眷属
響は美少女が何を言っているのか理解できなかった。彼女は響が吸血鬼になったのだといった。だとすると、彼女は吸血鬼だという事になる。にわかには信じられなかった。
美少女は響に手を差し出した。響が手を伸ばすと、彼女は響の手を掴んで立ち上がらせてくれた。響はとくに体調の変化はないと素直につげた。美少女は、最初はそんなものだとうなずいた。
美少女は響の家に帰ろうと言った。そこで響は焦りだした。もしも彼女が吸血鬼で、響も吸血鬼になったのだとしたら、朝日を浴びれば灰になってしまうのではないか。
焦った響の質問に、美少女はケタケタ笑って言った。
「そんなのはフィクションよ。お話を面白くするために考えられたの。確かに吸血鬼は夜型よ?でも人間でもいるでしょ?夜型の人と昼型の人」
確かにそういう人間もいる。かくいう響も完全な夜型人間だった。この際だからと響は、美少女に沢山質問した。
「ねぇ吸血鬼って、人間の血を吸うんだろ?吸われた人間は、」
そこで響は言葉をつまらせた。響が人間の血を吸う事により、その人が死んでしまうのだとしたら、響は吸血鬼として生きていく気にはなれなかった。
響が暗い面持ちでいると、美少女は笑って答えた。
「大丈夫よ。吸血衝動は一月に一回くらいだし、血を吸われた人間は、ちょっと記憶があいまいになるだけだから。ほら、蚊っているでしょ?虫の」
美少女の言葉に響はコクリとうなずいた。彼女は笑って言葉を続けた。
「蚊みたいなものよ。それ以外の食べ物は何食べても平気」
響はホッと息をはいた。人間を殺さなくてよいのなら、しばらく吸血鬼でもいいかと思った。
安心した響は、そこで一番の疑問を思い出した。
「ねぇ、君はどうして俺を吸血鬼にしたの?」
それまでニコニコと楽しそうにしていた彼女が、急にぎくりと身体をこわばらせた。響はジッと彼女を見ていた。彼女はコクリとつばを飲み込んでから言った。
「私、響の事ずっと見てたわ。小さい頃お父さんに殴られて泣いていたわね?孤児院でもなじめなくて、いつも一人でいたわね?孤児院を出て仕事をするようになっても、アルバイトで食いつなぐしかない。家族も、友達も、親しい人もいない。それなら私が欲しいと思ったの」
「欲しい?」
「ええ。響は誰からも必要とされていないんでしょ?なら、私にちょうだい。ずっと私の側にいるのよ?」
美少女の傍若無人な言葉に、響の心はジワリと温かくなった。彼女は自分を必要としてくれているのだと知った瞬間、確かに喜びを感じた。
響は彼女に問うた。君の名は、と。彼女は花が咲いたような笑顔で言った。
「私はジュリア」
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