あの波の声が聞こえるかい

春木ゆたか

プロローグ

 日に日に褪せていく君色に染った世界で。

 夜の帳、荒れ狂う波の音を聞きながら、ただひたすらに死ぬことだけを考えていた。



     *



 彼と出会った奇跡を私は幸せと呼ぶけれど、出会うまでに二十八年もかかってしまったことは、後悔以外のなにものでもない。


「本を読むという行為は、作者と会話しているようなものだよ」


 彼は本の話をする時いつもそう言っていたが、何度聞いても聞き飽きることはなかったし、むしろいつも新鮮に感じた。

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