吸血鬼の訓練
ジュリアは響に手を差し出した。響は素直に彼女の手を取った。ジュリアは響の手を引っ張って大きくジャンプした。
まるで背中に翼が生えているようだった。響はジュリアと共に空を跳ねていた。ジュリアの跳躍力は、ゆうに二階建て家屋の屋根を軽々と越えた。響はジュリアに手を引かれながら空を飛んでいた。
ジュリアがジャンプを繰り返すうちに、次第にコツが飲み込めてきた。響は自分の足で地面をけると、まるで重力を感じずに跳び上がる事ができた。ジュリアはうなずくと、響の手を離した。
ジュリアはさらに高く跳躍する。響も彼女においていかれまいと必死に跳んだ。ジュリアには目的地があるようで、どんどん速度をあげて跳んで行く。
しばらく跳ぶと、響たちは裏山の山奥に来ていた。そこで響はある事に気づいた。山には人工の明かりが無い。それなのに、はっきりと木々の姿を見る事ができるのだ。
響が驚いてジュリア言うと、彼女はあっけらかんと答えた。
「言ったでしょ?吸血鬼は夜型だって。暗闇の中でも見えるに決まっているわ」
ジュリアは足元に落ちている石を拾った。響は彼女がなぜそんな事をするのかわからず、ジッと彼女の行動を見ていた。
ジュリアは片手で持てるくらいの石を集めると、その一つを持って、思いっきり響に投げつけた。その速さときたら、プロ野球選手のボールよりも速いように思えた。響は慌てて石をよけて叫んだ。
「危ないじゃないか!」
いきどおっている響に対して、ジュリアはケラケラ笑いながら答えた。
「でも無事によけられたでしょ?」
ジュリアはトコトコと歩いて、一本の木の前で止まった。身体をかがめて、響にここを見ろとうながした。響が身体を屈めてのぞいてみると、木に穴があいていた。何の穴だろうと考えると、ジュリアが拾った石を見せた。
先ほどジュリアが投げた石が木の幹にめり込んだのだ。響は木に石がめり込むほどの威力のある速度の石をよけたのだ。響がぼう然としていると、ジュリアが響の手のひらに石を置いた。この石を握力で砕けというのだ。
そんな事できるわけないだろうと思いながら、響は石を握りしめた。グシャッとクッキーを握りつぶしたような感覚があり、手を開いてみると、石が粉々になっていた。響があ然として粉々の石を見つめていると、ジュリアが穏やかに言った。
「響、貴方は吸血鬼になった。だから体力も吸血鬼の体力になった。だけど人間も吸血鬼も対して変わらないわ。吸血鬼はたまに人間の血を吸って、ちょっと力持ちになっただけ。だから貴方はこれからも人間として暮らすのよ?」
響はぼう然としたままジュリアの声を聞いていた。自分はもう人間ではなく、吸血鬼になったのだと、ようやく実感した。
その後、ジュリアは残りの石すべてを響に投げてよこした。響は、今度はよける事をせず、すべて手で受け止めた。響は両手に掴んだ石をすべて粉々にした。ジュリアは微笑んで、また身体の使い方の練習をしようと言った。
響の手のひらから、サラサラと石だったものの粉がこぼれ落ちた。
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