第51話 高梨由利子は意外とやる

「おーいてて」


 頭にたんこぶできてる。吹っ飛ばされた時に打ったらしい。

 まったくもう、頭がバカになっちゃったらどうしてくれるのよ?


 まぁみちるの魔法のおかげでほとんど治ってるんだけどね。


「ごめんなさい。少し加減を誤ったかも知れないわ」

「まぁいーってことよ」


 ってか加減されてて気絶させられるとか凹むわー。マジ凹むわー。


「ま、このくらいならどってことないし、予定通り魔獣退治は行けるよ」

「そう? それなら提案なのだけれど、今日は晩御飯用にささみ鶏飯を炊いてあるのよ」

「おー、いいね」

「それで考えたのだけれど、これでおにぎりを作って外で食べるというのはどうかしら?」


 なるほど、そうすれば魔獣捜索に時間を長く取れるようになるってわけだ。


「いいんじゃない? みちるはどう?」

「私も賛成です。なんだかピクニックみたいで楽しそうです」

「よーし、決まり! じゃあレジャーシート用意しなきゃ」

「ピクニックではないわよ?」

「おやつも用意しましょう」

「ピクニックではないのだけれど……」



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 おにぎりを作って、いざ出発!


 ちなみにおにぎりは魔法で冷やして保存している。そして食べる時には魔法で加熱する。

 なんとみちる、魔法で電子レンジが出来るらしいのだ。凄いねぇ、あたしには無理だ。

 とまぁ戦闘ではイマイチ使い勝手の悪い加熱と冷却。このように日常生活では大活躍なのである。


「それじゃ行こっか――いや待って、来た!」

「……? お客さんの気配は無いわよ?」

「そうじゃなくて討伐依頼ですよ! それも大型です!」

「あら、大型の討伐依頼だなんて初めてね」


 そりゃそうだ。大型の討伐依頼は大型の討伐経験がある子のところにしか来ない。

 あたしたちは今週だけでもう4体倒してるから依頼の通知が来るようになったんだ。


「ここからそんなに遠くないよ。せっかくだからここ行こう!」

「そうね、そうしましょう」


 おにぎり作っといて正解だ。このまま直行!

 というわけで、あたしは魔法で船を作る。まぁ船と言ってもただの流線形のカプセルなんだけど。


 まず下半分を作って、全員乗り込んだら上半分を密閉しない程度に囲って完成。

 そしてそれをみちるが魔法で浮かして――飛ばす!


 普段なら各自で飛んだり走ったりでいいんだけど、急いでる時はみちるに飛ばしてもらうのが断然速い。

 みちるは小回りが利かないけど直線での加速はとんでもないからね。名付けてみちるロケット。


 普通に飛んだら20分くらい掛かるところだけど、5分もしないでほらもう着いた。

 そんであそこにいるのは……通報した魔法少女さんかな? こっちに手を振ってる。


「皆さん早いですね。さっき報告したところなんですけど……」

「ちょーど出発するところだったからね。むしろジャストタイミングだったよ」

「というか、凄く速いですね。ミサイルでも飛んできたのかと思いました」


 まぁ、普通はあんなスピード出せないからね。形もまんまミサイルだし。そりゃビビるよね。


「えっと……この奥です」

「ん、ありがと」


 今回は大体の場所がわかってるから魔力感知も合体モードじゃなくて普通に球形に広げて進む。

 ……んだけど、ついて来ちゃってるな、この子。


 下はデニムのショートパンツ。上は布撒いてるだけ。

 西部劇というかアニメとかに出て来るガンマンの格好だね。ウエスタンな帽子被ってる。

 ベストも羽織っているとは言え、フトモモ丸出しのおヘソ丸出し。いけませんねぇ。


 恐らく中学生の魔法少女。

 多分新人さんだろうけど、ランクはC。気が強そうで、上昇志向もありそうだ。


「案内はここまででもいいんだけど……ひょっとして見て行きたい?」

「はい! ぜひ!」


 危険だからほんとは良くないんだけど……ま、いいでしょ。

 護ってあげましょっと。



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 というわけで、いつものようにリョーコが突入してみちるが砲撃。

 でもあたしは今回、みちるより後ろからサポートに徹しておいた。

 新人の子も護ってあげなきゃいけないからね。


 結果はまぁ、圧勝と言ったところだね。

 リョーコは一撃も食らってないし、みちるは一撃で大型を撃ち抜いた。

 新人の子も尊敬の眼差しで2人を見てる。


「凄いでしょ、あの2人」

「はい、凄いです! なんて言うか勉強に……その、私、まだまだだな、って」

「だよね。あたしもあの2人見てると、ね」


 いや、改めてちょっと、凹むな。

 今まであんまり気にしないようにしてきたけど、やっぱりこう、格の違いが、ね。


「え、お姉さんも凄かったじゃないですか」

「え? いやあたし、後ろからチマチマ撃ってただけだし」

「え、いや、なんで撃てるんですか? あんなに動き回ってるところに」


 いや、なんでと言われても……前にいるのリョーコだし?


「リョーコなら当たりそうになってもどうにかしてくれるからね。安心して撃てるのよ」

「でも全部あの人がいないところに撃ち込んでたじゃないですか。まるで動きを読んでるみたいでしたよ」


 いやまぁ、リョーコの動きならだいたい分かるからね。

 ……あれ、これひょっとして凄いことだったりする?


「それに後ろから撃ってたのだって、私がいたからですよね? すみません、護ってもらっちゃって」

「あ、いやいいのよそんなことは」


 な、なんだかこそばゆいな。純粋な視線が、うぅ、眩しい。


「お待たせしましたー」

「待たせたわね。参考になったかしら?」

「はい! 凄く勉強になりました!」

「そう、それは良かったわ」


 ふぅ、2人が戻って来たおかげで向こうに関心が行ってくれたようだ。

 う、うぅん。あたしにはあの眼差しはちょっと、眩しすぎるわ。


「それで、あなたはこれからどうするのかしら?」

「はい、今日はもう少し見回ってみます。なんだかやる気のスイッチが入っちゃったので」

「そう、頑張ってちょうだいね」

「無理はしちゃダメだよー」


 ……さて、と。


「せっかく来たんだしここら見て回るのもいいかと思ったんだけど、それだとあの子の邪魔になっちゃうね」

「そうね、予定通り隣町の方に行きましょうか」

「またみちるロケットで飛んでく?」

「その呼び方やめてくれません? だいたいロケット作ってるのは由利子さんじゃないですか」

「そうね、由利子ロケットと呼びましょう」

「それこそやめてよ!?」



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 な、なんとか由利子ロケットの命名は阻止できた。良かった。

 というわけで隣町目指してロケットで高速飛行中。

 うーん、ただのロケットよりみちるロケットの方がいいと思うんだけどなー。


「ところでさ、よくあの子の見学許したね。なんかリョーコは反対するかなーって思ったんだけど」

「確かに危険だとは思ったけれど……でも由利子、あなたが護ってあげるつもりだったのでしょう?」

「いや、まぁ……そうだけど」


 あれ、ひょっとしてあたしのこと、信頼してくれてた?


「特に心配はしませんでしたよ。それに……さすがに中学生に手を出したりはしないでしょうし」

「そ、そんなことしないよぅ……」


 そ、そっちの心配は少しされちゃってたのね。

 いや確かに可愛い女の子大好きだけどさ、別にあたしロリコンさんじゃないからね?

 可愛ければ年齢問わないってだけだから安心安全よ? あ、ちっとも安全じゃなかった。


 ま、まぁ結局何も無かったんだから万事オッケーってことで。

 っていうかそもそもあたし、そんな度胸無いからね。

 でもあの子、健康的なフトモモが、ちょっと良かったかな? なんて――


「由利子?」

「いややましいことなんて考えてませんよ!?」

「由利子さん……」


 あああああやばい。なんか雲行きが怪しくなってきた。


「いやほら、何も無かったんだから! 無実! 無罪! セェーフ!」

「……まぁ、今回は未遂で終わったのだし、仕方ないわね」

「今に始まったことじゃないですしね」


 やった! 判決無罪! 勝訴!


「……いや待って、未遂ですらないよ!? 完全無実だから!」

「そろそろ着くわね」

「聞けよぉー」


 無視しやがったちくしょー。

 こっちの方の扱いもどうにかならないもんですかね? まぁいいんですけどー。


「なんだかおなか空いちゃいました。着いたらごはんにしませんか?」

「あ、あたしもおなか減った! ごはん賛成!」

「そうね、ではそうしましょう」


 判決は微妙に納得いかないけど、まぁいいや。ごはんだごはん。


 おにぎりはみんなで作ったけど、炊いたのはリョーコなのよね。

 リョーコのごはんはホント炊き加減うまいから、楽しみだなー。


 もっちりごはんと鶏ささみのパサパサしたヘルシーな食感の組み合わせ……こんなの絶対美味いやつじゃん。

 やばい、よだれ出て来た。

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