第6話:ねえ、先輩。私で、練習していいよ

 いきなり踏み込んできた。


 自分についてはだんまりなくせに、人の情報は聞きたいのか。


 異性関係なんて、初対面で話すような内容じゃないだろう。


 それとも、イケてる女子中高生は、初対面で恋バナが普通なのだろうか。


「あるよ、一応」


「へー、あるんだー、意外ー」


 すっごい棒読み。


 嘘だとでも思われてるのだろう。


「ちなみに、どれくらい付き合ったんです?」


「……1週間」


「1週間……っ!? はぁー、ウケるw」


 短すぎたみたいだ。


 それくらい分かっている。


 それでも。


 聞いてきたのは彼女のほうなのに、笑うなんてあんまりだ。


 真面目に答えて損した。


 恥ずかしすぎる。


 早く帰りたいと思った。


 助けてもらった手前、できるだけ礼儀正しくはいきたいけれど。

 

 早くも折れそう……。


「ねえ……。先輩って……童貞、でしょ」


 匂いが濃くなる。


 石鹸の香りに、ドキっとした。


「あはぁー、やっぱり~」


 一歩、近づいた。


「ね~え~、せんぱーい? もうすぐクリスマスじゃないですかぁ? ズルいですよねぇ、みんなやることやってるなかぁ、先輩は童貞だからってのけ者にされてぇ」


 また一歩近づき、手の甲が触れた。


「そんな、かわいそーな先輩に朗報ですぅ。今日はそーゆう気分なので~、先輩の童貞、もらってあげてもいいですよ?」


 目が合って、指が絡みあう。


「私、サンタさんに憧れあるんですよねー、正体知るの早かったので。少し早いクリスマスプレゼント……童貞、卒業しちゃいましょう?」


 潤んだ瞳で見上げてくる。


 あざとい……。


 やたら大人びて見えるのは、コートを羽織っているからだろうか。


 同年代の私服姿は、やたら可愛く映る。


 何より、顔がよかった。


「その前に、君は……」



 もらえるものなら、もらっておきたい。


 ワンチャンあれば、男なら誰だってそうする。


 それに、アイツだって、止まったままでいいのかと、言っていた。


 この子で童卒できるなら、本望だ。


 自分はなにも間違っていない。


 そうだ。


 自分は何も悪くない。


 悪いのは、性的に誘ってくるような女のほうだ。



「も~、誰だっていいじゃないですかー」


 少女は頬を膨らませる。


「それに、名前も知らない相手とするほうが、興奮しません?」


「それって……」


「ワンナイト」


「付き合ってもないのに……」


「私は、”いい”って言ってるんです。合意のうえなら、何も問題ないですよ?」


「でも……」


 女子はもっと、貞淑であるべきだ。


 そうでないと、あまりにも。


「私、処女ですよ」


 さすがに嘘だと思った。


 あまりに男慣れしている。


 そうでなくては、処女の概念が崩れる。


「処女厨っぽいので」と少女は付け加えた。


 あらゆることが、見透かされてしまう。


 理性に反した期待に心臓がうるさい。


「女の子、怖いんでしょ。そんなに恥をかくのが嫌なら、なおさら練習しといたほうがいいと思うなぁ。私で、練習していいよ?」


 生唾を飲む。


 少女につかまれたまま、腕があがっていく。


 手の甲に、毛糸が触れる。

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