俺が初めて好きになったひとは吸血鬼でした
城間盛平
誕生日の日に出会った美少女
まるで時間が止まっているようだった。潮山響は壁かけの時計をにらんだ。響の念力が通じたのか、秒針がゆっくりと動き出した。
これまでに来た客は酔っ払いに、夜勤明けと思われる顔色の悪い女性の二人だけだった。深夜に開いていてもこの程度の客しか来ないのだから、このコンビニはいずれ潰れる運命にあるだろう。
ようやく午前五時になった。響のアルバイトの終了時間だ。響はスタッフルームに入り、着替えを済ませると、自分に全ての仕事を押し付けてサボっている先輩にあいさつをした。
返事は返ってこなかった。いつもの事なので気にもとめない。響は重い足取りで自宅のアパートに向かった。自宅に帰っても、することといえば、賞味期限ギリギリの弁当を食べた後に寝るだけだ。
夕方に目を覚ましてシャワーを浴び、夜勤のコンビニバイトに向かう。それが響の人生の全てだった。
まるで自分はこの世に存在していないようだった。きっと、突然響がこの世から消えて無くなっても、誰も気にもとめないだろう。
響はアパートまでの近道をするために人気のない公園を通った。まだ暗い公園の中を通り抜けるのは少しだけ緊張する。突然暗闇からバケモノが飛び出して来たらと考えると、ゾクリと背筋が泡だった。
キィーッキィーッ。公園内でかん高い金属音がする。響はギクリと身体をこわばらせた。だが何の事はなかった。誰かがブランコをこいでいるのだ。
ブランコには少女が乗っていた。街頭の灯りで少女の姿がよく見えた。彼女は驚くほど美しい少女だった。
まだ高校生くらいだろうか。家出少女かもしれない。響は明け方にふつり合いな美少女の詮索をしながら、ブランコの前を横切ろうとした。
「ねぇ」
鈴の鳴るような声だった。遅れて自分は声をかけられたのだと気づいた。響はゆっくりと美少女に向きなおった。
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