吸血鬼の一日
ジュリアは腹もくちて眠くなったようだ。響が食べてからすぐ寝るのは太るのではないかと聞くが、私は永遠の美少女だから大丈夫、と返されてしまった。
ジュリアは我が物顔で響のベッドに潜り込んだ。響は仕方なく、ベッドの下に座布団をしいて横になった。
鳴り響く目覚ましを止めると、夕方の六時だった。身支度をしてバイトに行かなければいけない。ジュリアは響のベッドの中で気持ち良さそうに眠っていた。
響はジュリアを起こさないように、シャワーを浴び、歯を磨いた。タイマーで炊けるようセットしておいた白米で、シーチキンマヨネーズとシャケのおにぎりを作る。ジュリアが起きた時に食べさせるものだ。
響自身の食事は、握るのが面倒なので、お茶わんに白米を大盛りにして、シーチキンマヨネーズと、ほぐしたしゃけをぶっかけてかっこんだ。
響が家を出る頃になって、ジュリアがようやく起きてきた。響は寝ぼけているジュリアに、腹が空いたらおにぎりを食べるように言って、足早に玄関に向かった。
ジュリアは、出かける響に行ってらっしゃいと声をかけてくれた。その言葉を聞いただけで胸が熱くなった。
響はジュリアの眷属になったのだ。これからずっと一緒に暮らせるのだ。そう考えただけで、涙が出そうなほど嬉しかった。
響がバイト先のコンビニに到着すると、バイトの高校生がチワスとあいさつしてくれた。高校生と交代して響がレジに入る。今日も暇だった。だが響はこれまでの響ではなかった。自分は吸血鬼に生まれ変わり、永遠とも呼べる時間を手に入れたのだ。
しかも響を吸血鬼にしたのは美しい少女なのだ。響は我知らずニヤついていた。午前零時になると、バイトの先輩である関田が出勤してきた。響がお疲れ様ですとあいさつしても、関田は無視していた。いつもの事だ。
関田は出勤した途端に、従業員室にこもってしまった。これもいつもの事だ。関田は仕事をすべて後輩に押し付け、自分はさぼっているのだ。これに意見したりすると、暴力と悪質な嫌がらせをされるのだ。関田に従っている方が被害が少ない。
時間が午前五時近くなった。響の勤務が終わる時間になった頃、自動ドアが開いた。響が反射的にいらっしゃいませと言うと、そこにいたのはジュリアだった。響は驚いてジュリアに言った。
「ジュリア、どうしたんだ?」
「えへへ。響もうすぐお仕事終わるでしょ?迎えに来ちゃった」
ジュリアの気遣いに、響は思わず笑ってしまった。響が仕事を終えるので、さすがにレジに立っていた関田は、ジュリアの美しさに口をあんぐりと開けていた。関田がせっつくように言った。
「潮山!彼女は誰なんだ!」
響は返答に困ってしまった。響にとってジュリアは主人にあたるのだ。だが真実を言うわけにはいかない。響が言いあぐねていると、ジュリアが輝く笑顔で答えた。
「私は響の彼女です。響がいつもお世話になっています」
関田はぼう然としたように黙っていた。退勤時間になったので、響は着替えを済ませて裏口でジュリアと落ち合った。
響はおかしくてしょうがなかった。あの気に食わない職場の先輩、関田が悔しそうな顔で響をにらんでいたからだ。響は胸がすく思いだった。となりを歩くジュリアが言った。
「嬉しかったでしょ?先輩の鼻をあかせて」
響は身体をこわばらせた。自分の考えがジュリアに知られていたのだ。彼女は苦笑してから言った。
「私は響を吸血鬼にした。私と響の心はつながっているの。だから響があの関田って先輩が嫌いな事がわかったの」
響はいったんは納得したが、口をへの字に曲げて言った。
「俺はジュリアの気持ちがわからない」
ジュリアは幼い生徒に手を焼く教師のような顔で答えた。
「響はね、まだ吸血鬼になりたての赤ちゃんみたいなものなの。だから親である私が常に見ていないといけないのよ?響が吸血鬼として成長したら、意識をつなげるのを止めてもいいわ?」
つまり響は吸血鬼になったばかりの赤ん坊のようなものなので危なっかしいそうだ。これから響は吸血鬼の事を学ばなければいけないのだ。
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