第53話 高梨由利子のガールズトーク
布団を敷いて、パジャマに着替えて、さぁガールズのお時間だ!
「みちるのパジャマ、可愛いわね」
「そうですか? えへへ」
うん、可愛い。似合ってるよ、そのハムスターの着ぐるみパジャマ。
むしろ似合い過ぎてて怖い。なんかもうみちるって完全にハムスターのイメージだな。
――さて、今回のガールズトーク、重要なのはみちるに主導権を奪われないことだ。
絶対あたしらのこと根掘り葉掘り聞いてくる。そしてリョーコが適当な返答をして誤解を深めてしまう。
させてなるものか! とは言ってもみちるを蔑ろにするわけにもいかないし、難しい。
幸い、みちるはあたしらに気を遣ってか自分から切り出すのは控えてる感じだ。まずは当たり障りの無い話題でも出してみるか。
「みちるってさ、なんで魔法少女になったの? 何かやってみたいこととかある?」
「えっと……、私のところに勧誘が来たのって小学生の頃だったんで、あんまり深く考えないでなっちゃいましたね」
「小学生で勧誘来たんだ……凄いな。まぁその魔力なら納得だけど」
普通は早くても中学なんだけどね。だいたいそのくらいで魔力が成長し始めるから。
みちるは小学生の頃にはもうあたしくらいの魔力あったんだろうな。
「私のところには来ていないのだけれど、普通は勧誘が来てからなるものなのかしら?」
「そもそも勧誘が来ないと魔法少女の存在自体知らないからねぇ。リョーコが特殊なのよ」
「ある程度の魔力があれば現役の人から推薦されることもありますけど……」
リョーコの魔力量で魔法少女になっても、魔力が足りなくて何も出来ないってのがオチだからねぇ。
普通に考えて勧誘も推薦もあるわけが無いんだよね。
「それでさっきの質問なんですけど、やりたいことは一応ありまして……」
「お、なになに?」
「笑わないでくださいね? その、お菓子のお家に住んでみたいな、って……」
お菓子の家、か。そう言えば結構マギリア使うけどそんなのもあったな。
あたしも昔憧れてたし、女の子なら誰でも夢見るもんよね。
「いいじゃん、お菓子の家。あたしも住ませてよ」
「でもこれ、建てる場所が必要なんですよ。マギリアも全然足りてないですし」
「それならうちの庭を使うといいわ。建てたらまた3人でお泊り会しましょう」
「いいんですか? では頑張ってマギリア溜めないとですね!」
おっと、これで3人とも頑張る理由ができちゃったわけか。
正直、快く手伝ってくれてるとは言え付き合わせちゃってたわけだからね、ちょっと気が楽になった。
「由利子さんは何で魔法少女になったんですか?」
「あたし? あたしは単に面白そうだったからかな。こんなのやらない理由が無いじゃん?」
面白そうなことなら何でもウェルカムだからね!
「そう言えば由利子は女の子を笑顔にしたいって言っていたわよね。早速ひとつ達成できたじゃないの」
「まぁね」
「あ、その節は本当に……」
「気にしないでよ。あたしがやりたくてやったんだからさ」
女の子が笑顔になればあたしも嬉しいからね。
win-winってやつよ。多分。
「どうせならこのまま世界平和なんて目指してみてはどうかしら?」
「話でっかくなりすぎ。あたしはそういうのはいいの」
「そういうのを目指してる人もいるみたいですけど、ちょっと途方もないですよね」
「ま、女の子がみんな笑顔になれたらさ、世界なんて勝手に平和になってるもんでしょ」
「そういうものかしら」
「そういうもんなの」
その最初か最後の一押しだけでもできたらあたしとしては御の字ってもんよ。
まずは手の届く範囲から、ね。
「あと、ちょっと気になってたんですけど、由利子さんの
「あ、わかる?」
その3rdシングル『風林火山』で使われた4色の衣装、その中の火に当たる赤をモチーフにさせてもらった。
結構アレンジしてみたつもりだったんだけど、分かる人には分かっちゃうかー。
「ほらアイドル衣装ってさ、なんか魔法少女っぽいのとかあるじゃない?」
「あ、分かります」
「あたしとしては魔法少女っぽいなって思ってこれにしたんだけどさ、よく『アイドル衣装っぽいね』って言われちゃうんだよね」
「あはは……」
「あとこれ、昔ちょっと大変だった時期に元気をもらった歌の衣装ってのもあってね。だからあたしもこれでみんなに元気を振り撒けたらな~ってね」
中学でいろんな部活のヘルプやってた頃。さすがのあたしもバテバテだったけど、この歌のおかげで頑張れてたんだ。
シングルはたくさん出てるけど、一番好きなのはやっぱり『風林火山』かな。1stシングルの『宇宙旅行』も捨てがたいんだけどね。
「元気を振り撒くのはいいけれど、それで無茶をするのはあまり良くないわよ」
「まぁねー。ちょっと懲りたよ」
「本当かしら」
う、ま、まずい。なんか視線が痛い。そうだよね無茶しちゃったばっかりだもんね!
流れを変えないと……助けてみちる! 視線でチラッチラッ。
「えっと、涼子さんはお姉さんのこと以外で何かやりたいこととかは無いんですか?」
ナイスみちる! まぁさっきの流れはみちるも当事者だったからいたたまれなかったんだろう。
ともあれ助かった。
「そうね、ひとつあったのだけれど、それはもう叶ってしまったわ」
「どんなことだったんです?」
「その……、由利子と、特別な関係になることよ」
「だからなんで誤解する言い方すんのかなぁ!?」
せっかく流れが変わったのにまた変な流れに!
ほらみちるが反応しちゃう! 一難去ってまた一難とはこのことか!
「と、特別な関係になって、それからどのようなことが……?」
「出合ったその日のうちに、初めての経験を沢山したわ」
「だから言い方ァ!」
「と言ってもその日は由利子の家にお泊りして一緒のベッドで寝たくらいだったかしら」
「しょ、初日でもうそこまで……!」
「それ誤解だしこの前しっかり説明したはずなんだけど!?」
なんでまた誤解で上書きしちゃってんの!?
無限ループって怖くね??
「次の日には由利子から特別な贈り物を貰ったわ。今日もスカートの下に穿いていたのだけれど」
「そ、それは勝負下着とか、そういう……?」
「勝負? ええ、勝負の時に穿いているわね」
「スパッツだから! むしろパンツ隠すためのものだから!」
あと贈り物じゃねぇ! 選んだのはあたしだけど自分で買ってたでしょ!
「あのね、リョーコね、
「あ、そ、そうなんですか」
「だから変身中はスパッツ穿かせてるの。見えちゃうから」
「そ、そうですよね。見えちゃったらまずいですもんね」
……みちる? なんか急によそよそしくなってない?
「えっと……、みちる? もしかしてあなた」
「う……」
あ、これは……。
「だってしょうがないじゃないですか! 私まだ小学生だったんですよ!? そこまで考えませんよぅ!」
「お、落ち着いて。落ち着いて、どうどう」
「あら、みちるもお仲間だったのね」
「言っとくけどリョーコ、あんた高校生にもなって小学生並みの羞恥心って結構ダメだからね?」
いや小学生だってもうちょっと恥じらうもんだと思うけどね?
「でもそっかぁ。じゃああのドロワーズは
「ええ。……って、なんでドロワーズって知ってるんですか?」
「え? いや後ろ飛んでると普通に見えちゃうんだけど」
「見ないでくださいよぉー!」
いたた、ポカポカ殴るのやめて!
でもわざと見てるわけじゃないからね? 基本あたしが先行してるけど、たまに入れ替わることもあるからその時見えちゃうだけだからね?
「待ってみちる。それは見られてもいいように穿いているのではないのかしら?」
「え、それはそう……なんですけど……」
「それなら見られてもいいのでは?」
「そ、そういう、わけにもいかなくて……」
「いやまぁ、あたしも見られていいようにレオタードにしてるけど、見られるとやっぱり恥ずかしいからね。わかるよ」
これはなんと言うか、パンツかどうかではなくスカートで隠されているものが見えてしまうのが問題なのだと思われる。
ブルマ体操着で体育の授業を受けるのと、スカートをたくし上げて中のブルマを見せるのとでは話が違うというわけだ。ブルマ穿いたこと無いけど。
「やはりスパッツにするべきなのでは? スパッツなら見られても平気よ」
それは『スパッツだから』と言うより『リョーコだから』なんだよなぁ。
スパッツどころかパンツ見られても平然としてるのはちょっとどうなのよ?
それにみちるの場合、ドレスだからなぁ。
「私はドレス風なんで、スパッツは、ちょっと……」
「やっぱ合わないよねぇ。ところでパンツはドレスと同じピンク?」
「はい。好きな色なので――って、何言わせるんですか!」
へぇー。やっぱりピンクなんだ。へぇー。
「由利子の下着はいつも黄色だったわね」
「なんでわざわざ言うの!? あたしのパンツとか需要ないでしょ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。需要って何ですか!?」
「リョーコの綿100%の白パンツの方が一周回って需要有るでしょ!」
「だから落ち着いてください! なんで暴露大会みたいになってるんですか!?」
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「えっ、あの時みちる聞いてたの?」
「はい、知覚強化は殆ど使いっぱなしだったので」
みちるとの
期待させちゃうと却って辛いだろうと思って聞こえないように話してたつもりだったんだけど。
――というわけで、うん。ちょっと話題が暴走し過ぎてたから現在クールダウン中。
「あの人もそのようなことを言っていたわね。あの――サギなんとかさん」
「如月さんですね。はい、一時的に知覚を共有していたので」
聞かれちゃってたのかー。
いやあの時は「絶対助けてやる!」って気持ちではあったけど、ダメだった時の予防線も張っちゃってたのよね。
う……、ダサいな、あたし。
「あれ? いやちょっと待って? あたし、
「あ、それは隠蔽魔法を使ってたので。その……、得意になっちゃったんです。隠蔽魔法」
「そう言えば最初は魔力隠してたっけ」
「あの魔法を作る時に何度も試行錯誤を繰り返してたんですけど、そのうちになんだかコツのようなものを掴んでしまって」
気が付いたらいろんなものを隠蔽できるようになっちゃった、と。なるほど。
「作戦会議とかする人って結構いるんで、よく盗み聞きしちゃってました……」
「まぁ、仕方ないよ。手段なんて選べなかったでしょ」
「正直なところ、最初に聞いた時は『変な期待させないでください』って思っちゃったんですけど」
「う……、ご、ごめん」
「でも次第に由利子さんの本気の気持ちが伝わってきましたから。もう一度希望に縋ってみたいって、そんな気持ちになったんですよ」
そ、そんなんだ。あたしなんかでも、希望になれたんだな。
「そういやあたし、始まる前は負けた時のこととか考えてたけど、気が付いたら勝つことしか考えてなかったな」
「実際、あの時の由利子には鬼気迫るものがあったわ。私は絶対に勝つと確信していたわよ」
「そ、そうなんだ? えへへ」
あ、あれ、これガチで褒められてる? ちょっと照れるな。
「でも正直、もっかいやっても全然勝てる気しないんだけどねー」
「そうね。今の由利子では勝つのは無理でしょうね」
あっれー? なんかいきなり評価ガタ落ちなんですけど!?
あ、これアレだ。上げて落とすってやつでしょ。
「――さて、そろそろいい時間ね。もう寝ましょうか」
え、このタイミング? 上げて落とされたこのタイミングで寝ろっての?
地味にひどいな! いや別にいいんだけどさ!
「んじゃま、おやすみー」
「お休みなさい」
――スヤァ……
「涼子さん、もう寝付いちゃったんですか?」
「リョーコは寝付きいいのよ。でも異変を感じると一瞬で起きるから気を付けてね」
「そ、そうなんですか。……ところで由利子さん、結局由利子さんたちって、付き合ってるわけじゃないんですか?」
「残念ながら違うのよ。そもそもリョーコの方に全くその気が無いからね」
「由利子さんはどうなんです?」
「……あたしもね、今はまだ恋だの愛だのってのは考えないようにしてるのよ」
そう、これは――あたしにとってはとても大事なこと。
「恋とか愛とかってさ、つまり相手に愛しい感情を抱くってことでしょ?」
「えぇ、まぁ……」
「ということはさ、相手をいやらしい目で見れなくなっちゃうってことでしょ?」
「……え? えぇ?」
「あたしはね、女の子をいやらしい目で見たいの! 煩悩に忠実に生きていたいの!」
「あ、はい」
「……わかって、もらえたかな?」
「思ったよりしょうもない理由だったってことはわかりました」
しょうもない言うな!
あたしにとっては大事なことなんだから!
「えっと、でも私が思うにですね、恋というのは相手を求める感情だと思うんですよ」
「うん? そう……なのかな?」
「なので、いやらしい目で見ることまで含めて恋ってことでいいと思うんですけど」
……え、いいの? いやらしい目で見ちゃっていいの?
「あくまで私個人の考えですけど、愛はともかく恋ならしちゃっても問題無いと思いますよ」
へぇー。問題無いんだー。いや、いやいやいや。
いや、だってほら、ダメでしょ、なんかこう、アレでしょ。
「では私ももう寝ますね」
「あ、うん。おやすみー」
…………。
……いや、そもそもさ、あたしとリョーコが?
無い無い無い。だってリョーコじゃん?
そりゃ見た目だけなら美人のお姉さんっぽいところとか割と理想に近いけど?
でもあたしがお姉さんに求めてるのは包容力とかなわけで?
その点リョーコってなんか危なっかしいから放っとけないタイプだし?
単にあたしが面倒見るの好きだから成り立ってる関係なわけで? むしろあたしが包み込んであげる方でしょ?
それに今まで散々振り回してくれちゃってさぁ?
たまたまあたしにM気質入っちゃってる疑惑があるおかげでむしろ心地よかったりしてるとはいえ?
奇跡的に噛み合っちゃってる気がしないでもないけど?
でも根本的に違うのよ。あたしはリョーコのお嫁さんになりたいわけじゃないの。
もしリョーコと結婚するとしたらあたしは旦那さんの方よね。
そんでいざ結婚したらあたしが尻に敷かれたりすんの。今まで散々面倒見てあげてたのに。
…………。
いや何言ってんの!?
いやだから結婚とか無いから! リョーコとはそういうのじゃないから!
ダ、ダメだ寝よう。寝てしまおう。
これ以上考えるのやめよう。
はいおやすみ!
…………。
……寝れるのかな、これ。
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