第1話「過去……」

※残虐なシーンが苦手な方は第2話へお進み下さい。


 【……13年前】


 床の上で小さく丸まり、眠っていた少女は目を覚まし、部屋の隅まで這って行きうずくまった。そして小刻みに体を揺らした。


 そうすれば恐怖や痛みが消えて無くなると思っているかのように。ベッドの柱に繋がれた鎖は、少女の足が動くたびにガチャリと音を立てた。


 鎖で繋がれ食事をさせてもらえなくなってどのくらいが経ったのだろうか、もう空腹も感じなくなった。


 水が張られたバケツに顔を突っ込み、犬のようにペロペロと舌を出して口を潤すことしかできない。


 隣には用を足すためのバケツが並べて置いてあり、屎尿の臭いが鼻をつき、水を飲む気力も削がれたようだった。


 断続的な睡魔が襲ってきて、うつらうつらとしていたら時間の感覚がなくなってしまった。窓の外は暗いようで、夜だということしか分からない。


 先程、眠る前も夜だった。同じ夜だろうか、それとも1日経った夜だろうか、そう考えていると少女の瞼はまた重くなり、開けていられなくなった。


 寝転がろうと床に肘をついたら、背中から流れてきた血で滑り、木の床にしたたかに頬を打ちつけた。


 ——悲鳴をあげればまた叱られる。恐怖に少女の体がわなないた。


 床に滴った血の原因は、テーブルマナーのレッスンで失敗してしまったからだ。肉をナイフで切ろうとして、お皿にあたり音を立ててしまった。そのせいで鞭に打たれた。皮膚が裂け血が出るほどに。


 鞭に打たれている時、少女はただひたすらに早く終われと願った。


 何故鞭を振るうのか、彼女たちは少女が悪魔に取り憑かれているせいだと言った。だから悪魔祓いが必要なのだと、責苦を与えれば悪魔は出ていくのだと言っていた。


 少女は頬の痛みに涙がぽろぽろと流れたが、歯を食いしばり悲鳴を飲み込んだ。


 どうか痛みを消してください。どうか痛みを感じない体にして下さいと、少女は小さな手を胸の前で組み神に祈った。


 ズキズキする頬と足首につけられた鎖の冷たい感触が夢へと誘い、気絶するように眠った。


 外が白みはじめた頃、コツリ、コツリと近づいてくる足音で少女は目を覚ました。


 お願い来ないで!痛いのはもう嫌だ!消えてなくなれ、消えてなくなれと呪文のように心の中で唱えた。近づいてくる足音に聞き耳をたて、ドアを目玉が飛び出るほどに凝視した。


 少女の願いも虚しく、ドアがキーッと軋んだ音を立てて開いた。

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