期間限定の不思議な友人は夢を託して消える

ネオン

寝る前、自己嫌悪

 ああ、また朝が来てしまう。

 時刻は午前0時過ぎ。

 賢太は布団の中で大きなため息をついた。次の日に何か特別嫌な予定があるわけではない。むしろその真逆。予定はまっさら。丸一日何もすることがない暇人。それがここ2カ月ほどの小山賢太23歳の日常。

 最近の自分の生活を思い返してしまい、重く苦しい空気の塊が賢太の口からこぼれ落ちた。このまま光がない電気が消えた部屋にいたい。真っ暗闇の中でうずくまっていたい。悪気なく世界を明るく照らす太陽との対面は断固拒否したい。あいつは敵だ。一生わかり合うことはないと確信している。

 太陽の顔なんて見たくないけど、このまま瞼を下ろしてしまうと次に目を開けたときには、無駄に明るいあいつがおはようと顔を出しているのは確かだ。せめてもの抵抗に瞼を持ち上げているのだが、そろそろ睡魔に白旗を上げそうだ。布団がぽかぽかと温まってきて、眠気が大きくなってきた。部屋の空気がひんやり冷たい分、布団の包容力は驚異的だ。この温もりに負けるのは時間の問題だろう。

 睡魔との対決は無駄で無謀で無意味だと賢太はわかっている。わかっていても、自分の持てる力すべてを使って抗ってしまう。眠気に身を任せた方が身のためなのに。

 目が覚めてもどうせ何も変わらない日々。自分が行動しなければ変わらないことはわかっている。わかっているのに体が行動を拒む。朝が来たら、ぐずな自分に直面することになる。

 ああイヤだ。いったい自分は何をやっているのだろうか。

 賢太は強烈な自己嫌悪に襲われ始めた。またこれか、とうんざりしながらも、自分を罵り否定する言葉は止まない。自分の意思とは関係なしに、次々と攻撃力の高い言葉が発生し、ぐさぐさと容赦なく全身を突き刺す。苦しい。気道に何かが詰まったように息が苦しい。賢太は自分の身体を強く抱きしめる。

 寝る前に暗闇の中で自分を責めるのが賢太の日課のようになってしまってから半年以上が経った。

 どうして自分は普通にできないんだ。

 あんな環境だったから仕方ない。

 でもちゃんと働いてる人もいる。

 あの時の選択は本当にあっていたのか。

 両親に迷惑をかけてて申し訳ない。

 あの上司が悪いんだから自分は悪くない。

 でももっとうまくやれたかもしれない。

 与えられた仕事を満足にできない自分が悪い。

 全部自分が悪い。

 賢太を攻撃するのは毎日同じ言葉。半年以上続いているのにいまだ慣れることはない。慣れるどころか、日増しに攻撃力は上昇しているような気がする。

 言葉が首にぐるぐる巻き付いてきつく締めあげる。息が苦しい。無益で有害な思考を無理やりぶった切ろうとしても、結局、言葉は鳴りやまない。これは自傷行為と言っても過言ではない言葉を止める方法はただひとつ。眠りに落ちることだけだ。

 寝たくない。朝が来てしまうから。でも、このままでは溺れて死んでしまいそうだ。賢太はきつく目を閉じて、自分に襲い掛かる睡魔に必死に手を伸ばした。苦しみから逃れようともがく。朝が来てしまえば、鬱々とした日々がまた始まってしまうのに。

 賢太は刹那の解放を求めて意識を手放した。





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