第5話:おにーさん年上なので、タメ語でいーですよ?

 クソ……っ!


 アイツばっかり、いい思いして……!


 勝手に大人になりやがって……!


 自分のしたことを棚にあげて、好き勝手言って、男をなんだと思ってるんだ……っ!


 重い足をあげると、


「――ないですよ……って、ちょっと……っ!」


 手首にギュッとつかまれた。


 そのまま後ろに引かれ、体がよろける。


 開ける視界。


 信号は赤だった。


 大通り、右へ左へ、すぐ消える車の数々。


 触れれば、骨折は免れないだろう。


「まったく……。ちゃんと前を見て歩きましょうって、小学校で習いましたよね」


 振り向くと、少女がいた。


 私服なので分からないが、たぶん自分よりは年下だろう。


 風がゆられて、石鹸の匂いが香ってきた。

 


 『ありがとう』を言うより先に、腕を引かれ先導される。


 青になった信号を渡ったところで、ようやく手が自由になった。


 少女は「ここまでくれば」と、呟いた。


「だいじょーぶ?」


「ありがとう……、ございます」


 気後れして、年下相手に敬語になってしまった。


 初対面で年下って、どう話せばいいのか分からなかった。


「気をつけてくださいね。ダメです、赤信号で渡ったりしちゃ。死んだら、落ち込むこともできないんですから」


 言われてハっとする。


 まったくの他人から見ても、今の自分は相当ひどい顔をしているみたいだった。


 心当たりならある。


 図星を突かれて、色々、思い出してしまったからだろう。



「あと、おにーさん年上なので、ぜんぜんタメ語でいーですよ。わたしは……『先輩』って呼びますね」


 普段から人と話すのには慣れているのだろう。


 緊張した素振りもなく、自然と内側に入ってくる。


「えーっと、先輩って高校生、ですよね……?」


「そうだけど、君は……」


「わたしはヒミツですっ、言っちゃだめーって言われてるので。そーゆうのも、小学校で習ったでしょ?」


「はぁ……」



 別に学年くらいは教えてもと思ったが、無理には聞けなかった。


 個人情報は一切聞くな、という圧すら感じる。


 何らかの人前にでる仕事でも、やっているのだろうか。


 流行りには疎いので、言われても知らないだろう。


「先輩っていかにも、ですよねー。彼女とかいたことないでしょ」

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