いるもんな。その時点で、この計画が立てられていたのかも知れんな』
『そうね』
早速訓練を始めようと考えていたところで、雅楽丸が話を切り出した。
「実は俺、家の決まりで自分の神術が言えないんだ!すまん!」
「実は私もよ」
「私も!」
「じゃあ俺も」
『だが一緒に訓練していれば、そのうち嫌でもわかっちゃうよな』
『これも暗黙の了解ね。明言しなければセーフよ、セーフ』
『流石陰陽師界隈だ。規定がガバい』
『これで、三人と契約している付喪神と仲良くできる可能性が少し下がったわね』
『ドンマイ』
その後、弥勒は訓練をしているフリをしつつ、三人の神術を盗み見する。
(雅楽丸の神術は、術の命中率増加系か?)
雅楽丸の霊術の命中精度が、今までよりも確実に上がっていた。
(《-金縛り-》と相性が良くていいじゃないか)
(紫苑の神術は……全然見当がつかん)
紫苑は、今まで通りニョロニョロ君とイチャついているだけである。
(沙羅の神術も……正直全く分からん)
沙羅も今まで通り茨鞭で的をシバき倒しているだけだ。
『割とわからんもんだな』
『わかりにくいから切り札として、あえて秘匿させる方針なのかもね。昔は陰陽師同士でも争っていた時期があったようだし、その頃の名残なのかも』
『なるほどな』
弥勒はダラダラと霊術を放ち続け、気が付けば昼食の時間になっていた。
四人で昼食がてら雑談していると、雅楽丸が面白い提案をした。
「みんな、明日は俺ん家で訓練しないか?きっと楽しいぞ!」
「いいですね。私は賛成です」
「あの精神系固有術で有名な久宝家で?やったー!」
「俺も賛成」
『雅楽丸の両親なら、ワンチャン孤児院事件の情報持ってそうだよな』
『ええ。本家が分家を沢山抱えているから、少しくらい持っていても不思議じゃないわ』
弥勒は会話を続ける。
「じゃあ、後で住所送っといてくれ」
「あっ!」
「どうした?雅楽丸」
「そういえば、俺達まだSNSの交換してなくね?」
「「「……確かに」」」
四人は、(今更)それぞれの連絡先を交換した。
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