青春を羨む花は美しく咲いて
孤独
通学路に花は咲かない
死にがいを求めて生きていた
いつも通りの代わり映えのしない朝ご飯や身支度が、私の学校に向かう体を作り、習慣に染み付いた私の足が玄関に向かう。 心配や応援とは違った母の、口うるさい声が私の耳を通過して無慈悲に澄んだ空に溶けては消えていく。でも、私の足は外に出てからというもの地面のコンクリートに無理やり根を張り、土壌の栄養を吸い出すミツマタの花のようにあのブラックボックスに向かうことを拒んでは動かない。気づいたときにはその場にへたり込んでしまった。ポツリと、私の幼い膝を雨が濡らし始めていた......
些細なことの積み重ねだった。多分、原因は私が声を発するときに声が吃ってしまうことにあるのだろう。吃音症というやつらしい。スマホに映る画面を優しく指でなぞり口でその言葉を反芻する。色々な果実をミキサーでかき混ぜた飲み物のような声がなんどもなんども自分に木霊し、それは私が私を嫌いになるには十分な料理だった。
そんな私の感情が周りに伝播して、壊れやすいオパールを見るような目は好奇と嘲笑の目に変わり、いつの間にか私は孤立していた。積極的に私を指して、授業に参加させようとする教師が「障害と共に成長していく素晴らしいクラス」を形成する機会に私を利用しているようで不快だった。そんな教師の願望虚しく、クラスメートは私を退屈凌ぎの標的にした。私の言葉を面白おかしく繰り返しては笑った。心の底から人が嫌いになった。それと同じくらい自分が嫌いになった。この世界にたった一人放り出された寡黙な勇者はいつしか生きる意味を見いだせなくなった。
家に帰って始まるのは母の確認で私は鞄の中から答案を取り出し見せる。1つのため息ならまだいい方で、酷いときは夜遅くまで叱られる。親戚の宴会席ではなにかにつけては、有名大学卒業の東京で医者として働く優秀な姉と比較される。
家にも私の居場所は無かった。ある時、堰が切れたように涙が頬を伝い、その涙の川に流されるように私は家を飛び出した。その目には悲しみだけではない何かが揺らいでいた。
......走った。走って、走って、走った。すっかり日も暮れ、初夏に似合わない涼しい風が私を導き、連続した街灯がスポットライトのように私がちゃんとここに存在することを残酷にも強調していた。息があがった私は真っ暗な河川敷の近くに腰を下ろし、浅い川めがけて手頃な石を放り投げる。石は弧を描き、水面が揺れる。もう一度なるべく垂直に勢い良く投げると、その石は孤独な満月を二つに割りそれはまるで星のようだった。それは完全な比喩ではなく顔をあげると星いっぱいの空がこちらを見上げていた。感傷に浸り、幾千もの星を眺めていると自分がとても小さくて惨めで、それと対照的に自信たっぷりに輝く星が妬ましかった。ふと対岸を見るとそこには不思議な男の子がいた......
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